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グーグル(Google)のデジタル広告ツールに、まもなく生成AIが搭載される。
2022年11月にOpenAIがChatGPTを一般公開して以来、テック大手各社は同様のテクノロジーを自社の広告ツールに組み込むべく白熱した競争を繰り広げている。
生成AIソフトウェアの価値は急騰の兆しを見せており、TDコーウェン(TD Cowen)による最近のレポートは、生成AIソフトウェアからの収益は2022年の10億ドル(約1400億円、1ドル=140円換算)から2027年までに810億ドル(約11兆3400億円)に急増すると予想している。
その儲けを手にしようと、テック大手各社の動きが慌ただしくなっている。マイクロソフト(Microsoft)はすでに同社の検索サービスBingにChatGPTを組み込んでおり、アマゾン(Amazon)は広告主向けにAIを活用して写真や動画を生成する仕組みをつくると発表した。そしてグーグルは今月、AIを搭載した新しい検索エンジンを披露した。
プロダクトに生成AIを続々搭載
グーグルの広告担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー、ジェリー・ディシュラー。
グーグルは今、生成AI競争において後れをとるまいと、さらなる大きな一歩を踏み出そうとしている。
年次カンファレンス「Google Marketing Live」の前日、グーグルの年間2240億ドル(約31兆円)の広告収入を牽引するプロダクトの責任者であるジェリー・ディシュラー(Jerry Dischler)はInsiderの取材に応じ、同社の新しい生成AIプロダクトによってマーケターが同社サービスを利用する仕方がどのように変わるかを語った。
グーグルは今後、広告主が生成AIを使用して「P-MAX」というキャンペーンの効果を向上できるようサポートする。
P-MAXはすでに、グーグルの各プロパティの中で消費者に最もアピールできる場所に広告を掲載するのにAIを使用している。これを生成AIで増強すると、広告主がチャットボットにウェブサイトを入力することでコピーや画像などのアセットを生成することができるようになる。グーグルは今年中にこのサービスの全世界での試験運用を始めるとしている。
P-MAXの生成AI機能。
このチャットボットは、P-MAXを使わずにGoogle広告を利用しているマーケターにも提供される。試験運用用の非公開ベータ版は米国でまもなくリリース予定だという。
生成AIのチャットボットでキャンペーンを制作することができる。
グーグルは、広告主が画像をアップロードすることで手動の場合より低コストでAIが別パターン画像を生成してくれるツールの公開も予定している。このツールを使うと、例えば画像の解像度を上げたり、夏を連想させたい広告に熱帯風の背景を追加したりすることができる。
画像の別パターンも自動生成できる。
グーグルは以前、同社の開発者向け年次カンファレンス「I/O」で、生成AIを搭載した新たな検索フォーマットをリリースすると言明していた。その言葉どおり、「Search Labs」内での試験運用ではあるが、そのフォーマットがお披露目された。Search Labsは今月オープンしたフォーラムで、米国のユーザーならばサインアップして新しい検索機能を試すことができる。
生成AIを搭載した新たな検索フォーマット。
ディシュラーは次のように語る。
「私たちは、このAI搭載広告へのシフトはデスクトップからモバイルへのシフトに匹敵すると見ています。変革的インパクトの可能性という意味でね」
アドテクへの生成AI導入は自然な流れ
広告代理店ノウン(Known)のデータサイエンス担当バイスプレジデントであるローハン・ラメシュ(Rohan Ramesh)は、生成AIツールは広告におけるゲームチェンジャーだと語る。
ラメシュは生成AIが広く広告業界に及ぼすインパクトに、「力量のないマーケターでも、以前なら到達しえなかったレベルの、それなりに洗練されたものをつくれるようになるだろう」と言う。
また、メタ(Meta)をはじめとするテック大手のプラットフォームが、これまで大量の小規模マーケターから広告料を集めることでプレゼンスを築くうえで、AIがいかに役に立ったかについても指摘する。
「メタが広告プラットフォームとして人気を集めたのは、それが圧倒的な数の人にリーチする最新の方法だったというだけでなく、ユーザーインターフェースが実に分かりやすかったんです」
ディシュラーによると、グーグルは当初、同社のAIツールはあまり洗練されていない広告主に重宝がられると想定していたというが、大手のマーケターも価値を感じるだろう。「設定が簡単なのは非常に魅力的だ」と彼は言う。
ディシュラーは、コンテンツを自動生成する生成AIをグーグルの広告プロダクトに導入している今の動きは、同社のAIの次の進化フェーズとして自然だと話す。
グーグルはすでにAIをさまざまな形で活用している。画像やコピーから重要な情報を落とすことなくディスプレイ広告のサイズをダイナミックに変更する、動画ツールの中で15秒広告や30秒広告を6秒に圧縮する、画像・映像の中の広告の対象を検出して水平あるいは垂直にトリミングする、などだ。
AIに関しては経験豊富なグーグルだが、2022年末に生成AIが世界的にブレイクした際には虚を突かれたと伝えられている。ニューヨーク・タイムズは、電子機器大手のサムスン(Samsung)が自社デバイスの検索エンジンをGoogleからChatGPT搭載のBingに切り替えると脅した際にグーグルが「パニックになった」と報じている。
Insiderの既報のとおり、グーグル社内で最近行われた全社会議では、同社は自社プロダクトにAIを積極的に導入しているものの、それで本当にユーザー体験が上がるのかと社員たちの間では懐疑的な声も聞かれる。
だがディシュラーは、グーグルのアドテクに生成AIを導入することは広告主の役に立つと考えている。
「私たちは、規模を拡大してより大きな価値を提供するために、こうしたテクノロジーを取り入れているんです」
もしOpenAIがChatGPTを公開しなかったとしてもグーグルは生成AIを自社のアドテクに導入していたかと尋ねると、ディシュラーはこう答えた。
「答えはイエスでしょうね。これは10年以上前から取り組んでいるものですから」
しかし、ディシュラーが言う生成AIプロダクトはまだ初期段階だ。グーグルは、まもなく試験運用が始まるこれらのツールを広告主がすでに試しているかについては明らかにしなかった。
「今はそのための土台作りです。今のところは画像や動画を生成できる汎用ツールですが、素晴らしい広告を制作するためにこれを使えるかどうか。やるべきことはたくさんあります」