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健康管理の初めの一歩は、体重計で体重や体脂肪率を測ること。
企業のCO2の排出量も同じで、削減するにはまず、いまどれだけ排出しているのか測定しないことには始まらない。
日本では2022年4月以降、東証プライム上場企業に対し、有価証券報告書における気候変動関連情報の開示が実質義務化。CO2排出量を自動的に算出できるソフトウェア(SaaS)を導入する企業が急増した。
しかし、サービスの種類がありすぎて、なかなか違いが分からない。そもそもどんなソフトが自社に合うのか、選び方が分からないという声も多い。
Business Insider Japanでは2023年5月、アスエネ、e-dash(イーダッシュ)、ゼロボード、booost technologies(ブースト・テクノロジーズ)の国内主要4社にアンケートを実施。各サービスの特徴や強みを聞いた。
各社の特徴と強い業種、料金プランは?
まずは、各社の概要と提供しているサービスの基本情報から。【表1】にある通り、各社ともすでに多くの顧客を獲得している。
【表1】主要4社のサービス概要 ※50音順(以下同)数値も各社の回答をもとに記載。
アスエネ | e-dash | ゼロボード | booost technologies |
|
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サービス名 | CO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービス「アスゼロ」 | e-dash | GHG排出量算定・可視化クラウドサービス「zeroboard」 | booost Sustainability Cloud(booost GX) |
顧客数 | 3300社以上 | 約3500拠点 | 2022年1月の発売から10カ月で2000社に導入。※以降の細かい数字は非公開 | 累計1000社以上、導入拠点数16.8万拠点 |
売上高 | 非公開 | 非公開 | 非公開 | 非公開 |
累計資金調達額 | 25億2681万円 ※資本剰余金含む | 三井物産100%出資 | 約25億円 | 14億3065万円 ※2022年1月31日現在。資本準備金含む |
対象のスコープ範囲* | スコープ 1・2・3 |
スコープ 1・2・3 |
スコープ 1・2・3 |
スコープ 1・2・3 |
強い業種・規模など | 大手企業全般、メーカー、建設・建築、不動産、物流、小売、金融など | 製造業が多いが業種問わず。多拠点展開の企業から中小零細企業まで幅広い利用実績あり | 製造業(主に自動車、化学品、日用品、食品、小売)、建設業、運輸業、金融、自治体 | 小売、アパレル、食品。イオン、 Zホールディングス、パーソル、 エディオンなど大手 |
料金プラン | 個別見積もり ※算定範囲、拠点数、オプションなどで変動 | 拠点数に応じて1万円/月〜(詳細は個別案内) | バリュープラン1拠点 18万円/年〜。算定支援付きプラン200万円〜 | 基本プラン数十万円/月~(商談で見積り)。数万円/月~のスターター向けプランあり |
*対象のスコープ範囲=基本プランで対応している範囲
4社のうち、アスエネとゼロボード、booost technologiesはスタートアップで、e-dashは三井物産の100%子会社だ。
アスエネとe-dash、ゼロボードの創業者兼代表はいずれも三井物産出身。
【図2】で示すように、企業自身が直接・間接に排出するCO2の多くは、電気の購入や燃料の燃焼に伴うもの(スコープ1・2)だ。エネルギーに強い三井物産で培った専門知識を持つアスエネとゼロボード、また現在もそのリソースを有効活用できるe-dashが、見える化ビジネスをリードするポジションにいる要因の一つかもしれない。
【図2】自社が直接的・間接的に排出するCO2(スコープ1・2)だけでなく、原材料の調達や製品の廃棄など(スコープ3)を含めた排出量の算定も求められている。
出所:環境省
一方、booost technologiesも、もともと電力マネジメント事業を手掛けていたため、そこで積み重ねた知見やノウハウは大きな強みと言えるだろう。
また、算定に必要な数値を抽出するには、ERP(基幹系情報システム)などとの連携も重要だ。連携可能な主なシステムを各社に聞いたところ、
- アスエネ:SAP ERPやMicrosoft Dynamicsなど、100種類以上の基幹システムや各種クラウドサービス
- e-dash: Sansan社のBill One、e-dash Carbon Offset
- ゼロボード:SAP、各種会計ソフト
- booost technologies:NTT Com「Flexible InterConnect」、TOKIUM請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」、NTTPC請求書おまとめサービス「トップクルーズ」
との回答があった。
多言語対応・削減支援…各社の強みと特徴は?
