本記事の筆者、ケヴィン・パニッチ氏。
Courtesy Kevin Panitch
- 自分の現在のライフスタイルには制限が多すぎる気がしたので、私はFIREムーブメント(経済的自立・早期退職)の追求には興味がなかった。
- しかし「コーストFIRE」を知り、「これだ!」と思った。貯蓄を続ける心配をせず“惰性走行”でリタイアに向かって行くために、今のうちに必要なお金を貯めるという考え方だ。
- 退職に向けて十分投資をしていれば、実際にリタイアする年齢になる頃には退職資金は目標金額まで増えているはずだ。
質素な生活をしながら積極的に貯蓄・投資し、経済的自立と早期退職を目指すというFIREムーブメントについては以前から知っていた。
私はFIREの「早期退職」の部分についてあまり魅力を感じなかったが、「経済的自立」については以前から共感している。経済的な自立を達成し、お金の心配をせずに残りの人生を過ごせるのは、誰にとっても理想的ではないだろうか。
FIREムーブメントの概念の中で、私を含む多くの人を遠ざけているのは、経済的自立を達成するために倹約生活を送り、今の暮らしを犠牲にしなければならないという点だ。
その心配がないところが、私が「コーストFIRE(Coast FIRE)」に最も惹かれる理由だ。コーストFIREは、現在払う犠牲は少ないのにFIREの利点の大半を享受することができる、新しいアプローチだ。
「コーストFIRE」とは?
コーストFIREを達成するということは、退職のための貯蓄をこれ以上続けなくて良い状態に到達することを意味する。
従来のFIREは、収入がなくても退職できる状態を指すのに対し、コーストFIREは支出を賄うための収入はまだ必要だが、老後のための貯金の心配はもう要らない状態に達することを指す。
例えば、100万ドル(約1億3800万円)を貯めて65歳で退職することを目標にした場合、30歳の時点で貯金が20万ドル(約2700万円)あれば、コーストFIREを達成したことになる。
貯蓄が年5%成長すると仮定すると、貯めた20万ドルはこれ以上お金を足さなくても35年で110万ドル(約1億5200万円)に増えるので、自分の設定した目標額に到達し、十分な貯蓄と共に退職を迎えられるのだ。
もちろん貯蓄20万ドルだけで今すぐ退職することはできない。つまり、今はまだFIREを達成していない。しかし順調に退職へと進んでおり、これ以上貯蓄を続ける必要なく緩やかにリタイアに近づいて行くことができるのだ。
私がコーストFIREを目指す3つの理由
私は、経済的自立は柔軟性と自由をもたらすと考えているので、このコンセプトには以前から惹かれていた。コーストFIREを達成するとそのような柔軟性と自由を得ることができ、しかも従来のFIREに比べてやや簡単に達成できるところが魅力だ。
1. 柔軟性
コーストFIREを達成すると、支出が人生から永久になくなるのと等しいくらい大きな柔軟性を得ることができる。
例えば、家計の黄金比率として人気の「50:30:20ルール」は、手取り収入の50%を生活費に、30%を外食やレジャーなどの贅沢費に使い、20%を貯蓄に回すという家計管理を推奨している。だが、コーストFIREを達成すると、このルールを実践してきた人はもう収入の20%を貯蓄する必要がなくなり、その分以下のようなさまざまな選択肢が生まれる。
- より素敵な家に引っ越したりバケーションに行くなど、贅沢費や生活費に当てる金額を増やす。
- 給料が低めでもストレスの少ない仕事に転職する。
- タイトな予算管理、自由に使えるお金や臨時収入を追求し続ける必要がなくなるため、全般的にお金の心配が減る。
- 貯蓄と投資を継続し、より多くのお金を蓄えてリタイアする、もしくは予定より早く退職する。
このような選択肢と柔軟性を持てることが、コーストFIRE達成の最大のメリットだ。
2. 今強いられる犠牲が少ない
FIREを目指している人の大半は、FIRE達成のために現在の生活の多くを犠牲にしている。
バケーションの回数を減らしたり、長時間働き、経済的自立を達成するために細かくお金を管理して生活している人がほとんどだ。
一方で、コーストFIREの達成はもっと簡単だ。
前述の例からも分かるように、早期退職のために30歳までに100万ドル貯めなければいけないのと違って、コーストFIREは20万ドル貯めれば達成できるのだ。
もちろん、現在の年齢や目標とする退職年齢によってこれらの数値目標は前後するが、一般的にコーストFIREは従来のFIREよりも楽に達成でき、今支払う犠牲も少なくて済む。
3. 安心感
最後に、安心感を与えてくれるという点もコーストFIREがもたらす大事な要素だ。
コーストFIREを達成していれば、収入が減ったり、思いがけない支出が発生しても、ライフスタイルを維持するために退職資金への貯蓄額を減らす心配は要らない。将来のためにもう一銭も貯金しなくても大丈夫だと分かっているので、他の支出に費やす金額を容易に増やすことができるのだ。
その上、株式市場の成長が鈍化したり退職に向けた自分の要望が変わっても、それに対応するため投資を継続する時間がある。つまり、コーストFIREを達成したからといって必ずしも“コースト”(リタイアに向けて緩やかに進む)しなければいけないわけではなく、貯蓄を続け、退職に向けてより多くのバッファを確保するという選択をしても良いのだ。
2つのシンプルな戦略でコーストFIRE達成を目指す
1. 退職に向けた数値目標の設定
コーストFIREを達成するためにまずやらなければいけないのは、何歳で退職するか、退職時までにいくらお金を貯めるかという目標を含めたファイナンシャルプランを立てることだ。
これらの数値目標は変わることもあるかもしれないが、具体的な数字を設定することは、コーストFIRE達成のためにいくら必要か、何歳までにその貯蓄額が必要かを計算する上で不可欠だ。
私自身も現在、正式にいつコーストFIREに到達するか把握するため、自分の数値目標に向かって的を絞っているところだ。
2. 投資
投資していなければ、コーストFIREの達成はもちろん、リタイアすること自体非常に難しい。実際のところ、ほとんど不可能だ。
複利成長は魔法のようなものなので、私は確定拠出年金(401k)や個人の退職年金プラン(Roth IRA)、従来型の証券口座を活用して投資し、複利成長の恩恵を確実に得られるようにしている。