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今回は、こちらの応募フォームからお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。
公立高校で教師を続けていくことに限界を感じ、転職の道を模索していらっしゃるとのことです。
Aさん
関東圏の公立高校で国語の教師をしています。新卒から20年近くこの仕事をしてきましたが、激務すぎてもう限界です。ここ何年か転職したいとぼんやり思ってはいるものの、自分のようなキャリアではつぶしがきかないため、途方に暮れています。どうしたらいいでしょうか。
(Aさん/40代前半/女性/公務員)
私自身が大学生と中学生の2男の保護者である立場からも、未来を担う子どもたちの育成に、身を粉にして従事してくださっている教師のみなさまには頭が下がる思いです。本当にありがとうございます。
私にも、教師をしていて転職した友人がいます。また、支援している企業やNPO法人などでは「元教師」という方にお会いすることがよくあります。
そして私自身も転職エージェントとして、学校法人の人材採用をお手伝いするケースもあります。
これらの経験も踏まえ、Aさんの今後のキャリアにどのような可能性があるかを探ってみましょう。
まずは、現在のお仕事の延長線上にある選択肢を挙げてみます。
教員として「私立」へ移る
教師をしている私の友人は、公立高校から私立中学に移りました。その転職が決まる前には、「もしかしたら小学校の教師になるかも」と言っていましたので、小・中・高の垣根を越えられる可能性もあるようです。
その方が言うには「私立に移ってすごく良かった」とのこと。理事長の考え方に共感でき、業務負担も軽減されたそうです。
業務負担の軽減につながるのは、公立の学校では先生方が本業の合間にこなしているようなことを、私立では「スタッフ」が担っているからです。例えば、広報などの外部対応、イベントの準備、課外活動での訪問先の視察(修学旅行前の試泊など)、受験会場での試験監督、進路相談など……。
私立の場合、学校によって多少の方針の違いはありますが、生徒やその保護者を「お客様」と捉え、自校が選ばれるためのブランディングや、満足度が高い教育環境整備に力を入れています。
そのための施策の企画・実施を専門スタッフが担うため、先生方は本来の「教育」業務に集中できるほか、雑務負担が少ない分、ワークライフバランスを整えやすい職場も多いと考えられます。
近年、事業会社では「働き方改革」が進み、柔軟な働き方の制度の導入が進んでいます。学校法人も、事業会社同様に先進的な制度を取り入れていることが期待できそうです。
私立学校の教員は公募されていますので、Aさんが教育ポリシーや教育スタイルに共感できる学校を探してみてはいかがでしょうか。
教育委員会など、公務員として別組織・職種へ異動
例えば「教育委員会」など、教員と同じ公務員資格の枠内で、別の組織・職種に異動する方法もあるかと思います。
実際、私が某県の教育委員会が主催するイベントに招かれた際、お世話になった運営担当スタッフの方が「もともと教員だった」とおっしゃっていました。
現在の公務員資格を活かせる道を探ってみるのも一つの手だと思います。
上記2つは、現在とは大きく仕事内容・環境を変えずに転職を実現する選択肢といえるでしょう。
教員の経験が事業会社で活かせる可能性も
このほかの選択肢として、「事業会社への転職」があります。
幅広い業種・職種を扱う大手総合型転職エージェントでは、教師の方からの転職相談をお受けすることも少なくなく、実際に事業会社に転職された事例も見られます。
どのような選択肢が考えられるかをご紹介しましょう。
前提として、20代~30代前半の方の場合、「未経験OK」の求人は豊富にあり、異業界・異職種へのキャリアチェンジも比較的容易です。
ただ、40代のAさんの場合、やはり「経験・スキルを活かして貢献する」ことが求められるでしょう。
Aさんは「自分のようなキャリアではつぶしがきかない」とおっしゃいますが、そんなことはありません。可能性がある選択肢を挙げてみましょう。
「教育」の経験を活かす:教育サービス企業へ
「教育」をテーマとして事業展開する企業は多数。教育の現場で仕事をしてきた方の知見を活かせるポジションは、探せば見つかると思います。
