5月25日、東京大学、京都大学をはじめとした全国にある10の国立大学の「理学部長」が共同で記者会見を開催。「ジェンダーバランスのとれた環境を実現し、多様な人材を育成する理学部に」と題した声明を発表した。
会見に参加したのは、北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、広島大学、九州大学の理学部長及びそれに準ずる組織の学部長。
理系女性、OECD加盟国最低の現実。どう変える
10の国立大学の理学部長が一堂に会して記者会見を開催した。
記者会見のスクリーンショット
日本は、理学部の学生に占める女性の割合が27.8%にとどまっている。これは、OECD加盟国の中でも最下位だ。
理系女性を増やすことは、教育機会の男女間での均等化や、学問領域として多様な意見を取り入れることの必要性から重要だとされている。また、文部科学省が女性教員や女子学生の割合を高める施策を促していることも、ここ数年の間に各大学で女子学生や女性教員の増加を狙った取り組みが増えている背景にある。
2022年には、名古屋大学や東京工業大学が入試に「女子枠」を設けることが大きな話題となった。
国立大学法人10大学理学部長会議声明文では、
「理学部では女子学生の比率が著しく低く、 ジェンダーバランスが実現できているとは言い難い状況」
としたうえで、
「理学部が人材育成の場として『多様性のある環境を提供できていない』ことを意味します。単に大学進学に関係する問題としてだけではな く、大学の重要な役割の一つである人材育成という観点からみても、深刻です」
と述べている。
声明では以下の2点を宣言。
1. 性別や国籍等の属性に関わらず、学びや研究を安心して進められる理学部をつくるために、環境を整備し、学生をサポートしていきます。
2. 理学部で学ぶことに対する不安を解消できるよう、理学部での大学生活や卒業後のキャリアパスの情報提供を充実させます。
10の国立大学の理学部が連携してこの問題に取り組むとした。
理学部の情報を「面」で発信
今回声明を出した各大学の理学部の男女比率。データは2022年度のもの。重点選抜群などで、まだ理学部への配属が決定していない年次の学生はここに含まれていない。
出典:大学改革支援・学位授与機構「大学基本情報」を元に編集部が作成
大阪大学理学部長の深瀬浩一教授は、記者会見でこれまで各大学で実施してきた男女共同参画に関するイベントや交流会、研修会などは継続しつつ、新たにポータルサイト「理学ナビ」を開設し、情報発信を強化していくと語った。
理学ナビでは、各大学が持っている理学部の面白さ・研究内容をわかりやすく伝えるコンテンツや、理学部のキャリアパス、キャンパスライフの情報などを集約して「面的」に紹介するという。
「女性に限ったことではなく、男子中高生や保護者、学校の先生などにも見てもらいたいと思っている」(大阪大学・深瀬教授)
Business Insider Japanがコンテンツ作成やコンテンツを拡散するための取り組みの予算確保状況について質問をしたところ、10大学共同で予算を拠出して独自のコンテンツを作っていくというよりも、まずは各大学が持つ既存コンテンツをうまく使っていく方針。コンテンツの拡散についても各大学の広報戦略の中で進めていくとの回答があった。なお、サイトの制作・管理は、男女半々で組織された国立10大学理学部長会議WGが担当する。
東京大学の安田講堂。裏手には、理学部の1号館がある。
撮影:今村拓馬
東京大学理学部長の大越慎一教授は
「これまでは個別の理学部のサイトを見るだけだった学生や保護に対して、各大学の取り組みを一覧性高く集めることで、ラインナップされたことによる迫力が出てくるのではないか」(大越教授)
と語る。
大学では、これまでにも理系女性を増やすためにさまざまな取り組みがなされてきた。ただ、それでも学部生の女性の割合はこの10年「フラットのまま」だったという。
今回の声明では、各大学ごとの数値目標などは定めていない。KPIを設定しない理由として、まだ目標値を設定する段階ではなく、まずは増加傾向に転じさせることが先決であるからだと説明があった。
なお、会見では参加した10人の理学部長が全員男性であることについても質疑が及んだ。大越教授は「責任のある立場の人間が宣言することに意味がある」として、今回はあえて各学部長が並ぶ形での会見になったと説明した。
今回は10の国立大学の理学部での共同声明となったものの、今後連携が取れ次第、ほかの国立大学などにも活動を広げていきたいとしている。