“倒産寸前”相次ぐ世界で「勝ち組」になれた理由。日本に本格進出の気候テック・米パーセフォニCEOが語る

persefoni ceo kentaro kawamori

パーセフォニのCEO兼共同創業者のケンタロウ・カワモリ氏。日本に生まれ、2歳でドイツに移住。環境先進国・ドイツの田舎で育ち、サステナビリティへの関心は自然と高まっていったという。

撮影:三ツ村崇志

CO2見える化(CO2排出量算定)分野の世界的企業・パーセフォニ(Persefoni)が日本で本格的な展開を始める。

2020年1月にアメリカ・アリゾナ州で創業したパーセフォニは、2021年のシリーズBラウンドで、有力機関投資家やフランス最大の電力会社EDF、日本からも三井住友銀行など多様な企業から1億100万ドル(約140億円)を調達。累計資金調達額は1億4900万ドル(約200億円)を超える。

投資家や企業、有識者が注目の気候テックベスト100社を選ぶ「グローバル・クリーンテック100」に2022年から2年連続で選出されるなど、CO2見える化市場のリーディングカンパニーの一つだ。

日本に限らず、世界的にCO2排出量算定ソフトウェア・スタートアップが乱立するなか、パーセフォニがなぜ注目されるのか。パーセフォニのCEO兼共同創業者のケンタロウ・カワモリ氏が4月下旬、Business Insider Japanの単独インタビューに応じ、創業の動機や同社の強み、日本での今後の展開について語った。

(聞き手 三ツ村崇志、文・構成 湯田陽子)

パーセフォニとは何者か

パーセフォニの名を最初に世間に知らしめたのは、世界中のスタートアップが集うテクノロジーと音楽・映画の祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2021」のピッチイベントかもしれない。そのエンタープライズ&スマートデータ部門で最優秀賞を受賞した。

もっとも、カワモリ氏はそれ以前から注目されていた。シェールガス開発の先駆者として知られる米チェサピーク・エナジーの初代最高デジタル責任者だった2020年、世界を変革する30歳未満のイノベーターを表彰するフォーブスの「30 UNDER 30」にも選ばれていた。当時28歳だった。

カワモリ氏は、CO2排出削減を目的とした見える化(=Carbon Accounting、炭素会計)ソフトウェア企業を立ち上げた理由を

「炭素会計という分野がマーケットの一つのトレンドだったからです。つまり、投資家や規制当局がこの分野に注目していたから。それはいまも変わりません」

と話す。

それを肌で感じたのは、チェサピーク時代だった。アメリカ環境保護庁(EPA)はCO2排出量の多い産業に、CO2をどれだけ排出しているのかを示す炭素会計の開示を課していた。チェサピークも対象だった。

パーセフォニが4月下旬に日本で開いたメディア向けラウンドテーブルで、「EPAに求められた炭素会計の算出と開示で非常に難しい思いをした」と語ったカワモリ氏。だが、その苦労が新たなビジネスチャンスに気づくきっかけとなった。

「スプレッドシート(に手入力)で作業している企業が非常に多かったからです。いまもそうですが、当時はもっと多かった。ソフトウェアを開発すればバリュークリエーションができる。そう考えました」

それまでのキャリアでデジタル畑をステップアップしてきたカワモリ氏にとって、ソフトウェアによって課題を解決できる可能性があるという考え方は、自然なことだった。

カワモリ氏によれば、環境先進国のドイツで育ったことも大きく影響しているという。

「日本で生まれ、母がドイツ人だったこともあり、2歳でドイツに移り住みました。山と木に囲まれたドイツの片田舎で暮らすなかで、自然への愛着や気候問題に関心を寄せていったのはごく自然のことでした。

サステナビリティとテクノロジーに対するパッション、この二つを融合できるチャンスがパーセフォニだったのです」

「倒産寸前」ベンチャーが相次ぐグローバル市場

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2023年4月のメディア向けラウンドテーブルで、カワモリ氏は、プラットフォームの性能だけでなく「規制当局の情報に強いこと、また有能な人材をグローバルに獲得していること」がパーセフォニの大きな強みだと語った。

