「たまプラーザ テラス」にオープンするKuradashi(クラダシ)初の実店舗。
撮影:荒幡温子
フードロス削減を目指す食品系ECサイト・Kuradashi(以下:クラダシ)が、5月26日、東急田園都市線たまプラーザ駅直結の商業施設「たまプラーザ テラス」に同社初となる常設店をオープンする。
23日、報道陣に店舗の様子が先行公開された。
「街に誇りを持ってもらうきっかけに」
クラダシは、フードロス削減を目指し、本来流通しない商品を低価格で購入できるECサイトだ。コカ・コーラ、ネスレ、ハウス食品などの1300社と提携し、規格外商品や「3分の1ルール※」などで行き場を無くした“まだ食べられる”余剰在庫を販売している。消費者は商品を少しお得な価格で購入でき、売り上げの一部は社会貢献として活用される仕組みだ。
クラダシの経営戦略室室長・築地雄峰氏によると、もともとECでの展開を進めながら期間限定のポップアップストアなどを運営していたクラダシだが、「常にクラダシがある状態をつくる」必要性を感じたことから実店舗を検討。その中でもポップアップ時の売り上げが好調であり、自社が抱えるビジョンとの相性も良かったたまプラーザの店舗での展開が決まった。
常設店は「バラ売りで購入をより手軽に」
店内には、食品・化粧品を含む約300種類の商品を取り揃えており、順次500〜600種類へと拡充する予定だ。
撮影:荒幡温子
以前より開催してきたポップアップでは、設備上限界があったという冷凍冷蔵品の販売も強化していく。ECサイトでは24個セットとなるところを、1個から購入することができる。
撮影:荒幡温子
クラダシでは、これまでのオンラインでの購入はセットでの販売が基本となっていた。一方、常設店では1個単位で購入できる“バラ売り”が基本の販売方法となる。
以前より、一人暮らしの利用者からは、「近所や同僚に配らないと消費が追いつかない」という悩みの声も上がっていたといい、「お手軽に買っていただける」きっかけになればと店舗担当者は話す。
季節外れの鍋だし。
撮影:荒幡温子
夏に差し掛かる5月末の開店ではあるものの、店には季節外れの鍋だしが並ぶ。
他にも、たびたび過剰在庫の話題にのぼるクリスマスやバレンタインなどの季節商品も、クラダシでは遅れての販売となる。
ロス商品を扱うクラダシでは、常時販売しているものはない。時期によって、違った商品との出会いを楽しむことができるのも特徴の一つだ。
また常設店には、「クラダシの利用が、社会貢献へとつながる」という価値観を広げる体験も散りばめられていた。
店舗設計のキーワードとして挙げているのは、「見る・知る・関わる」仕掛けだ。
リアル店舗だからこそ「見る」「知る」「関わる」接点を
店舗全体の成果実績が確認できる「支援レポート」。
撮影:荒幡温子
店頭には、デジタルサイネージを設置。たまプラーザ テラス店のフードロス削減量とCO2排出量が毎日更新される様子を「見る」ことができる。店の顔となる場所に、社会貢献度を可視化させることで、「街に誇りを持ってもらうきっかけとしたい」と、築地氏は語る。
企業のコラボレーションブースでは、商品の魅力が伝わる展示に。2分の1の量で使える、「日清キャノーラ油ハーフユース」などが並ぶ。
撮影:荒幡温子
利用者がフードロスやSDGsについて「知る」ために、ECでは値引き商品に埋もれがちな「サステナブルな商品」や「企業の取り組み」の発信も強化。一定のスペースを取って陳列する
クラダシの買い物では支援先を選択できる。利用者がどんな支援先に興味があるのかが見てとれるだけでなく、支援先のデフォルト設定があるオンライン購入よりも「能動的な体験」になるという。
撮影:荒幡温子
購入者が社会貢献に「関わる」ことを意識する工夫として、EC同様に支援先を選択できる仕組みも導入した。会計時に「ボタン」が渡され、購入者はそれを支援先の書かれたボックスに投入することで、寄付金の送り先を選ぶことができる。
店頭ではフードドライブも実施。
撮影:荒幡温子
また、店頭では家庭で余った食品を回収し「フードバンクかながわ」に寄付する、フードドライブの取り組みも実施する。
「依然として実店舗の存在が大きい」
左からクラダシ経営戦略室室長・築地雄峰氏、社長・関藤竜也氏、東急モールズデベロップメント社長・佐々木桃子氏、執行役員・営業本部本部長・青木太郎氏。
撮影:土屋咲花
2014年の創業以来、クラダシの累計支援総額は1億600万円に上る(2023年度3月末時点)。会員数も、2022年12月時点で昨年から10万人以上増の46万人と、着実に成長してきた。
好調なEC事業の一方で、今回の常設店オープンに至った経緯について、築地氏は、「食品のEC化率は3.77%(経済産業省の「電子商取引市場調査」)と、依然として実店舗の存在が大きい状況」であることを強調した。
同社はこれまで、実店舗化に向けたテストとして、各地でポップアップを開催してきた。どの場所でも利用者の反響が大きかったことから、「常にクラダシがある状態をつくる」必要性を感じ、実店舗への展開を検討した。
「東急沿線は私たちにとって特別なエリア。フードロスをはじめとした、環境への意識は高いと感じています」
と、築地氏は初の常設店にこの地を選んだ理由を語る。
常設店の意気込みを語る経営戦略室室長の築地雄峰氏。
撮影:荒幡温子
これまで、東急グループの商業施設では、計7回ポップアップストアを展開してきた。
その中でも、沿線の商業施設では特に売り上げが好調だった。クラダシが東急沿線で支持を得られた理由は、数値にも現れている。
東急総合研究所によるSDGsワードの認知度の調査では、「内容まで含めて知っている」と答えた人の割合が53.1%と半数を超えた。これは、電通が同様の調査で発表した全国平均34.2%と比べると、20ポイント以上高い数値だ。
加えて、たまプラーザでポップアップストアを展開した際には、消費者から安さの理由やPOP広告への質問など、背景を理解して購入する姿勢の利用者が多かったことも、出店を後押し。もともとたまプラーザ テラスは、神奈川県の商業施設で初のエコマークを取得。廃棄予定の食品をLINEを通じて従業員間で分配する「MOTTAINAIテラス」や、衣料品のリユース・リサイクルのための回収ボックスの配置など、かねてより、商業施設の先頭に立ってサステナブルの実現に取り組んできた。クラダシとの相性も良かった。
東急モールズデベロップメント執行役員・営業本部本部長の青木太郎氏は、「出店者ということではなく、この街を作っていくパートナー」であると、クラダシの出店が地域にもたらす効果について期待を寄せる。
不定期で並ぶ地元・青葉区の農家の農作物たち。
撮影:荒幡温子
今後は両社の共創の一環として、東急と連携する地元・青葉区農家の規格外品や豊作の農作物を不定期で販売し、地域住民のさらなる環境意識の醸成に努めていくという。
実店舗拡大については、「たまプラーザ テラス店に全力を注ぎつつも、反響をもとに社内で議論していく」(築地氏)とし、将来的なオンラインとオフラインの購買体験の融合のための仕組み作りも進めていくという。