アマゾンのアンディ・ジャシーCEO。
Associated Press
生成AI(ジェネレーティブAI)の活用を急ぐアマゾン(Amazon)は、この新しいテクノロジーに関心のある企業顧客にアプローチする際に、機械学習(ML)における同社の長年の実績やそれに関連した一連のクラウドプロダクトを主なセールスポイントとして利用しようとしている。
この戦略は、Insiderが入手した『生成AIセールス・プレイブック』と題した詳細な社内セールスガイドラインに記載されているものだ。現在も「鋭意作成中」のこの12ページの文書には、顧客アウトリーチのためのメールテンプレート、さまざまな顧客を想定した会話マニュアル、OpenAIなどの競合他社に対してアマゾンをどのように位置づけるべきかのヒントなどが書かれている。
このプレイブックの説明によると、その主な目標は特定のプロダクトを売ることではなく、「プロダクト、コンテンツ、カスタマーエクスペリエンスの中で生成AI技術を使いたいと顧客に思わせる」ことだという。
アマゾンはこれまでAIに対しては中立的なアプローチをとっており、特定のスタートアップと関係を持つことや、OpenAIのChatGPTやグーグル(Google)のBard(バード)のような自社独自のコンシューマー向けアプリを出すことは避けてきた。
このガイドラインは、他社の幹部と会話を始める際や、顧客にSageMakerなどの新しいAIソフトウェアをAWSサービス上で導入してもらおうとする際に役立つことも意図している。SageMakerは2017年末に公開されたプラットフォームで、MLモデルの構築・導入を支援するものだ。
プレイブックにはこうある。
「顧客がソフトウェアやオペレーションの中に生成AI機能を統合する技術的作業を始められるように支援する。それらのソフトウェアやオペレーションはすべて、AWSが管理するMLサービス(SageMaker)を使用して顧客が導入するカスタムMLモデルによって動くことになる」
このガイドラインは、マイクロソフト(Microsoft)、OpenAI、アンスロピック(Anthropic)、グーグルなどの企業がリードしている生成AI分野にアマゾンが攻勢を仕掛けていく上で重要なものだ。この状況下で成功するために、ChatGPTのようなコンシューマー向けAIアプリのヒット作がないアマゾンは、成功しているAWSクラウド事業をかなり頼りにしているように見える。
アマゾンの広報担当者からのInsider宛てのメールによると、同社にはMLやAIにおける20年以上の経験があり、すでに多くのプロダクトがそれらのテクノロジーで動いているという。
この広報担当者はコメントの中で次のように述べている。
「アマゾンには生成AI技術を革新し、実験して試作している大きなチームがあります。AWSとアマゾンは何十年も前からAIやMLにおいて有意義なイノベーションを提供してきました。10万人以上の顧客がAIアプリケーションにAWSを利用しているのはそのためです」
「ChatGPTは実験的なプロダクトだ」
このガイドラインでは、独自の生成AIサービスを構築したい企業向けにSageMakerをどうアピールするかに焦点を当てている。例えば、これまで最大級の成功を収めてきた生成アプリケーションの多くを支えている大規模汎用AIモデルであるトップクラスの基盤モデルのいくつかに、SageMakerを通してアクセスできるようになるとされている。
ガイドラインにはこうある。
「スタビリティAI(Stability AI)、AI21ラボ(AI21 Labs)、アマゾンのAlexa、ライトオン(LightOn)、ハギングフェイス(Hugging Face)などが提供するものを含む、世界トップクラスの基盤モデルの多くは、SageMakerを通して使用できる。顧客はSageMaker JumpStartを通してこれらを簡単に始めることができる」
JumpStartは画像生成などの特定のタスクを可能にする事前学習済みAIモデルやツールへの素早いアクセスを提供するものだ。
ガイドラインはまた、アマゾンのセールス担当者に対し、2022年に最初のアプリであるChatGPTを公開したOpenAIなどの競合他社との比較で、アマゾンをより経験豊富な企業として位置づけるよう奨励している。アマゾンのガイドラインは、ChatGPTの絶大な人気、洗練された回答を提供できる能力、そしてその開発企業OpenAIの高速で低価格な大規模言語モデルのことは認めつつも、同社を経験の乏しいスタートアップとみなしているようだ。
「ChatGPTは2022年末に公開されたまったく新しい実験的なプロダクトである。それと比較すると、AWSは何年も前から、ミッションクリティカルなMLワークロードをアマゾンのSageMakerで行う数十万人の顧客を抱えてきた」
OpenAIのサム・アルトマンCEO。
Drew Angerer/Getty Images
