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「コンサル業界に興味はなかった」大手メーカーからアクセンチュアに転職した、本当の理由
アクセンチュアには、製造業を筆頭とした「ものづくり」の業界をデジタルの力で変革する組織がある。その名は『インダストリーX』。
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、AI、5G、ロボティクス、デジタルツインなど……業界のプロフェッショナルが集い、最新技術を駆使したアプローチで新製品の開発や物流オペレーションを支援している。
そんなインダストリーXに所属する伊藤彩氏は、日本を代表する大手メーカーから籍をうつした一人。コンサルティング業界は未経験、それどころか「興味もなかった」と言い切る。
なぜ彼女はアクセンチュアのインダストリーXで働くことを選んだのか、そして、アクセンチュアでの経験を経て、どうキャリアアップしていったのか。生の声を聞いた。
「製造業のデジタル変革」を推進する組織
2011年にドイツが国家プロジェクトとして発表した『インダストリー4.0』。
「第四次産業革命」とも和訳されるこの政策は、官民一体となり製造業のデジタル化を推進し、データやIoTを活用したDXで生産性を向上させるといったものだ。
アクセンチュアが提唱する『インダストリーX』は、そのインダストリー4.0のさらなる進化版である。「X」には数学でいう未知数、そして、さまざまな産業をクロスさせて新しい価値を生み出すといった意味が込められている。
よって、アクセンチュアのインダストリーX本部が手掛ける範囲は広い。
例えば企業の業務改革、組織再編、DX、グローバル化などの変革を支援することもあれば、現場のデジタル変革をデザインしたり、最先端のデジタルテクノロジーを駆使した新規サービス開発に携わったりすることもある。
そんなインダストリーXで働く一人が、2021年に中途入社した伊藤彩氏。前職は、聞けば誰もが知る大手メーカーだ。
「前職では、システムエンジニアとして商業向けのデジタル印刷機を作る部署に在籍していました。
そこで、印刷機のアプリケーションに組み込むソフトウェアを担当。ソフトウェア自体は海外子会社などが開発するため、彼らとの窓口となりながら設計や仕様を考えたり、テストしたりするのが主な仕事でした。場合によっては、自らアプリケーションを実装することもありました」(伊藤氏)
「不満はなかった」大手メーカーからアクセンチュアに移った理由
アクセンチュア インダストリーX本部 マネジャーの伊藤彩(いとう・あや)氏。
前職での仕事に大きな不満があったわけではない。先々の不安もなかった。そんな状況なら、転職しなくてもよいのではないか。その疑問に「強いていえば、世の中に対する好奇心も動機の一つです」と答える伊藤氏。
「前職は安定した大手メーカーで、人間関係も良かったです。
一方で、当時は組織がやや硬直気味で、コロナ禍の対応をとってももう少しスピード感があっても良いのではと感じる面もありました。
そのうちに、ほかの企業も同じようなものなのか、それとも自社が遅れているのか、気になるようになったのです。
新卒でずっと同じ企業に勤めていたので、いろいろな企業を見て、世の中の動きをもっと知りたくなったのかもしれません」(伊藤氏)
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デジタル人材が重宝される、時代の流れも味方した。自らコードが書けてシステムの設計や構築ができる。そのようなソフトウェアに精通した人材は、引く手あまたな状況だ。
伊藤さんも転職のアクションを起こすとすぐ、声がかかった。「アクセンチュアにインダストリーXという組織があるが、興味はないか」という話が舞い込んだと言う。
「もともとコンサル業界に興味があったわけではなく、アクセンチュアのインダストリーXについても、最初は『何をしているかよく分からない』という印象でした。
でも話を聞くうちに、製造業のデジタル化を幅広く手がけられることを知り興味を持ちました」(伊藤氏)
そしてアクセンチュアの面接では、自ら体験してきたからこそ感じる製造業への思いをぶつけた。
「日本の製造業は、かつての成功体験が大きいが故に苦しんでいる印象です。
特にデジタル化では遅れを取っている。しかし、企業内には優秀な人材が多く、知見も蓄積されている。これは前職での経験からも自信を持って言えます。
適切に活用すれば、まだまだ多くのことができるはず。
『技術とコミュニケーションで社会をより良くしたい。インダストリーXで働けば、日本の製造業に全体的に関わり、技術力を武器に盛り上げていくことができるかもしれない──』それが転職先に選んだ決め手でした」(伊藤氏)
入社後のプロジェクトで「退職」がよぎる……?
