サステナブル先進企業のイケアが、最新の取り組みを紹介するストアツアーを6月に開催。通常は部外者立ち入り禁止のバックヤードにも入ることができる貴重な機会だ。
撮影:湯田陽子
イケアが環境月間の6月、大型店舗9店でIKEA Familyメンバー限定の「サステナブル・ストアツアー」を開催する。
温室効果ガスの排出量より削減量を増やす「クライメートポジティブ」を、2030年までに達成するという目標を掲げるイケア。この極めて野心的な目標に向けて、同社は普段からどんな活動に取り組んでいるのか。
5月25日、IKEA新三郷(埼玉県三郷市)でプレス向けツアーが開催された。屋上やショールーム、通常は「スタッフオンリー」のバックヤードまで、ストアツアーをひと足早く体験してきた。
2022年の温室効果ガス排出量は12%減少
今回はプレス向けということで、ツアーの冒頭、イケア・ジャパンCEO兼CSO(最高サスティナビリティ責任者)のペトラ・ファーレ氏らが、イケアのサスティナビリティ戦略と当日公表のサスティナビリティレポートの最新版について紹介した。
イケア全体の2022年のクライメートフットプリント(温室効果ガス排出量)はCO2換算で2580万トン、2016年に比べて12%減少した。2021年は過去最高の売り上げを記録したにもかかわらず、同期比5.8%削減したが、それを大幅に上回る削減となった。
イケア・ジャパンCEO兼CSOのペトラ・ファーレ氏。白いスモック風の装いはまるで割烹着のよう。意識したのか尋ねると、「まったく気づかなかった」と意外な様子。イケア発祥の地・スウェーデンのブランドのものだそうで、「スウェーデンがいかに日本のファッションに影響されているかが分かりますね」と笑みを浮かべた。
撮影:湯田陽子
ショールームの一角に「サステナブルショップ」
2Fショールームの一角に設けられた「サステナブルショップ」では、イケアの中でも特にサステナブルで価格もお手頃な商品を取り揃えている。
2階ショールームの一角に設けられたサステナブルショップ。
撮影:湯田陽子
イケアは2021年に使い捨て電池の取り扱いを終了。現在は、最大500〜1000回充電可能な充電池を販売している。
撮影:湯田陽子
イケアは2015年から、販売する電球をすべてLED電球に切り替えた。ソールヘッタLED電球(写真)の寿命は2万5000時間。このシリーズについては2022年にサイズ、形状、機能を拡充し、6200万個を販売した。
撮影:湯田陽子
ルームセットでも「サステナブルな暮らし」を提案
IKEA新三郷の特徴の一つは、イケア商品で部屋をコーディネートした「ルームセット」が48もあること。規模としてはイケアの中でもトップクラスを誇るという。
中には、サステナブルな暮らしをテーマしたルームセットもあり、さまざまなアイデアを提案している。
サステナブルな暮らしを提案するルームセット。
撮影:湯田陽子
エネルギーと水を節約するキッチンの提案。
撮影:湯田陽子
ゴミの削減や節約、資源の無駄遣いを防ぐ整理整頓のヒントも。
撮影:湯田陽子
バックヤードで見たリサイクルのリアル
いよいよ、普段は部外者が立ち入ることのできない「スタッフオンリー」のバックヤードへ。段ボールなどの分別やリサイクルで、イケアがどんな工夫を凝らしているのだろうか。
イケアでは、サーマルリサイクル(※)をリサイクルの定義から除外。マテリアルリサイクル(※)とコンポストの利用によって、2030年にリサイクル率100%を目指している。
※サーマルリサイクル:廃棄物の焼却時に発生する排熱を回収し、エネルギーとして再利用すること。
※マテリアルリサイクル:廃棄物を製品の原料として再利用すること。
現在、イケア・ジャパンのリサイクル率は73%。新三郷店では32品目に分別し、21品目をマテリアルリサイクルしているという。
イケアが最も排出しているのが段ボール。写真は平日1日分の量だとか。各店舗に設置した圧縮機で圧縮し運搬回数を減らすことで、輸送に伴うCO2排出の削減に努めている。
撮影:湯田陽子
段ボールの一部は、店舗に設置した機械を使って緩衝材へとリサイクル。店舗で購入した人に無料で提供しているほか、オンラインストアの商品梱包時に利用している。
撮影:湯田陽子
梱包に使うストレッチフィルムも、ラベルを手で剥がしてマテリアル素材としてリサイクルしている。リサイクル率は100%だ。
撮影:湯田陽子
「商品の寿命を伸ばす」サーキュラーマーケット
イケア・ジャパンは2017年に家具買い取りサービスを開始。これまで3万8000個以上買い取り、「次の持ち主にバトンをつないできた」という。
