インベスター・デイに登壇したジェイミー・ダイモンCEO。
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2021年、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOがフィンテックに宣戦布告してから状況は大きく変わった。米銀最大手の同行は、テクノロジーへの多額の投資を続けている。
JPモルガンは5月22日、投資家向け説明会(インベスター・デイ)を開催、幹部たちはマディソンアベニュー383番地の本社に集まり、金利上昇、M&AとIPO市場の低迷、地方銀行の危機にもかかわらず、健全なビジネスを運営し、支出について決定していると投資家にアピール。顧客を守りながらビジネスライン全体のイノベーションを目指すため、特にテクノロジーへの投資が増え続けていると述べた。
同行のテクノロジー投資は今年、10億ドル(約1400億円、1ドル=140円換算)増の153億ドル(約2兆1400億円)にのぼると推定される。エンジニアの給与、サイバーセキュリティの強化、AIイノベーションなどが主な項目だ。一方、破綻したファースト・リパブリック銀行の買収を含め、地方銀行危機に関する負担は最終的に60億ドル(約8400億円)になるようだ。
インベスター・デイで提供されたチョコレートクッキー。
Hayley Cuccinello
ちなみに、顧客にチョコレートクッキーを提供することで知られていたファースト・リパブリック銀行の買収は、すでに成果を上げていると幹部たちは述べた。
JPモルガンは、かつてその支出をめぐって苦境に立たされたことがある。2022年のインベスター・デイでは投資家やウォールストリートのアナリストから厳しい質問が浴びせられた。
しかし今年は、アメリカを代表する大物経営者のダイモンCEOが登壇し、後継者や経営スタイルについての質問に答えるなど、盛況のうちに幕を閉じた。
後継者問題についてダイモンCEOは詳細は語らず、これまでと変わらないと回答。だが、後任CEOにふさわしい資質として、気概と勇気を挙げた。
67歳のダイモンCEOは、自身の経営スタイルに関する質問にも答えた。同氏は自分が「激しい性格」であることを認め、「私は変わるつもりはないし、ゴルフをするつもりもない」と述べた。さらに次のように付け加えた。
「激しさがなくなったときは、去るべきだと思う」
またダイモンCEOは、チームがこのインベスター・デイのプレゼンテーションを行う様子を見て誇らしく思ったと述べた。だが、チームにいつも感謝を示しているわけではないことを認めた。
同氏は『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく(原題:TED LASSO)』で知られる俳優のジェイソン・スデイキス(Jason Sudeikis)氏が同行のあるミーティングに出席したときのエピソードを披露した。
「直属の部下に感謝の気持ちを伝えるにはどうすればよいかと質問された。部屋には私の直属の部下が何人かいたが、皆、大笑いしていた」
「人は感謝されることが好きだ。私はその教訓を何年もかけて学んだ」
JPモルガンは数百枚のプレゼン資料を使い、成長戦略と支出戦略が正しいものであることを投資家に印象付けた。Insiderは、2024年のJPモルガンの課題とチャンスを最もよく表している12枚の資料をピックアップした。順に見ていこう。
2023年、テクノロジー関連投資は前年比10億ドル増
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グローバル最高情報責任者のロリ・ビア(Lori Beer)氏は、テクノロジー人材の「賃金インフレ」や銀行の近代化のための投資など、テクノロジー関連費用の上昇にはさまざまな要因があると指摘。「CCB(Consumer & Community Banking)への投資は間違いなく行われている」とリテールバンキング業務にも言及した。
「しかし、賃金インフレを忘れないでほしい。私たちはハイテク需要の時代を経験した。時間の経過とともに、この傾向は緩やかになっていくと考えている」
新規のテクノロジー投資は72億ドルに拡大
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ビア氏は、今年のテクノロジー投資は72億ドル(約1兆円)にのぼると述べた。うち40億ドル(約5600億円)は「顧客体験やクライアント体験の提供、製品開発をサポート」するもの。32億ドル(約4500億円)は「開発、データ・パブリック・クラウド、サイバーセキュリティなど、規模拡大のための会社全体のプラットフォーム」への投資だ。
サイバー脅威は増加
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「サイバー攻撃」の件数は増加しており、その分コストも増えているが、必要経費でもあるとビア氏は述べた。
「私たちはサプライヤーと連携して、サプライヤーにおける脆弱性を前年の2倍以上、事前に削減してきた」
「また、従業員や顧客に対するサイバーセキュリティの意識向上プログラムを強化し続け、ベストプラクティスを共有して、事前準備訓練を実施している。ここでの焦点は、具体的なビジネス価値をもたらすこと。自動化と効率化を通して、開発者の時間を確保し、クライアントのために最高かつ安全な製品の開発に集中できるようにしている」
