行き過ぎた「つながりやすさ」は私たちに何をもたらすのか。35冊の本とともに考える社会と人の変容

旬感本考

提供:編集工学研究所

「山路を登りながらこう考えた。
知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」

 ー 『草枕』夏目漱石

先日、通っていた高校から同窓会の案内が回ってきた。高校生だったのはもう15年も前。卒業以来会っていない友人がほとんどという中で、同窓会に出席するかどうか悩む。しばらく会っていないからこそ、この「つながり機会」を大事にした方がいいようにも思うし、けれど行ったら行ったで、結婚はしたか子どもはいるか稼ぎはどうか魅力的な大人に育ったかという品評会は避けられない。結局、面倒だなという気持ちが勝って行かないことに決めてしまった。

「つながるべきか、つながらないべきか」というジレンマは、コミュニケーションテクノロジーの多様化や社会の流動化で「つながろうと思えば、つながれる」ようになったことでいっそう重圧を増している。一方、いつでも簡単に誰とでもつながれるからこそ、薄っぺらな接続ばかりに囲まれていないかと不安にもなる。心理学者のシェリー・タークルは、今の「常時接続の時代」において私たちは「Connected, but alone(つながっていても一人ぼっち)」になっていると言った。

つながっているのにつながれないという逆説は、なにもスマホ時代に初めて現れたわけではない。ハンナ・アーレントは、伝統的な共同体が失われた都市では「寂しさ」から逃れられず人々が他者依存を強めると考えたし、ディヴィッド・リースマンは1950年ごろのアメリカ社会を分析して、他人志向型になった大衆を「孤独な群集」と呼んだ。

人は一人では生きていけない社会的動物なのだから、私たちにとってつながりが重要であることは間違いない。それなのに、どうして時々息苦しさを感じてしまうのだろう。行き過ぎた「つながりやすさ」は、何をもたらしているだろう。さまざまな「つながりっぱなし」が常態化した今だからこそ、改めて「つながる? つながらない?」を問い直してみたい。

編集工学で「つながり」を多様に捉える

ほんのれん」では、毎月設定する問いに対して30冊以上の本を集め、本の視点を借りながら思考する。「つながり」は身近でありながら、意味やイメージを掴もうとすると指の間からするする流れ落ちてしまうようで、捉えどころが難しい。どこから切り込めばいいか悩んだ「ほんのれん編集部」では、まずは編集工学の方法を使って「つながりとは何か」をほぐしてみることにした。

編集工学では、「編集=関係の発見」と捉える。情報と情報の間に新しい関係を発見し、その関係性をたぐりながら情報同士を組み合わせて、新しい見方や意味を立ち上げる。シュンペーターの「新結合」や、ロジェ・カイヨワの「対角線の科学」という考え方とも通じる。

情報同士の関係を発見する際の秘訣が、物事を多面的に見ることだ。あるものの見方を多様に広げることで、そのまわりに広がる情報や意味のネットワークを呼び込める。

そこで活躍するのが、情報を「地」と「図」で捉えながら「連想ネットワーク」を広げるという方法だ。情報は、その情報の背景や文脈となる「地(ground)」の上に、その情報の図柄や意味となる「図(figure)」が乗った構造で成り立っている。連想ネットワークを広げて発想を柔らかくするときには、情報の「地」をいろいろに切り替えながら、「図」を動かしていく。

例えば「つながり」は、「家」を地にすれば「家族」や「ご近所付き合い」が図として浮かび、「会社」を地にすると「職場の人間関係」や「いまの仕事と10年後のキャリア目標の関連性」が浮かび、「スマホ」という地には「SNS」や「IoT」が連想される……というように、情報を構造的につかむことで、連想を広げるとっかかりが見つかりやすくなる。

こうして広げた連想ネットワークから、ほんのれん編集部では今回考えたい視点として「人と人をつなげる共感や利他」や「経済をつなぐ貨幣や贈与」「ソーシャルメディアのつながりすぎ問題」「人間以外の生物のつながり方」「未来のつながりテクノロジー」などを選んだ。この観点を考えるために、借りるべきは本の力。さまざまな領域から35冊が集まった。

コンフィギュレーション

収集した35冊の本をマッピング。一つのテーマを考える上で、関連する本を30冊ほど集めて並べることを編集工学研究所ではconfiguration(コンフィギュレーション)と呼んでいる。 ※画像をクリックすると大きな画像を表示します

イラスト:須山奈津希、デザイン:MIDORIS

デジタルなつながり:スマホ時代の閉塞感はどこから?

「どんどん接続しながら、私たちは孤独から逃避している。そのうちに、隔絶して自己に意識を集中する能力が衰えていく」

ー シェリー・タークル

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