マイクロソフト(Microsoft)のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)。
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マイクロソフト(Microsoft)の社内メッセージボードではいま、経営陣のある決定に対する従業員からの批判が相次いでいる。Insiderが独自ルートで確認した。
同社のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は5月10日、2023年の昇給(社内では成果による昇給を意味する「メリット・インクリーズ」の言葉が使われる)を凍結し、賞与と株式報酬に充てる原資を圧縮して過去の平均水準に戻すことを明らかにした。
Insiderが別途確認したキャスリーン・ホーガン最高人材責任者(CPO)を発信元とする社内メールによれば、経営陣は「(基本給以外の)特別な報酬」の支払い対象となる従業員を絞り込み、「(平均的な業績と評価される)ミドルレンジの従業員をもっと増やす必要がある」と管理職に指示している。
昇給凍結の発表から数日の間、従業員たちは社内メッセージボード上で不満をぶちまけた。
ある従業員はスプレッドシートを添付し、ナデラ氏の2022年の報酬総額5490万ドル(約74億円、1ドル135円換算)に対し、従業員年収の中央値は19万302ドル(約2570万円)、したがってナデラ氏は同社の平均的な従業員の289倍もの報酬を得ている事実を指摘した(数字は2022年の株主総会委任状参考書類から)。
マイクロソフトにコメントを求めたが、記事公開までに返答はなかった。
Insiderが確認した社内メッセージボードのスクリーンショットでは、別の従業員が次のように呼びかけていた。
「経営陣が顔を見せるたびに、私たちはこの不快な思いを伝えていく必要があります。アスク・ミー・エニシングのような(経営幹部に直接質問をぶつけられる)イベントや全社ミーティング、ソーシャルメディアへの投稿があるごとに、経営陣の判断(が従業員にもたらした不快)を思い起こしてもらいましょう。
従業員にこんなひどい仕打ちをすることが適切だと考えるに至った理由をぜひ聞きたいと思いませんか?」
別のスクリーンショットによれば、同社エグゼクティブバイスプレジデントでアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)から移籍してきた大物エンジニアのチャーリー・ベル氏は早速、5月16日朝のセキュリティ部門全体ミーティングで、社内メッセージボードでの呼びかけに応じた複数の従業員から質問攻めを受けた模様だ。
ある従業員は同ミーティング中にオンラインで次のようにコメントした。
「昨今の採用凍結や人員削減を経て、より少ない人数でより多くの仕事をこなすよう求められてきました。そして今度は、より少ない報酬でより多くの仕事をこなしてほしいという話です。
経営陣は従業員の貢献をきちんと評価できているのでしょうか?こうした労働環境を作り出しておいて、経営陣はどうやったら人材を手放さずにいられると考えているのでしょうか?」
また、社内では複数の従業員から、経営幹部の報酬には何らかの変更が(つまりは従業員同様の削減措置が)あるのかとの質問も上がっていた。
その点、ナデラ氏は社内メールを通じて、経営幹部にも同じ原則が適用され、昇給は凍結、賞与も減額すると回答している。
セキュリティ部門の全体ミーティングでベル氏が質問攻めにされた際の従業員のコメントを以下に抜粋しておきたい。
「従業員はみな怒り、失望し、経営陣に対する信頼はすっかり消え失せてしまいました。これからどうするつもりでしょうか?」
「(景気後退を控えた)この厳しい経済状況の中で、経営陣の皆さんは自分たちよりずっと数の多い従業員を支えるため、相当な報酬カットを計画しておられるのですよね?」
昇給凍結や賞与削減、大量解雇を経て従業員の士気がどれだけ落ちているか、これらのコメントから容易に想像がつく。
「従業員がいかにつらい思いをしているか、経営陣は現実から完全に目を背けているように私には見えます。現在のマイクロソフトはひどい職場です。経営陣はこの状況をどう打開するつもりなのでしょうか。(従業員の求めるものに対して)拒否するだけでは戦略とは言えません」
「これだけ士気が落ちた状態を経営陣はどう回復しようと考えているのでしょうか?現時点で言えば、私たちはどん底にいて、ここから抜け出そうにも希望の光が見えてこないように感じています。
「正直なところ、経営陣からポジティブな内容のメールを受け取ったのはいつだったか、もう思い出せないくらいなんですが!私たちが会社に留まるのを当然のことだと思わないでくださいね」
これらのコメントは、必ずしもマイクロソフト全従業員(2022年6月時点で22万1000人)の思いを反映していないかもしれないが、今回の報酬関連の措置を受けて従業員がどんな感情を抱いているのか、その一端をうかがい知ることができるのは間違いない。
このセキュリティ部門の全体ミーティングでは、オンラインのコメントには投稿者が表示されておらず、具体的に何人の従業員が参加したのかは不明だ。
エグゼクティブバイスプレジデントとして同部門を率いるベル氏はその場でこう語った。
「毎年の昇給も各従業員の報酬額も、需要と供給に応じて決まるものです。(その原理に基づいて)私たちは長年、他セクターで同等の経験や能力を有する従業員を大きく上回る報酬を受け取ってきたではありませんか」
ちょうど1年前の2022年5月、マイクロソフトは「競合他社に比べてそもそも株式報酬の支給レンジが低すぎる」といった社内からの批判を受け、人材引き留め策の一環として、給与引き上げの原資を倍増させることを発表した。
当時、マイクロソフトの広報担当はInsiderの取材に対し、次のようにコメントしている。
「当社は給与向けの社内予算をほぼ倍増させ、新人から中堅の従業員を主な対象として、株式報酬の支給レンジを最低でも25%増やします。今回の給与引き上げは従業員への総合的な報奨の一環として行われ、成果主義は従来通り維持されます。
インフレおよび生活費上昇の影響は織り込み済みで、今回の給与引き上げは同時に、当社の掲げるミッション、カルチャー、顧客や事業パートナーを支える、世界レベルの優秀な人材に対する評価を示すものでもあります」
マイクロソフトの人事評価サイクルは例年、4月の業績評価から始まり、8月15日には評価確定後の業績が各従業員の報酬に与える影響について通知が行われ、翌月15日に賞与が支給される。
なお、マイクロソフトの広報担当は最近、Insiderの別件取材に対してこんなコメントで応じている。
「ダイナミックな経済環境とプラットフォームの劇的変化が同時に起きる中、この大波を切り抜けるに当たっては、当社の従業員や事業、未来にどう投資していくべきなのか、重大な決断を下す必要があることを認識しています」