2019年に設立されたばかりの後発企業でありながら急成長を遂げ、23年3月期に売上高191億円を達成したのがタカマツハウスである。首都圏を中心に建売分譲、戸建用地分譲を手掛ける同社は、従来の住宅営業のイメージとは対照的な「落ちこぼれを作らない」組織作りで業績を伸ばしている。今回はタカマツハウスの藤原元彦社長と、稲盛和夫氏の右腕として京セラ副会長や日本航空(以降JAL)副社長を歴任した森田直行氏に、「全員経営」について語ってもらった。
落ちこぼれを作らない、タカマツハウスの「湧き上がる組織」
森田直行(もりた・なおゆき)氏/NTMC代表取締役社長 福岡県生まれ。1967年京都セラミック(現・京セラ)入社。アメーバ経営と情報システムの確立・推進を担当。1995年京セラコミュニケーションシステムを設立、代表取締役社長に就任。2006年京セラ代表取締役副会長就任。2010年稲盛和夫京セラ名誉会長とともに経営破綻したJALグループの再建に参画。日本航空副社長執行役員として経営改革、再建に成功。2015年より現職。 著書に『全員で稼ぐ組織 JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書』(日経BP)等。
森田直行(以下:森田):タカマツハウスについてお話をうかがった当初、設立からわずか4年で売上高191億円を達成したと聞いて私はびっくり仰天しました。しかもトップはイケイケの人物かと思いきや、藤原社長はとても思考が柔軟で、チャレンジ精神旺盛な経営者だと感じました。
藤原元彦(以下:藤原):私は以前から京セラ創業者の稲盛和夫さんが主宰する盛和塾や著作に影響を受けてきました。京セラやJALの再生で稲盛さんの右腕として活躍された森田先生のお話をうかがっていると、改めて企業の理念や考え方が非常に大切なのだと認識しています。
タカマツハウスは、髙松グループのブランド力と資金力を武器に、急成長を遂げました。加えて重要であったのが、優秀な人材の獲得と、人材が持っているポテンシャルを最大限に発揮してもらうことです。そこで我々は創業以来、「落ちこぼれを作らない」という考えに基づき、組織作りに取り組んできました。
これを私は「湧き上がる組織」作りと呼んでいますが、社員はみんな縁があってこの会社に集まり、成功したいという気持ちを持って仕事に従事しています。ですから、数字と期日の目標を明確にし、役割を分担して一枚岩となって仕事に取り組み、成果が上がったらきちんと褒める。そんな風に、社員を家族のように見立てて、愛のある組織運営を心掛けています。
森田:落ちこぼれを作らない、という考えはユニークですね。
藤原元彦(ふじわら・もとひこ)氏/タカマツハウス代表取締役社長。 1962年生まれ。1985年積水ハウス入社。国内戸建住宅事業の営業として年間契約棟数全国No.1など数々の記録を打ち立てた。北関東、東関東、神奈川の各営業本部長を歴任。2010年執行役員、2012年常務執行役員に就任。2019年に同社を退職後、タカマツハウス代表取締役社長に就任。同社を設立4年目で売上高191億円の企業に成長させた。
藤原:能力の個人差は必ずあります。成果の上がっている人間は忙しくしているのであまり声をかける必要がありませんが、そうでない人はどうしても独りぼっちになり、最後は退職に追い込まれてしまいがちです。我々はそうならないようにみんなで協力して声をかけ、家族のなかで落ちこぼれを作らないようにしています。これが人材の定着と育成、そして活躍につながっていきます。
具体的には営業の場合、月間行動スケジュール表で成果をあげるための行動、すなわちアポや訪問、面談件数等をすべて集計し、上長は日々の目標に対しどれだけ進捗しているか、何が足りないのかを共有しながらコーチングを行っています。また、我々は各月の真ん中に「中締め」を設け、中間時点での目標を設定し、会議で一人ひとりが全員の前で成果を発表します。進捗が遅れている場合は何が足りなかったのか、挽回するために何をするのかを発表して達成にコミットするとともに、出席している幹部、上長からは「こうすると成果が出る」と具体的アドバイスを行っていきます。
また、当社では営業部門全員のなかで何人が販売できたかの割合である「成約人率」という指標を重視しています。スーパーマン的な営業マンが1人で10億円販売するより、10人がそれぞれ1億円仕入・販売して10億円売り上げるほうが社内は活性化するし、1人の100歩より100人の1歩・2歩のほうが達成しやすく、企業の大きな成長につながっていくからです。
森田:いまのお話をうかがっていて、昔の京セラを思い出しました。稲盛さんは経営をはじめてしばらくたった頃、全員家族主義を唱えました。家族はどんなに喧嘩をしてもすぐ仲良くなれる。それと同じように激しく議論をしても恨みっこなしで、苦楽を共にできる高い信頼関係を持って仕事をしようと。
一方では稲盛さんは製造部門の各工程別に、1時間あたりの付加価値を算出する小集団部門別採算制度を導入しました。これがアメーバ経営に発展していくのですが、各小集団ではリーダーが中心となって経営計画を立てて実行するとともに、メンバーはそれぞれ目標を立ててその達成に邁進する。その結果、全員が目標達成に向けて力を結集する「全員参加経営」につながっていくわけです。