次に、各社に聞いた「他社にはない強み・特徴」を見ていこう。
※以下、アンケート内にある「他社にない強みや特徴について」の自由記述欄への各社の回答。
■アスエネの「他社にはない強み・特徴」
- 受注額ベースで毎月平均+90%超の成長、「業界最多」の入社数3300社を突破、提携企業数70社を超える
- シンガポールに現地法人を設立。APAC・世界でネットゼロを目指す企業への導入が急増
- 日本のCO2見える化企業として初めて、環境省の環境スタートアップ大賞「環境スタートアップ大臣賞」を受賞(令和4年度)。経済産業省「J-Startup」認定などを通じ、ルールメイキングや政策提言も
- 長野県小海町とカーボンニュートラル実現に向けた協定を締結し「アスゼロ」を導入、バイオマス発電・EV車導入などによる削減を支援。宮崎県では、複数農家のCO2排出量の見える化・削減プランの策定、 脱炭素ソリューションの検証も
- 地域企業の脱炭素経営支援を目指し、農林中央金庫をはじめ40行庫以上の金融機関と業務提携。脱炭素ソリューションパートナーとして30以上の事業者と提携
- ESG評価サービス「ESGクラウドレーティング(ECR)」との組み合わせにより、脱炭素経営とESG経営をワンストップで管理可能
「脱炭素のワンストップソリューション」を掲げるアスエネ。請求書などをスキャンすることで「業務工数を最大70%削減可能」で、「導入実績は業界最多」だという。
地方の脱炭素支援だけでなく、日本の見える化企業で初めてシンガポールに現地法人を設立するなど、 海外展開も積極的に推進。オプション機能として、英語、中国語(繁体字)、タイ語、ベトナム語、スペイン語にも対応している。製品・サービス単位のCO2排出量算定も可能だ。
■e-dashの「他社にはない強み・特徴」
- 請求書やエクセルなどをアップロードするだけで、e-dash側でデータ化。e-dashにアウトソースしながら、手間と時間をかけずに正しい情報を蓄積可能
- 可視化にとどまらず、削減手段に関する知見や実例も踏まえ、削減に向けた具体的なアクションの案内・提案・実行支援も提供。同じe-dash内で完結できる「一気通貫」のサービス
- 可視化に初めて取り組む人、多拠点を束ねて前に動かしていかなければいけない人、海外拠点も管理したい人。あらゆるニーズに対応し、密にコミュニケーションを重ねながら、安心して取り組んでもらえる丁寧な支援
多拠点展開の企業から中小零細企業まで、幅広い実績を持つe-dash。地銀・信金を含め150行庫を超える金融機関、また削減ソリューションを保有している事業者と提携し、見える化だけでなく削減施策の提案・実行支援も行っている。
総合エネルギーサービス事業を世界各地で展開してきた「三井物産のノウハウを総動員」できることは、大きな強みだ。
■ゼロボードの「他社にはない強み・特徴」
- 機能追加を随時行っており、2週間に1度機能アップデートを実施。ユーザーの要望に可能な限り早く応えるようにしている
- 大手企業の環境関連コンサルタントやESG推進マネージャー、自動車メーカーのLCA実務担当、食品会社の環境・サステナビリティ担当、自治体の温室効果ガス(GHG)算定担当など、サステナビリティ領域、脱炭素領域、IT領域など20名を超える脱炭素支援エキスパートチームを社内で組成。全方位に高い専門性で算定支援
- 自社で削減ソリューションをあえて持たず、GHGデータプラットフォーマーに徹している。さまざまな企業とアライアンスを組み、ユーザーにとって一番必要なソリューションを選べるように削減までの道のりを設計。そのため、ユーザーは多種多彩なソリューションから自社の課題に合ったものを選択・検討できる
SaaSらしく、機能のアップデートを頻繁に行っていることを挙げたゼロボード。導入実績は「プライム市場シェアNo.1」だという 。業界特有の機能を付帯したバージョンにも力を入れており、建設業界版はすでにリリース済み、物流業界向けのバージョンも開発中だ。
同社自身では、見える化の次のステップ「排出量の削減」を行っていない。ただ、削減ソリューションを持つ多くの企業と提携することで、ユーザーが自社の課題に合った手段を選べる形にしている。請求書スキャンに対応、製品ごとのCO2算定機能もある。
■booost technologiesの「他社にはない強み・特徴」
- 電力マネジメント事業からスタートしていた知見やノウハウを生かし、プロダクト開発、顧客のニーズに合わせた柔軟なカスタマイズ、コンサルティングサービスなどが可能。その結果、上場企業も導入
- プロダクト提供開始から約1年半で、国内のGHG総排出量の7.3%を算定・可視化
- 3年以内に、事業全体で東証プライム市場上場企業のシェア3割獲得が目標
booost technologiesは、同社の特徴として上場企業に強いことを挙げた。目標は「3年以内に、事業全体で東証プライム市場上場企業におけるシェア3割の獲得」。
データの初期登録代行など、効率的なインプットを支える機能を備える。また、海外拠点を持つ企業向けに235の国・地域ごとの排出量管理や25言語に対応。製品・サービス別の温室効果ガス(GHG)排出量の削減も可能だ。
カーボンクレジットの提供は?
