「離乳食提供」で炎上のスープストックトーキョーが見せた、「文化」をつくる企業対応とは

経営理論でイシューを語ろう

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今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。

スープ専門店のスープストックトーキョーが離乳食の無料提供サービスを発表したところ、賛否両論が巻き起こる騒ぎになりました。騒動を受けての企業側の対応を見た入山章栄先生は、「これは同社が“文化”をつくろうとしているのでは」と意図を探ります。

いったいどういうことなのでしょうか?

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飲食店に子連れで入れない問題

こんにちは、入山章栄です。

今回は本連載の担当ライターである長山清子さんの気になるニュースについて、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。


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ライター・長山

4月25日にスープストックトーキョー(Soup Stock Tokyo)が、店内でお金を払って飲食をする赤ちゃん連れのお客さんに離乳食の無料提供サービスを始めると発表しました。ところが「子どもがいる人だけ不公平だ」とか、「子連れの客が増えたら迷惑」「そんなことをするならもう利用しません」という反発も多かったそうです。

スープストックトーキョーはそれを受け、「離乳食提供は『世の中の体温をあげる』という企業理念に基づいてやっていることなので、これからも続けます」と継続を表明しました。入山先生は今回のこの騒動についてどう思いますか?


僕はスープストックトーキョーに大賛成ですね。その理由を言う前に、Business Insider Japan編集部の常盤亜由子さんは、この件をどう思いますか?


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BIJ編集部・常盤

この取り組みは、会社の姿勢が表れていて素晴らしいと思います。私も子どもがまだ小さいので、食事をしに入ったお店で周囲の視線が気になったという経験は何度もあります。


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ライター・長山

私は子どもがいないのでよく分かりませんが、そもそも外食で離乳食がメニューにあるところは、ファミレスなどにもないですよね。企業として差別化にもつながるし、目の付けどころがいいなと思いました。


なるほど。僕はこれは「文化」の問題だと思います。僕はスープストックトーキョーに強く賛成です。でも、文句を言う人たちの気持ちも分からなくはありません。なぜなら「公共の場で子どもをどう扱うか」は、文化によって違うからです。

例えば僕はアメリカに10年住んでいましたが、アメリカ人はよくも悪くも子どもや家族を非常に大事にする。他人の子どもでもです。どんな高級レストランに行っても子ども用のハイチェアが置いてあるし、自分たちのテーブルで離乳食を食べさせても全然かまわない。

それどころか、レストランでお母さんが自分の席で授乳をするのもOKなことが多い(ケープはかぶせますが)。子どもが泣こうが大きな声を出そうが、よほどでない限りは「うるさい」なんて誰も言わないです。むしろちょっと泣き止んだら「She is adorable!(かわいいね!)」と声をかけてくれる。

移民国家だからかもしれませんが、社会全体で子どもを大事にしようという文化が根底にある

同じように子どもに寛容なのが、実は中国です。

中国の人たちは本当に小さい子どもが好きですね。子どもが騒いでも気にしない。むしろ僕のような日本人からすると「さすがにうるさいな」と思うこともありますが、その代わりこちらの子どもも「かわいい、かわいい」とあやしてくれる。アメリカには中国人も多いので、僕はそういう経験をしてきました。

子どもを大事にするという点では両者はよく似ているから、中国人ファミリーにとってアメリカは住みやすい場所なのでしょう。

子どもと大人を峻別するヨーロッパ

ところが同じ外国でも、ヨーロッパはまったく事情が違います。ヨーロッパは国によっては、子ども連れで入れないレストランが厳然と存在します。だからそういう場所で食事をしたければ、もうその日は子どもをシッターに預けて、大人だけで行くしかない。僕も子ども連れでヨーロッパに行ったことがありますが、事前にレストランに確認するなど、お店選びには相当気を遣いました。

つまり子どもの許容度に関しては、その国の文化によるところが大きいのです。そしてわが日本はどうかというと、この点があいまいです。「子どもをレストランに連れてくるべきではない」という人もいれば、「子どもは社会全体で育てるものだ」という人もいる。つまり日本は子どもに対する扱いが揃っていない。コンセンサスができていないんです。

さらに言えば、スープストックトーキョーの「文化のポジショニング」も従来は定まっていなかったのかもしれません。

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