アマゾンは他にも、マイクロソフトのAzure、グーグルのAI部門ディープマインド(DeepMind)、Google Cloud Platformを競合他社として挙げている。また、ChatGPTの潜在的なライバルでディープマインドが開発中のSparrowが言及されているほか、タンパク質の構造を予測する同社の革新的なテクノロジーであるAlphaFoldが称賛されている。
SageMakerだけではない。アマゾンは最近、新しいAI構築プラットフォームであるBedrockと、独自の基盤モデルであるTitanを公開した。また、以前Insiderが伝えたように、アップデート版の音声アシスタントのAlexaや新しい家庭用ロボットプロジェクトのBurnhamなど、ChatGPTと同様の機能を備えたコンシューマー向けアプリも多数開発中だ。
営業トークのサンプルも
ガイドラインには、さまざまな顧客を想定した営業トークのサンプルも載っている。
例えば、経営幹部に対しては、アマゾンのセールス担当者は、生成AIがいかに「業務を自動化することで効率を改善」できるかに重点を置くべきだとされている。より技術志向の幹部に対しては、「パーソナライズされたメディアリッチなコンテンツ」やMLモデルの迅速な導入などの方向に会話を持っていくように提案されている。
AIの概念に馴染みの薄い企業に対しては「可能性を実現する技術」的な会話から始めるようにとされている。「生成AIのサクセスストーリー」を通して経営幹部に興味を持ってもらえるという。
もう少しAIの知識がある相手に対しては、開発プロセスを加速する手段として新しい生成AI機能やAWSのプロダクトを勧めるよう助言されている。また、顧客の今後のAIプロジェクトについて知るために「双方向的なロードマップ・トランスペアレンシー・ミーティング(RTM)」を行うようにとの提案もなされている。顧客がすでに独自の生成AIアプリを構築中なら、技術トレーニングワークショップを行ってAWSサービスを紹介すべきだとされている。
さらに、セールス担当者が紹介に使える2つのメールテンプレートも掲載されている。1つは最初のアポイントを取るためのもので、もう1つは生成AI分野での経験がある潜在顧客向けのものだ。
シナリオ1:新しい幹部にメールを送る際、彼らとの最初の会話の扉を開くことを目的とする場合
件名:生成AIが貴社の [ビジネス/プロダクト/テクノロジー/マーケティング/デジタル] 戦略にもたらし得る影響について議論するためのミーティング
[顧客の名前] 様
お世話になっております。
AWSの [チーム名] の [自分の名前] です。私どものチームは、[スペース/産業/セクター] の組織のコアデジタル戦略やAI/MLの取り組みを支援することに力を入れています。
これまでお目にかかったことはありませんが、[会社名] 様が [メールを出す先の会社の役割に合わせた具体的な成果の案] のためにどのように生成AIを活用できる可能性があるかについて、いくつかのご提案があります。私は最近、[上記の関連事例を参照] に個人的に触発され、あなたの2つの会社の間にいくつか興味深い類似点があると考えました。
もしよろしければ、来週のご都合のよいお時間にお電話させていただき、少しだけお話しさせていただくことは可能でしょうか。きちんとした形で自己紹介させていただくとともに、生成AI導入に向けた貴社の取り組みにおいて私どものチームがどのようなお手伝いをできるかをお話ししたいと思っております。
ご検討よろしくお願いいたします。
[自分の署名]
シナリオ2:すでにAIやMLをビジネスで活用している顧客にメールする場合
件名:AWS + [会社名]|生成AIのための戦略
[顧客の名前]様
お世話になっております。
[会社名] 様が最近AIやMLで達成された成果に感銘を受けました。[達成した成果の例1] から [達成した成果の例2] まで、その結果は印象的なものです。最近よく耳にされているとは思いますが、AIの分野では新しいトレンドが出てきており、そのことについてお客様に是非ご紹介したいと思っております。
[会社名] 様はすでに [実現されたユースケース] のようなユースケースでAIを活用されていますが、お客様や貴チームは、よりメディアリッチなユーザー体験を作りコンテンツ生成の一部を自動化するために生成AI機能を活用することを検討されたことはありますでしょうか。私は個人的にはキャンバ(Canva)の最近のケーススタディに触発されました。同社はわずか数週間のうちに1億人以上のユーザーに向けてテキストから画像への変換機能を公開したのです。
最近、このような基礎的なML機能(StabilityAIやAI21などのML企業が提供している技術など)に対してお客様からの需要が高まっており、AWSはSageMakerなどのサービスを通してそれらを利用できるようにしているところです。
もしよろしければ、[来週のご都合の良いお時間に] 連絡させていただき、お客様や貴チームがどのように生成AIを活用しようと計画されているのかについて、また今後の取り組みにおいてAWSがより強力なパートナーになれる方法について、詳しくお話しさせていただくことは可能でしょうか。
ご検討よろしくお願いいたします。
[自分の署名]