金融緩和による「低金利」を、いかに味方につけるか? 投資家と借手にベストな資産戦略とは

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金利が低いときに利益を得る方法はいくつかある。

Ippei Naoi/Getty Images

  • 利上げが止まない欧米とは異なり、日本の金利はここ数年最低水準で推移している。
  • 低金利は借手には有利に、預金者やインカム投資家には不利に働く。
  • 低金利を生かす方法としては、ローンの借り換えや債券の売却、不動産の購入がある。

欧米ではインフレ抑制のため、「政策金利」の利上げがなかなか止まらない。そんななか、日本の金利はここ数年最低水準で推移しており、日銀は現在、その他の金利が基準とする「政策金利」をマイナス0.1%としている

こうした低金利の原因は何だろうか? 日銀は国のマネーサプライ(通貨供給量)、すなわち国内で企業が借り入れられる通貨量を監督するという使命の一環として金利を調節している。利下げは金融緩和政策の一部だ。倒産や失業につながる景気の減速や後退に立ち向かうために、日銀は金融緩和政策を講じているのである。

理論的に言えば、利下げにより景気が刺激され、企業や消費者は借入や支出を増やし経済が活性化される。例えば、米連邦準備理事会(FRB)は世界金融危機の後、2008年から2015年まで政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利をゼロに据え置いた。日本では2016年に、短期政策金利をマイナス0.1%程度に、長期金利(10年国債利回り)の上限をゼロ%近辺に据え置く長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)が導入された。現在この長期金利の上限は0.5%となっている。

だが、低金利は個人の投資や貯蓄、負債にどのように影響するのだろうか? その答えはまちまちで、有利に働くこともあれば不利になることもある。だが全体として、低金利を生かすために対策を講じることは可能だ。

低金利を最大限生かすために知っておくべきことを順番に説明しよう。

低金利は資産にどのような影響を与えるか?

銀行口座を保有している人には悪いニュースだ。金利の引き下げは通常、預金金利の低下を意味する。預金口座であろうとマネーマーケットファンド(MMF)であろうと、現金の預け先の金利が下がるのだ。

一方、お金を借りている人には朗報かもしれない。クレジットカード・ローンなど変動金利ならば利率が下がる。借入残高全体には影響しないが、金利として支払う金額が減ることになる。

自動車や家など大きな買い物にローンを使おうと思っている消費者は、より有利な金利で借り入れできる。

一方、投資家は投資する商品によって影響が異なる。だが、大まかに言うと、低金利は株式投資家には好材料だ。金利が下がると消費者は支出を増やし、銀行は貸し出しを増やす。企業の売上高も増加し、事業拡大のためのローンが借りやすくなる。これらは株価上昇の要因となりうる。

低金利を味方につける方法

低金利の時には「安い資金」を活用するために取るべき重要な戦略がある、とマネーのプロは言う。

借手にとっての低金利戦略

  • 住宅ローンや学生ローンを借り換える:住宅ローンや学生ローンを借りている場合は、借り換えを考えよう。つまり、今借りているローンを返して新たに借りるのだ。新しいローンの金利はもちろん下がる。理想を言えば低金利を固定できる固定金利型ローンにしよう。借り換えには良好な信用状況が必要だが、借り換えができれば利払いに消えるお金をかなり節約できる。
  • 借金をまとめる:多方からクレジットカード・ローンや消費者ローンを借りて四苦八苦しているなら、おまとめローンが借金の管理に役立つだろう。おまとめローンは、複数の借金を1つにまとめ、毎月1回の支払いにするものだ。特に低金利を生かせれば、借金の返済がより管理しやすくなるだろう。
  • クレジットカード・ローンを移行する:米国にはバランストランスファー・クレジットカードというものがある。複数のクレジットカード会社に債務残高がある場合、新たにバランストランスファー・クレジットカードを作ると、既存のクレジットカード残高が新しいクレジットカードに移行される。通常そのメリットは、一定期間低い金利が適用されることだ。最初の12~21カ月間は金利がゼロというものもある。したがって、一時的な支払い(結婚式や旅行など)でクレジットカード残高が増えてしまったがすぐに返せるならば、こういうカードも選択肢の一つだろう。ただし、優遇金利期間が終わると、金利が跳ね上がることが多いので注意が必要だ。