撮影:湯田陽子

創業から約3年。

バブルと呼ばれたスタートアップ黄金期は去り、その波は炭素会計分野にも押し寄せている。

カワモリ氏は、炭素会計分野では経営が厳しく倒産寸前のベンチャーが相次いでいると指摘。その理由を「企業に求められる炭素会計基準が厳しくなっており、ソフトウェアにも非常に高い技術が求められるようになってきたから」と語る。

「スタートアップ業界の一つの文化かもしれませんが、『Fake it until you make it』という『実現するまでは嘘でもいいから吹聴する』といった習慣があるんです。それがいいか悪いかは別として。競合他社はそういった形で顧客を獲得し、実際はコンサルまたは人手で炭素会計をするというようなビジネスモデルをとっているところが非常に多いんです。

でも、我々はそっちには行かず、長期戦略に基づいてR&Dにしっかり投資し、自動的に炭素会計ができるという本来の目的にフォーカスしてきました

スタートアップが勝ち残るには、長期的なビジョンと戦略に基づいて事業展開していくことが重要だ。

パーセフォニ創業前に、投資ファンドでアーリーステージのSaaS企業を対象としたベンチャーパートナーを務め、また共同創業したソフトウェア企業をコンサルファームに売却していたカワモリ氏は、それを身をもって知っていた。

「スタートアップにとって、投資家から資金調達をして何年かかけてしっかりと黒字化し、ベンチャーキャピタルに頼らないビジネスをつくり、1本立ちしていくことが非常に大事です。でも多くのスタートアップ企業が“死の谷(valley of death)”を超えられず、黒字化する前に淘汰されてしまうんです」

パーセフォニでは、2022年の第4四半期(10月〜12月)に、AIを搭載したサービスもローンチ。2023年4月には、データの異常値検知、データ不整合の検出と解決、ユーザーの活動データに基づく排出係数の推奨という3つのAI機能の搭載も発表するなど黒字化に向けた技術開発を着実に進めている。

R&Dと「安売りしない」戦略で1億ドルを調達

persefoni ai carbon accounting

パーセフォニの事業概要。

出典:パーセフォニ

カワモリ氏はスタートアップのビジネスの傾向として、

「調達した資金を回収するために躍起になり、ユニットエコノミクス(1顧客あたりの採算性)が悪い状況でも製品・サービスを売ってしまいがちです。そうするとベンチャーキャピタルに頼るサイクルになり、生き残りが難しくなってしまう」

と指摘する。だからこそ、パーセフォニでは「安売りはしません」と言う。

「幹部の中で『最低これくらいの値段でプロダクトを売っていく』という認識を共有し、まずはR&Dにかなり強気の投資をし市場のシェアを広げ、そこからしっかり黒字化していくという戦略です。投資家もそうした長期戦略を理解し、我々の成長を4〜5年スパンで考えてくれています」

投資家に恵まれたのは、偶然ではない。

カワモリ氏は3月、アメリカのポッドキャスト「Category Visionaries」で、2021年のシリーズBラウンドで1億100万ドルを調達した際「スタートアップバブルと言われた2021年という特殊な環境だったこともあり、シリコンバレーの投資家を意図的に避けた」と明かしている。短期に収益を上げることを求める投資家ではなく、炭素会計カテゴリーの重要性を知り、長期的な視野を持つ投資家を敢えて選んできたわけだ。

その結果、パーセフォニは「あと2年程度で1本立ちできる見通し」(カワモリ氏)になった。2023年4月時点で、大手の製造業、エネルギー業、金融業を中心に、グローバルで225社超の顧客を獲得。先述のポッドキャストでカワモリ氏は「2023年末にはその2~3倍の規模になる見込み」と語っている。

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