撮影:湯田陽子
CO2排出量を削減するには、物を長く使えるようにすることも重要な取り組みだ。
イケアの「サーキュラーマーケット」では、使用しなくなった展示品や販売終了商品などを手頃な価格で販売。コワーカー(イケアは従業員を「Co-worker(ともに働く人)」と呼んでいる)による家具の修理・メンテナンスを見学できるほか、サステナブルな暮らしに関するワークショップも実施している。
サーキュラーマーケットのバックヤードには、ナットやボルト、ネジなどのスペアパーツがずらり。イケアは、商品を長く使ってもらえるようスペアパーツを無料で提供しており、2022年は世界で2150万個以上、イケア・ジャパンでは1万8271個のパーツを提供した。
撮影:湯田陽子
1080枚の太陽光パネルがずらり
屋上に行くと、ずらりと並ぶ太陽光パネルが目に飛び込んできた。
イケア・ジャパンは2018年から、国内すべての店舗を100%再生可能エネルギーの電力で運営している。新三郷店では、屋上に380キロワットの太陽光パネルを設置。店舗運営に必要な電力の約10%を自家発電でまかない、残りは再エネ100%の電力を購入している。
省エネ対策も積極的に推進しており、グローバルで2030年までにエネルギー使用量を2010年比40%削減する計画。イケア・ジャパンでは、2022年に40%削減を達成した。
新三郷店の屋上には1080枚の太陽光パネルがずらり。ストアエントランスとオフィスにモニターを設置し、太陽光パネルによる電力供給の状況をリアルタイムで表示している。
撮影:湯田陽子
2025年までに配送車をすべてEVに
イケアは2025年までに、ラストワンマイル(※)のゼロエミッション(CO2排出量ゼロ)化を目指している。そのため、ラストワンマイルの輸送にEVを100%利用する計画だ。
※ラストワンマイル:物流の最終拠点(物流センターや店舗など)からエンドユーザーに商品を届けるまでの区間。
イケア・ジャパンでは現在、新三郷店と港北店(横浜市)、運送会社とあわせて計7台のEVを導入している。
撮影:湯田陽子
「サステナブルフード」づくしの試食タイム
ツアーの締めくくりは、試食タイム。
エンドウ豆由来のタンパク質や野菜からつくられた大ヒット作「プラントボール」、植物由来の原料だけでつくった煮込み料理など、サステナブルフードのオンパレードだった。
プレスツアーでは、大人気のプラントボールのほか、プラントベースに改良したバナナとチリの煮込み料理「空飛ぶヤコブさん」(右)など、イケア自慢のサステナブルフードを試食。ちなみに、「空飛ぶヤコブさん」はイケア独自のネーミングではなく、古くから親しまれているスウェーデンの家庭料理の名前だという。
撮影:湯田陽子
「環境に配慮しているから高いなんてあり得ない」という発想で、サステナブルな商品を手頃な価格で提供することを重視しているイケア。
フードメニューも例外ではない。例えば、牛肉と豚肉を使った「スウェーデンミートボール」が790円なのに対し、プラントボールは490円。ポークソーセージを使った「ホットドッグ」が100円で、大豆ベースの「ベジドッグ」は80円という具合だ(全て税込)。
この常識を覆す価格設定について、イケア・ジャパンCEO兼CSOのペトラ・ファーレ氏は
「サステナブルなアクションは私たちの暮らしをダウングレードするもの、と捉えてはいけません。また、サステナブルな商品や暮らしにプレミア価格をつけてはいけませんし、より多くの方々にとって手頃な価格でなければいけません」
と語った。
国際的なサステナブル認証を受けた天然のエビと養殖のサーモンをつかったグラスサラダ。小ぶりとはいえボリュームは十分。7月2日まで開催中の「サステナブルフード フェア」で、450円という驚きの安さで食べることができる(店舗により提供メニューは異なる)。
撮影:湯田陽子
サステナブル・ストアツアーは6月3〜4日、6月10〜11日の4日間、国内12店舗のうち新宿、渋谷、原宿を除く大型店舗9店で開催する(事前申し込み制)。
ツアー内容は店舗によって異なるが、IKEA新三郷のストアツアーでは以下の内容を予定しているという。プラントベースフードの試食や普段入れないリサイクルエリアは要注目だ。
- サステナブルな家での暮らしを実現するアイデアと商品(2階ショールーム)
- 健康的でサステナブルなイケアフード(1階スウェーデンフードマーケット)
- サーキュラービジネスへの転換(1階サーキュラーマーケット、ゴミ&リサイクル分別エリア)