AIに多額の投資
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JPモルガンは、AI(人工知能)への投資を続けている。
「リテール分野では、AIはクレジットカードのアップグレードなど、顧客にパーソナライズされた商品と体験を提供することをサポートしている。そして、昨年だけで2億2000万ドル以上の利益をもたらした」とビア氏は述べた。
「営業活動にAIを活用、ビジネスライン全体で顧客との関係を深めるためのインサイトを生み出している。例えば、商業銀行部門ではAIが成長シグナルや商品提案の提供を支援している。これらの取り組みによって、2022年に1億ドル(約140億円)の利益をもたらした」
AIのユースケース数は300以上
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ビア氏によると、使用しているAIのユースケース数を前年から34%増加させたという。現在、300以上のユースケースを使用している。
「大規模言語モデルによるチャンスを積極的に評価しており、大きな可能性を感じている」
地方銀行危機は最大60億ドルの負担に
JPMorgan Investor Day slide
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最高執行責任者(COO)のダニエル・ピント(Daniel Pinto)氏は、ファースト・リパブリック銀行の買収により、費用は「約25億〜30億ドル(約3500億〜4200億円)増加する」と述べた。同行は2023年の費用見通しを845億ドル(約11億8300億円)に修正している。
同氏はまた、地方銀行危機に関連する米連邦預金保険公社(FDIC)の費用は約30億ドル(税引前、4200億円)になると推定し、「2023年に発生するだろう」と述べた。
ファースト・リパブリック買収で純金利収入は30億ドル増加
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純金利収入は、銀行が預金に支払う金額と融資で得る金額の間のマージン。ファースト・リパブリック銀行を買収したことで、30億ドル(約4200億円)増加すると予測している。
買収でウェルス・アドバイザリー資産も倍増
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CCB(Consumer & Community Banking)の共同CEO、ジェニファー・ピープサック(Jennifer Piepszak)氏は、2023年のインベスター・デイで同行経営陣が「ウェルス・マネジメント(富裕層向けサービス)」に言及した回数についてジョークを飛ばした。
「『ウェルス・マネジメント』の発言回数は今日、間違いなく記録を更新している」
サンフランシスコを基盤とするファースト・リパブリック銀行は富裕層顧客に特化しており、同行の買収はその獲得が大きな狙いだ。
資本準備金を増加
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資本準備金も事業上のコストであり、預金流出や他の不測の事態に備えて十分な資金を確保するものだ。
COOのピント氏は、消費者がMMFをはじめ、より高い利回りを得る方法を模索しているため、「システム全体の預金は減少を続ける」と予想していると述べた。
「顧客にとってのメインバンクであり続けるために戦うが、預金残高を1ドル単位で追いかけるつもりはない」
投資銀行業務の手数料には引き続き圧力
JPMorgan Investor Day slide
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ピント氏は、投資銀行業務の手数料収入におけるシェアは低下しており、この傾向は今年も続く可能性があると述べた。
「私たちの見解では、2022年の業界全体の投資銀行業務の手数料収入は2019年と2020年の間に落ち着くと考えている。 つまり、800億〜900億(約11兆2000億〜12兆22600億円)ドルの間だ。2023年は、経済の不透明感や、数多くのM&A取引で規制当局の監視がこれまで以上に厳しくなっているため、もう少し縮小する可能性が高く、700億ドル(約9兆8000億円)付近になるだろう」
投資銀行部門の採用に2億ドル
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2021年、2022年のような投資銀行業務における積極的な採用はスローダウンしている。とはいえ、2023年も「Revenue producer」に2億ドル(約280億円)を費やす予定だ。
債券クリアリング事業には圧力
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債券クリアリング事業の損失については、債務上限問題のようなマクロ経済要因と同行における不振分野を指摘。投資銀行部門の幹部の一人は、金利と「インフレ下での単発的な取引」が不振だったと述べた。