フィンランドのエウラヨキにあるオルキルオト原子力発電所の3号炉。
Thomson Reuters
- エネルギーがマイナス価格に転じたフィンランドでは、再生可能エネルギー戦略が功を奏している。
- 新しい原子炉、そして予期せぬ洪水がクリーンエネルギーの供給過剰を招いている。
- ロシアとの関係を断ったフィンランド国民が使用量を大幅に減らしていた2022年と比べると驚くほど状況は変わっている。
2023年5月24日、フィンランドは異常な問題に対処していた。クリーンな電力があまりに豊富になってしまったため、エネルギー価格がマイナスに転じたのだ。
ヨーロッパの多くの国がエネルギー危機に直面する中、この北欧の国は5月24日の正午前にエネルギーのスポット価格がゼロ以下になったことを報告した。
フィンランドの送電網運営会社フィングリッド(Fingrid)のユッカ・ルースネン(Jukka Ruusunen)CEOがフィンランド国営放送(Yleisradio Oy:Yle)に語ったところによると、1日の平均エネルギー価格がゼロを「わずかに」下回ったという。
実際には、一般のフィンランド人が電気を消費してお金をもらっているようには見えない。人々は電気代を市場価格ではなく、協定料金で支払っていることが多い。
価格の下落の原因は、再生可能エネルギーが予想外に供給過剰になったことと、ロシアのウクライナ侵攻による危機感からフィンランド人がエネルギーの使用を控えたことだという。
ルースネンCEOはフィンランド国営放送局の取材に対し、「今では十分な電力があり、しかもほとんど排出ガスを出してない」と述べ、フィンランド人は「気持ちよく電気を使っている」と付け加えている。
わずか数カ月でエネルギー不足から供給過剰に
このニュースは、ほんの数カ月前まで国民にエネルギーの消費を節約するように促していた国にとって驚くべき展開だ。
「2022年の冬は、どこで電力を調達するかという話ばかりしていたが、今はどうやって生産を制限するかということを一生懸命考えている。我々は極端な状態から別の状態へと変化している」とルースネンは話している。
フィンランドは、ウクライナ侵攻後の世界的な反動から隣国ロシアからのエネルギー輸入を停止したため、エネルギー危機に直面した。
しかし、2023年4月に国内に新しい原子炉が稼働し、フィンランドの人口約550万人に新たな電力を供給することができた。
ザ・ナショナル(The National)によると、ヨーロッパで15年以上ぶりに新規に稼働したオルキルオト原子力発電所の原子炉オルキルオト3により、フィンランドの電力価格は、2022年12月の1MWh(メガワット時)あたり245.98ユーロ(約3万6920円)から、2023年4月の1MWhあたり60.55ユーロ(約9088円)と75%も安くなっている。
原子炉オルキルオト3の位置を示す地図。
Google Maps
フィンランドは2035年までにカーボンニュートラルの達成を目指しており、再生可能エネルギーの導入を推進している。ルースネン氏はナショナルに対し、フィンランドは2027年までに風力発電を主要な電力源にしたいと考えていると語っている。
北欧のいくつかの国で洪水警報が出るほどの過剰な雪解け水が、フィンランドの水力発電所を過剰に稼働させ豊富な電力を供給していることもエネルギー価格の下落につながっている。
「春の洪水の際には、生産のペースを落とすことができないため、このような強制生産が行われることが多い。大量の水のため、水力発電は春になると調整能力が低下することが多い」とルースネンは説明する。
現在は下がり過ぎたエネルギー価格に対処している
バルト海に浮かぶフィンランドの自治領オーランド諸島付近の洋上風力発電所。
OLIVIER MORIN/AFP via Getty Images
フィンランドは現在、エネルギーの供給不足とは逆の問題に直面している。電気の価値が発電コストを下回れば、エネルギー事業者はもはや正常に操業ができなくなるかもしれない。
「この価格で採算が取れない生産は、通常、市場から排除される」とルースネンは言う。
水力発電は速度を落としたり、電源を切ったりすることができないからだ。そのため、原子力のような他のエネルギーの生産者は、損失を出さないように、生産量を減らすことを検討している。
ルースネンは、これはフィンランド人が好きなだけエネルギーを使えることを意味すると述べている。