実際、私自身も教育・人材関連のベンチャー企業とお付き合いがありますが、「元教師」という社員の方にお会いすることもあります。
教育関連ビジネスのうち最も分かりやすいのは、小学生~高校生対象の「学習塾」「予備校」など。こうした企業では、教員経験をそのまま活かせるでしょう。
そして近年は、Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた「EdTech」を手がける企業も増えてきました。
eラーニングシステムなどの開発にあたっては、単なる「オンライン受講システム」にとどまらず、個々の受講者の習熟度や性格タイプに合わせて学習を進められるプログラム、脳科学や心理学のメソッドを応用したプログラムの開発など、多様な取り組みが見られます。
こうした新たな教育サービス事業において、教育の知見・経験が活かせるポジションの求人が出てくる可能性もあるでしょう。
例えば、教育機関などへの営業、カスタマーサポート、事業企画・開発、サービス企画などの職種のニーズが考えられます。
また、現在の収入維持にこだわらないのであれば、NPO法人で働く道も考えられます。
教育関連のNPOは数多くありますので、多くの報酬は期待できなくても、ビジョンや活動理念に共感でき、自分のペースで働ける職場を選べば、満足感を得られるかもしれません。
「寄り添う力」を活かす:カウンセラー・コーチ・カスタマーサービス職へ
教師として生徒や保護者に接してこられた方々は、「人に寄り添う姿勢」を大切に、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを工夫してきた方が多いとお見受けします。その姿勢は、「ホスピタリティが高い」とも言えます。
生徒や保護者の悩みや課題に向き合い、解決してこられた経験は、「サービス業」にも幅広く活かせるでしょう。
多様なサービス業の中でも、「人の成長支援」という観点でいえば、「キャリアカウンセリング」「キャリアコーチング」などの仕事もフィットすると思います。
これらは資格認定制度もありますので、トレーニングを受け、これまでの経験を組み合わせることで、活躍の可能性がありそうです。
志向によっては、さまざまな業種の「カスタマーサポート」「カスタマーサクセス」といった選択肢も考えられます。ユーザーからの問い合わせや相談に対応し、課題解決を図る仕事です。
アルバイトスタッフも多い業種であり、メンバーを育成するリーダー・マネジャーポジションには、異業界からの転職者も多数見られます。
「国語力」を活かす:広報関連職へ
Aさんは国語の教師とのことですので、文章力が高く、自分で書くことも好きであれば、「広報」関連ポジションでの採用可能性もあるかもしれません。
事業会社には、外部向けのプレスリリースや社内報、自社が運営するウェブサイト(オウンドメディア)の記事などを制作するスタッフのニーズがあります。広報関連部門でこうした業務を手がける道もあります。
転職活動を始めるなら「ポータブルスキル」の整理を
Aさんは「つぶしがきかない」とおっしゃいますが、20年の教員経験があれば、その中で「ポータブルスキル」=「業種・職種問わず持ち運びできる汎用スキル」が培われているはずです。それを洗い出し、「教育」の経験と組み合わせることで、活躍できるステージに出合える可能性があります。
例えば、生徒や保護者、あるいは学校が抱えた課題に対し、どのように向き合い、どのように考え、どのように解決を図ったか……など、具体的に振り返ってみてください。
それらの行動を、例えば「傾聴力」「課題分析力」「発信力」「働きかけ力」など、Aさんならではの能力に落とし込んで言語化してみましょう。それを、転職活動でのアピール材料として活用することをお勧めします。
自身のポータブルスキルを見つける方法については、この連載の第7回も参考にしてください。
ただし、生徒のことはよく分かっても、自身のことは客観視しづらいこともあります。転職エージェントも活用すれば、コンサルタントとの対話を通じ、自身の「強み」に気づけることもあります。
もちろん、経験・志向に合う求人を紹介してもらえる可能性もありますので、相談してみてはいかがでしょうか。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。