投資家にとっての低金利戦略

  • 不動産を購入する:家の購入を考えているならば、金利が過去最低の時は住宅ローンを借りるベストな時だ。すでに持ち家を所有していたとしても、低金利で住宅ローンを固定できるなら、セカンドハウスやその他不動産への投資を考えるのも良いだろう。
  • 利子の節約を活用する:極めて低金利で住宅ローンや自動車ローンを借りているなら、返済しない方が良い。その代わり、追加「所得」を得ることを考えよう。つまり、ローン金利と投資商品の利回り格差を生かすのだ。例えば確定拠出年金の掛け金を増やすこともこうした戦略の一つだ。
  • 債券を売却する:金利が下がると債券価格は上昇する。新発債のクーポン(表面利率)が下がれば、クーポンの高い既発債の価値が上がる。したがって、債券から得られるクーポン所得が不要なら、この機会に「額面以上(オーバーパー)」で債券を利食い売りしよう、と投資のプロは言う。

低金利の時の投資先

インカム重視の投資家が、特に債券や固定金利の投資先を求めているなら、低金利環境は喜ばしくない。だが低金利であっても次のような投資が考えられる。

  • 高金利預金口座:金利が低い時は、大半の伝統的な預金口座よりも高金利預金口座の方が少なくとも預金金利が高い。資産形成には十分ではないだろうが、インフレで預金が目減りするのを見るよりはましだ。
  • 譲渡性預金(CD):金利が最低水準に下がる前に短期商品でそこそこの金利を固定したいなら、譲渡性預金(CD)が良いかもしれない。満期が短いものが多いので、仮に金利が上がってもインフレから貯蓄を守ることができる。譲渡は可能だが一定期間資産が拘束されることを前提として保有する方が良いため、低金利局面では金利がより高く、期間がより長いほど有利だ。ただし、満期が2年未満のものは最後に元利金が一括して払われることに注意しよう。また、通常1000万~5000万円で投資できるが、預金保険の対象外だ。
  • 社債および地方債:債券はボラティリティ(変動率)が低く、銀行預金やCDよりも利回りが高いため、固定利回りを求める投資家には魅力的だ。社債——企業が発行する債券——のクーポンは米国債や日本国債よりも若干高く、リスクもやや上がるが、それでも比較的安全である。都道府県や市が発行する地方債も国債より利回りが高い。
  • 不動産投資信託(REIT):金利が低下している時には、商業用不動産を所有・運営している上場投資信託への投資が賢明だろう。低金利は不動産に追い風だからだ。REITが低金利で借り入れるならば、建設を拡大し、プロジェクト数を増やし、すでに借りているローンの借り換えができる。どれもREITのパフォーマンス、ひいては投資家と共有する利益を押し上げる。

まとめ

低金利は預金者には嬉しくないかもしれないが、借金の返済には追い風だ。また、住宅ローンなど大きな買い物のための借り入れには特に有利だ。

一方、投資家への影響はまちまちである。ゼロ近辺の金利は、特にリターンが安定した低リスクの投資商品を求める、投資所得に依存する投資家にとっては有り難くない。だが、低金利環境での投資方法は数多くあり、少なくとも資産維持に役立つだろう。また、不動産や債券のような投資商品は、低金利環境で高いリターンを計上し、売却により利益を確定できる可能性もある。

※本記事は執筆者の知識と経験に基づいて資産運用のポイントをまとめたものですが、事例として取り上げたいかなる金融商品の売買をも勧めるものではありません。本記事に記載した情報や意見によって読者に発生した損害や損失については、筆者、発行媒体は一切責任を負いません。資産運用における最終決定はご自身の判断で行ってください。

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