画像/Mashing Up
社員一人ひとりこそが会社の資本であるとして、人に投資し、人の成長を経営に活かすべきだとする「人的資本経営」が注目されている。
その実像を探るため、2023年3月8日に行われた「MASHING UP SUMMIT2023」では、「持続的な企業価値を生み出す『人的資本経営』とは」と題したトークセッションを開催。
人的資本経営に取り組むポーラ代表取締役社長の及川美紀さん、味の素人事部人事グループシニアマネージャーの小池愛美さんが登壇し、サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリーを行うニューラルCEOで信州大学特任教授の夫馬賢治さんをモデレーターに、企業の実例を紹介しながら幅広い意見が交わされた。
「人的資本経営」は待ったなしの最優先課題
ニューラルCEOの夫馬賢治さん。日本のダイバーシティ&インクルージョンと人的資本を「待ったなしの状況まで追い込まれている」と見る。
撮影/中山実華
ダイバーシティの重要性がようやく普及してきた今、なぜまた「人的資本」という言葉が出てきたのか。これについて夫馬さんは、「日本では、金融庁から出てきた言葉」だと解説する。
「日本ではESGといえば環境の話だよね、という誤解が広まっていたのです。しかし、人を中心にした経営は海外では当たり前のように浸透していて、危機感を感じた金融庁が『人的資本経営』という言葉を持ち出しました。
政府が強制的に言うしかないというところまで追い込まれているのが、日本のダイバーシティ&インクルージョンと人的資本なのです」(夫馬さん)
選ばれる企業であり続けるために
ポーラ代表取締役社長の及川美紀さん(写真左)と、味の素人事部人事グループシニアマネージャーの小池愛美さん(同右)。
撮影/中山実華
ポーラでは、人材を「バリュークリエイター」と定義しているという。
「人材は企業のバリューを創り出す存在であり、すべての企業活動は一人の人と所属する組織、関わるステークホルダーやサプライヤーとともにあると考えています。
ポーラ・オルビスグループでは『A Person-Centered Management(“個”中心経営)』が核となっており、社員一人ひとりが最大のポテンシャルを発揮するには、すべての人が認められ、尊厳を持って働けることが絶対条件であるはずです」(及川さん)
味の素でも、持続可能な企業を目指す上での経営戦略の最優先事項に「人材」を据えている。
「魅力ある企業になるために、人材への投資は不可欠です。当社の場合は、多様で優秀な人材が集まり、良い企業活動が生み出される土壌を作るために、まずは働き方改革に着手し、就業時間を夕方の4時半までとし、その後2017年よりDE&Iを推進しています。
これによって若い方や既存社員に選ばれ続ける会社になり、その成果が自社だけでなく、社会にもインパクトを与え、貢献できることを目指しています」(小池さん)
データ開示を「目的」ではなく「きっかけ」にする
「多様な人材が活躍できる土壌を作るため、まずは働き方改革からスタートしました」と小池さん。
撮影/中山実華
「人的資本経営」という言葉の出現については、両社とも「また新しいキーワードが出てきたな」という感覚だったとのこと。だが及川さんは、「データを開示することになると、それがきっかけで気づきが得られる」と前向きだ。
「当社ではすでに女性の管理職比率は30%を達成しています。ただ、入社する男女比率は半々なのに、2割の女性が何かしらの理由で落ちていることが問題だと気づいたのです。つまり、スーパーウーマンは管理職になっているけれど、平均的な女性たちがリストアップされていない。
でも、男性は平均的な人もリストアップされているのです。人はいつ化けるかわからないのに、この状況はおかしいですよね。これに気づけたことが大きかったと思います」(及川さん)
小池さんは、「以前私が在籍していた外資の企業では、忙しくても性別に関わらず家庭のこともしっかり分担している方が多く、メリハリがしっかりしていた印象です。男性の上司が『今日はパートナーが出張だから』と子どもをおぶって出社することもありました。日本では女性ばかりが早く帰宅して家事育児をしている姿しか見えていない。そういうことが、日本での性別役割分担、すなわち女性へのアンコンシャス・バイアスがなくならない壁になっていると思います」と指摘。
さらに、「世界的には社内のダイバーシティにとどまらず、顧客インクルージョンやサプライヤーインクルージョンという領域まで議論は広まっている」と夫馬さん。両社の事例を聞いた参加者からも質問が寄せられ、いち早く「人的資本経営」を受け入れ、先に進むことの重要性が語られた。
MASHING UPより転載(2023年4月24日公開)
(文・取材)MASHING UP
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