業種は異なりますがタカマツハウスは組織に活力を生み出すためにさまざまな取り組みを行い、全員参加を志向している点で、私の京セラでの経験と共通していると思いました。
社員に目標を押し付けて失敗する経営者、適切な目標設定のやり方で成功する経営者
藤原:ただ中締めや部門別採算制度というと、世の中にはメンバーを追い詰めるためのツールと思っている人もいますが、それは我々のやり方とは違います。
森田:やり方を間違っているトップは「今月はこの数字だ」と押し付け、社員から「うちの社長は毎月、無茶なことばかりいう」と求心力を失っていきます。京セラではそもそも各リーダーが計画を立て、それが達成できなかったときは、計画者に確認すると必ず「見直してきます」と言って、達成に自ら努力していました。これは自分たちで考えた計画だからこそで、要は各組織のリーダーに素晴らしい計画を立ててもらい、経営者はその実現を応援する形で運営していたのです。メンバーにただ数字を押し付けていたら、決してうまくいかなかったでしょう。
藤原:私も単純にリーダーが全体の目標を決めて、それを人数で割って「あなたの目標はこれ」と押し付けるようなやり方は否定していて、メンバーにはみんなで考えてそれぞれの目標数値を決めて、責任を持って取り組んで欲しいと言っています。
目標を自分たちで決めさせたら低いレベルに留まってしまうのではないか。そんな疑問を持つ方がいるかもしれません。しかし上司がきちんと対話をしながら、さまざまな数字や過去の実績を参考にしつつ、現実的かつある程度ストレッチした目標を決めていくので、低い水準に安住することはありません。
逆に私が若い頃は、目標と志は高ければ高いほどいいといって過大な目標を立て、月末になるとみんな達成できず上司が怒り出す、といった雑な目標管理が横行していましたが、それでは組織の活性化も個人の成長もありません。適切な目標を立て、それを超えていく力を身に付けていくことが大事です。
目指すは全員参加型の経営で「みんなで大きくしていく会社」
森田:全員参加経営を実践していくには、動機が善であることや正直さが大切になります。稲盛さんは事あるごとに「動機善なりや、私心なかりしか」と自らに問いかけていました。かつて長距離電話が自由化されたとき、稲盛さんは「日本の電話代が高いのはけしからん」といって第二電電(現KDDI)を設立しましたが、3か月くらい「私がやろうとしていることは本当に動機が善なのか。名声をあげるためにやっていないか」と自問自答したうえで決断を下していました。
この頃の京セラはまだいまほど大きくなく、他にトヨタや国鉄といった錚々たる企業が名乗りを上げたので「一番先に潰れるのは第二電電だ」と言われました。でも世評に反して最後まで生き残ったんですね。その理由として大きいのは、電話料金を安くして日本をよくしようと稲盛さんが本気で考えていたことが、周囲の人々や京セラ社員の心に響いたからです。昔は東京から鹿児島に電話すると、1分間で300円くらいかかったのです。
全員家族主義経営で社員を大切にし、人間関係もよかったので、当時は私も「稲盛さんがやるというからには応援しなければいけない」と思い、人事と話し合ったうえで部下に命じてどんどん電話契約を取っていきました。
藤原:仕事は正しく、正々堂々と真っ向勝負で行わないと力が付かないし、全員参加経営は成り立ちませんね。成果の横取りをアンフェアな形でやる人が得をして、正直者が馬鹿を見るような組織では信頼関係を構築できないからです。これは社内だけでなく、お客様や取引先との関係でも同じです。
森田:そもそも一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、生きがいを実感しながら働かないと、せっかく人間として生まれてきた価値がありません。よい方向に向かって前向きに進み、生き生きとした毎日を送ることが幸福への道です。単に一定時間働いて、お金をもらうだけの毎日では面白くもないでしょう。
生き生きとした毎日を送るためには自分の役割や目標を適切な数字に落とし込み、その達成に邁進していくのがよいと思います。というのは不思議なもので、人間は数字で目標を持つと夢中になる性質があるんですね。100メートルを走るのに、0.01秒を競うのに人生を賭ける人がいる一方で、逆に数字のない目標は熱心にやらないし、言われたことをこなすだけになってしまうんです。
今日の対談で藤原社長は稲盛さんの考え方を非常に勉強されていて、よく考えたうえで実践されていると思いました。しっかりした組織作りをされていて、運を持っているとも感じるので、タカマツハウスはこれからも大きく成長を続けていくのでしょう。
藤原:会社の目標としては中期計画として2024年度に売上高500億円、営業利益40億円を公表しています。この数字を実現するにはよい仲間を増やすとともに、正しく仕事をしてタカマツハウスのブランドを高めていく必要があります。まだ創業から間もないですが、同業者の方には「勢いのある会社」と認知度が高まっていて、それが優秀な人材を採用する武器にもなってきました。
現在の成長に満足して立ち止まることなく、シナジーが起こる組織を作り、社員が明日に向かって希望を持てる会社、みんなの力で大きくしていく全員参加型の会社作りに我々は引き続き邁進していきます。