経済活動をしている以上、排出削減努力だけでCO2をゼロにすることは難しい。どうしても排出してしまうCO2をゼロに近づけるにはどうしたらいいのか。注目されているのが、カーボンクレジットを使ったオフセット(相殺)だ。
カーボンクレジットの提供をしているのか、各社に対応状況を聞いた。
- アスエネ: アスゼロのオプションプランとして提供。 国内外の主要クレジットに対応 (J-クレジット、トラッキング付非化石証書、グリーン電力証書、海外再生可能エネルギー証書〈I-REC〉、JCMクレジット)
- e-dash:e-dash Carbon Offsetサイトを通じて提供。サイト上から海外のボランタリークレジットに加え、2023年5月末からJクレジットも必要な量を必要なタイミングで購入可能。非化石証書は問い合わせの上、入札で代理調達可能
- ゼロボード: 販売および仲介を実施。今後クレジットのマッチングプラットフォームを提供予定
- booost technologies:オプションで非化石証書購入予約サービスあり(スタータープラスプラン以上)
サービスの継続性・安定性に向けた戦略は?
2030年までに644億ドル(約9兆円)規模に成長するとも予想される「見える化」ビジネス。その期待感から、巨大テック企業からスタートアップまで大小さまざまな企業が参入しているが、海外では集約も始まっている。
継続的に安定して利用できるサービスなのかどうか。信頼性はソフトウェア選定の重要なポイントだ。
最後に、事業を安定化・スケールさせるための各社の戦略を紹介する。
■アスエネの主な戦略
- 2022年11月、CO2見える化企業として初めてシンガポールに現地法人を設立。APAC・世界で導入が急増
- 2023年2月、「日・シンガポール官民経済対話」に気候テックのスタートアップ代表として参加。同5月、シンガポールの政府系エネルギー最大手パビリオン・エナジーと業務提携し、同社が保有するボランタリーカーボンクレジット取引を実行
- 2023年5月、CO2見える化企業で初めて、プロダクトと機能開発を強化するためのグローバル開発センターをフィリピン・セブ市に設立。海外エンジニア採用を強化して、グローバル市場に向けたプロダクト開発を強化していく
■e-dashの主な戦略
- 排出量管理にとどまらず、エネルギーの最適化の観点も踏まえ、顧客ニーズに真摯に向き合った機能・サービスの継続的な拡充
- 提携金融機関や自治体との連携を深化しながらの地方の脱炭素化推進
■ゼロボードの主な戦略
- 提携パートナーのネットワークを活用した顧客基盤の拡大戦略と、パートナーとともに提供する脱炭素削減ソリューションなどのエコシステム
- 日系製造業の拠点の多いタイに現地法人を設立し、日系企業はもとより現地企業を開拓中。タイを起点にASEAN全体に広げていく
- GHGに限らないサステナビリティ経営のための管理ツールとしての展開を予定
- 人が介入しなければならなかった専門的な支援に、AIなどを活用したサポート機能を追加し、効率化・加速化を図る
■booost technologiesの主な戦略
- ESG経営への社会的ニーズに対応するため、CO2排出量の可視化をはじめカーボンゼロ・カーボンニュートラルの実現に向けた支援だけでなく、水や資源などの環境、人的資本などのソーシャル、ガバナンスのESG全般を管理できるプラットフォームを提供し、企業の価値向上に貢献する
※上記のアンケート結果は、回答の文意を変えない範囲で一部表現を整えています。