ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡が捉えた太陽表面の最新画像。
NSF/AURA/NSO
- 世界で最も強力な太陽望遠鏡が、太陽の不気味で神秘的な姿を捉えた。
- 消滅しつつある黒点、フィラメント状の構造、「ライトブリッジ」などが、これまで見たこともないような精密さで写っている。
- これらの画像は、ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡の能力の一例を示しているに過ぎない。
世界で最も強力な太陽望遠鏡が撮影した一連の最新画像によると、太陽は驚くほどフィラメント状の構造が多く、穴があるように見える。気味が悪いほどだ。
ハワイのマウイ島に設置されたダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡(DKIST:イノウエ望遠鏡)は、2020年に初めて試験観測が行われた。その年、観測史上最も高解像度の画像が撮影され、太陽の表面を詳細に映し出した。
その最初の映像(下)には、プラズマガスの対流によって生じる「粒状斑(りゅうじょうはん)」が写し出されていた。粒状斑ひとつでテキサス州ほどの大きさだ。だがこの映像は、まだほんの始まりに過ぎなかった(動画ファイルはこちら)。
イノウエ望遠鏡は、ガスの対流によって生じる「粒状斑」を捉えた。
NSO/NSF/AURA
アメリカ国立太陽観測所(NSO)は、イノウエ望遠鏡によって撮影された画像を2023年5月19日に公開した。これらは太陽のまったく新しい側面を映し出している。
刻々と変化する黒点
黒点を捉えた画像(下)を見たことがある人もいるだろう。
黒点は、周囲よりも温度が低いため黒く見える。
NASA Goddard on YouTube
しかし、このような黒点をイノウエ望遠鏡でクローズアップすると、まるで燃えるつる草で分厚く縁取られた地獄の底のように見える。
黒点のクローズアップ。中央の影を「暗部」、その周りのフィラメント状の部分を「半暗部」という。
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黒点では、太陽表面の磁場が強く、ガスの対流が妨げられるため、周囲より温度が低く、暗く見える。
黒点は穴ではないが、確かに穴のように見える。怪物が口を開けたような影の部分を「暗部」、その周りのフィラメント状の部分を「半暗部」という。
黒点の暗部(黒い部分)と半暗部(フィラメント状の部分)が、プラズマガスの対流によって生じる「粒状斑」に囲まれ、際立って見える。
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黒点は、太陽の表面で常に生まれ、進化し、消滅している。
そのため「まったく同じ黒点は二度と観測できない。どの黒点も『年齢』や『形成段階』によって少しずつ違っている」とNSOのシニアサイエンティストであるアレクサンドラ・トリチュラー(Alexandra Tritschler)は、Insiderに宛てた電子メールに記している。
NSOのプレスリリースによると、イノウエ望遠鏡は、まだその能力をフルに発揮しているわけではなく、現在は本格的な運用に向けた移行期にあるという。それでも、すでに十分な詳細を捉えることができており、上の画像の黒点はおそらく消滅期に向かっていることが示されている。
上の画像を拡大すると、大きな黒点に隣接する黒い部分には半暗部がないことが分かる。つまり、これらは暗部の断片であり、黒点が分裂し、消滅しようとしていることを意味している。
黒点が分裂し、消滅しようとしていることが分かるズームアップ画像。
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黒点で発生する爆発現象により、荷電粒子が噴出されると、地球上に磁気の大混乱をもたらし、時には通信の切断や電力網の破壊、GPSの混乱、人工衛星の軌道の乱れなどを引き起こすことがある。そのため黒点の観測が、宇宙天気を予測する上で重要になる。
別の画像では、黒点が崩壊する初期の兆候とされる「ライトブリッジ」が捉えられている。これは、明るく見える高温のプラズマが、黒点の上を横切る構造になっており、いずれは暗部が分裂すると見られている。
高温のプラズマである「ライトブリッジ」が黒点の暗部を横切って伸びている。これは、暗部が分裂する兆候と見られている。
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「小繊維」と「ポア」
黒点のようなものの姿も捉えられた。これは「ポア(小黒点)」と呼ばれ、太陽表面で磁場がまとまって存在する小さな黒い点だが、フィラメント状の半暗部が形成されるほどの強い磁場ではない。
NSOの発表によると「ポアとは、これまで半暗部が形成されたことのない、あるいは今後も形成されることのない黒点」と説明されている。
下の画像は、黒いポアの周りに筋状の模様がある様子が捉えられている。この模様は「小繊維(fibrils)」と呼ばれ、彩層(光球の外側を取り巻くガスの層)で見られるもので、ポアから発生したと思われるプラズマの流れを示している。
光球(太陽表面)に現れるポアの磁場の影響で、彩層に「小繊維」が現れると考えられている。
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小繊維を捉えたもう1枚の画像を見てみよう。これは、その下層の光球に磁場のネットワークがあることを示唆している。
小繊維(プラズマの流れを示す黒い筋)が集まった様子。これは光球にできた磁場のネットワークに沿っている。
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さらにクローズアップで見ると、まるで絵画のようだ。
小繊維のクローズアップ画像。
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太陽の静穏領域
太陽の動きが活発でない「静穏領域」は、下の画像のように見える。光球の下層から上昇してきた高温のプラズマが、光球表面に粒状斑を形成している。
太陽の静穏領域には黒点がなく、粒状斑で覆われているように見える。
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泡立つほど高温のプラズマが冷えると、密度が低くなり、粒状斑の間に見える暗い筋を通って下層に落ちていく。
光球表面に浮き上がった明るい黄色のプラズマは、冷えると密度が低くなり、暗い筋に沿って下層に落ちていく。
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NSOによると、これらの画像はイノウエ望遠鏡による最初の観測サイクルで得られたデータの「ほんの一部」に過ぎないという。イノウエ望遠鏡での観測により、太陽の磁場や、地球上で太陽嵐を引き起こす爆発現象の原動力について理解が進むだろうと科学者は考えている。
彩層に現れた小繊維。
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イノウエ望遠鏡は、今後とも太陽の素晴らしい画像を送り続けるだろう。
「望遠鏡の潜在能力を最大限に引き出すことで、これからエキサイティングなことが続くだろうと期待している」とトリチュラーは述べた。