こうして、アクセンチュア インダストリーXの一員となった伊藤氏。しかし入社当初は、モヤモヤした気持ちもあったと明かす。
「アクセンチュアでは、プロジェクトごとにチームをつくる形で仕事を進めていきます。
最初にアサインされたプロジェクトは、エネルギー関連企業でのERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システム ※ の導入。
プロジェクト終盤の段階での加入で、最終的なシステムテストや障害修正などに携わりました」(伊藤氏)
※企業が持つ「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」などの重要資源を一元管理するシステム。
次に担当したのは、自動車部品メーカーのPLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)システム導入プロジェクト。主に要件定義など上流部分を担当したと言う。
「正直なところ、当時は仕事を面白いと思えていませんでした。
“技術で世の中を良くしたい”と意気込んで入ったのに、技術力はあまり必要とされない。
私の強みは、ソフトウェアの技術とそれをベースにしたコミュニケーションだと思っていて、その強みをあまり活かせていない気がしたのです。
もしかしてコンサル業界への転職は失敗だったかも……と退職がよぎったのも事実です」(伊藤氏)
キャリアは自分で切り拓くもの
そこで社内の相談先として頼ったのが「ピープルリード」。プロジェクト直属の上司とは別につくメンター的な役割の社員で、自身の中長期的なキャリアを相談できるナナメ上の存在だ。
伊藤氏は、そこで「もっと自分の強みを活かせるプロジェクトに入りたい」と相談し、さらに職位が高い上長を紹介してもらうことに。そこで、要件定義などの上流工程よりも開発・設計に近いことをやりたいと直談判したと言う。
上長は、社内のさまざまなプロジェクトを鑑みて最適なプロジェクトにアサインしてくれた。それが、エンタメ企業の製品システムのカスタマイズプロジェクトである。
「そのエンタメ企業に最適なシステムを選定し、導入するプロジェクトで、私自身は開発の一部も担当しました。
前職では主に製品に組み込むソフトウェアを担当していましたが、このプロジェクトではベンダーが扱うシステムの要素を理解することができました。
システムのカスタマイズも手掛け、非常に手応えを感じました」(伊藤氏)
そして現在、伊藤氏が携わっているのは、ハイテク企業の全社新システム導入だ。従来のシステムを新しいシステムに置き換え、データ移行するプロジェクトである。
このプロジェクトで出会った上司の言葉が、伊藤氏にとってさらなる転機となった。
「『コンサルタントの仕事は、決まった答えがあるわけではなく、常に自分の頭で考え、その場に応じた最適解を導く仕事』だと教えられました。
これまで私はどうしても技術目線で物事を考えがちだったのですが、コンサルタントとしての全体最適な考え方や視点も身につけられた気がします」(伊藤氏)
変化と多様性に溢れた毎日
前職のメーカーでは、手掛ける製品が決まっていてやることが明確だった。しかし、インダストリーXでの仕事は、それとは正反対だ。クライアントによって事業内容や要望もさまざまで、常に新しい挑戦の連続だと言う。
「多様なプロジェクトに携われるからこそ、見えてきたものや身につけられたスキルもあります。
もし前職に留まっていたら、良くも悪くも先が見えていたでしょう。
自分の仕事を自ら定義して、自己マネジメントしていく。それはアクセンチュア、そしてインダストリーXで働く醍醐味でもあります」(伊藤氏)
またもう一つ、インダストリーXに入って面白いと感じるポイントがある。それは人材の多様さだ。
「インダストリーXは中途採用も多く、さまざまな経験を持つ人材が集まっている組織です。
私のようにメーカーの技術畑出身者もいれば、SIer(システムインテグレーター)からきた人、もちろんコンサル一本でやってきた人もいて、多様性に富んだカルチャー。そういう意味では、コンサル経験問わず、何かしらの得意分野があれば活躍できる場だと思います」(伊藤氏)
伊藤氏は2022年12月、マネジャーに昇格。転職から2年、求められる役割や仕事にしっかりと応えたことが評価された。
「まだまだ年功序列型の日本企業も多いと聞きます。仕事量だけ増えて給料は上がらないという不満もある人もいるでしょう。
しかし、アクセンチュアではそれは当てはまらない。成果に応じた評価、キャリアがある会社です」(伊藤氏)
マネジャーとなり見据える今後とは? 最後にそう尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「入社以来、PLMのプロジェクトをメインに携わってきたこともあり、PLM導入のプロフェッショナルになりたいと思っています。
また長期的には、技術で世の中を幸せにしたいという気持ちはずっと変わりません。同じような希望を持った人がインダストリーXに増えて、一緒に働けると嬉しいですね」(伊藤氏)