5人のFPが本音を明かす、「FIRE」を巡る5つのキビしい現実

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どんなライフスタイルもそうであるように、FIREにも賛否両論ある(写真はイメージ)。

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  • FIRE信奉者は従来の金融アドバイスに耳を貸さないが、ファイナンシャルプランナー(FP)たちはそれでも構わないという。
  • しかし、FIRE達成のために極端な選択をして、老後に安定した生活を送るための資金を失ってしまう人も多いと、彼らは指摘する。
  • 医療費など最悪の事態に備えて資金計画し、完全な「引退」について再考することを彼らは推奨する。

「経済的自立・早期退職ムーブメント」、通称FIREは、元々ヴィッキー・ロビン氏とジョー・ドミンゲス氏のベストセラー『お金か人生か(原題:Your Money Or Your Life)』などの書籍に触発され、1990年代に広がり始めた思想だ。しかし、その後インターネットや金融系ブログの拡大により、ひとつのムーブメントとして形になっていった。

そして現在、ミニマリズムと早期退職の概念はほぼ主流になっている。だが、FIREムーブメントの背景にある考え方は、いまだに従来の金融アドバイス、特にファイナンシャルアドバイザーの助言とは相反するようだ。

今でも、早期退職を目指す人の大半はインデックスファンドに重点をおいて独自に投資する傾向があり、FIREの考え方を広めようとする人たちも、終身保険や年金などの金融商品や、ポートフォリオの最大1%ほどのわずかな手数料を毎年FPに支払うという考えに対して嫌悪感を抱いている。

これらすべてを念頭に、FIREムーブメントについて、そして彼らの助言に耳を貸そうとしないFIRE信奉者について、実際はどう思っているのか、5人のファイナンシャルアドバイザーに聞いた。

「FIREムーブメントは良いものだ。極端な選択さえしなければ」

「FIREの基本的な考え方はしっかりしたものが多いと思う」と、スイッチバック・ファイナンシャル(Switchback Financial)のファイナンシャルプランナー、マイケル・ケリー氏は答える。例えば、分相応の生活をするという点に関しては、FIREを実践していない人も見習うべき習慣だ。

さらに、「早期退職を目指す人は、退職するまで何十年も楽しいことを先送りにするのではなく、今の生活を充実させることを重視する傾向がある点も素晴らしい」とケリー氏は言う。

だが、残念なことに、FIREムーブメントを極端に実践し、自分の好きなライフスタイルを送るために、老後の資金を犠牲にしてしまった人も彼は見てきたという。

例えば、早期退職を目指す人の中には、退職後はキャンピングカーで暮らし、最小限の生活を送ることに憧れる人がいる。だが、彼らはそれを実施する過程で、老後のために長年貯めてきたお金にも手を付けてしまう。とても若いうちに「引退」してミニマリストのライフスタイルを送るためには、残りの人生を生きていくのに十分以上の貯金や投資が不可欠なのだ。

「極端な事例がとてもシンプルで魅力的に見えてしまう。それを実現できる人もいるかもしれないが、根本的なミニマリストの考え方を持っていない大多数の人がこのような危険な選択をすると、経済的に身動きが取れなくなってしまう」とケリー氏は危惧する。

「”早期退職”を、必ずしも目的にしてはいけない」

FIREムーブメントに対して複雑な気持ちを抱いていると、ハーモニー・ウェルス(Harmony Wealth)のファイナンシャルアドバイザー、マット・フィゼル氏は明かす。その思いの矛先のほとんどは、FIREの「早期退職」に関する部分に向けられている。

早期退職に向けて準備を進めているクライアントを数多く抱えるフィゼル氏は、彼らの大半が実は働くことを辞めたいと思っていないと指摘する。仕事を選択肢の1つにすることで、代わりに何か情熱を注げるプロジェクトを追求したいと考えているというのだ。

「私の若手クライアントは、経済的自立を達成することで、出世のために必死で働くことがなくなると考えている。そのうえで勤務時間を減らし、自分の時間を増やして、スタートアップと事業を展開したり、自分で起業できるというわけだ」と、フィゼル氏は語る。「仕事とは、自分の目的を果たすためのものであるべきで、単なる生活費を賄うためのものではない」

「社会の趨勢を見極めることも、FIREには欠かせない要素」

FIREムーブメントには数多くの利点があると、モザイク・ウェルス・マネジメント(Mosaic Wealth Management)のファイナンシャルアドバイザー、マット・ハッジンス氏は指摘する。実際、FIRE信奉者は早期に投資したり、収入に見合った暮らしをする習慣を身に着けることに力を入れている。しかし彼は、FIRE達成に向けた計画をどのように実行するかに深刻な懸念を抱いている。

例えば、FIRE信奉者は長生きする想定で計画を立てて欲しいと、ハッジンス氏は主張する。取材した当時、彼は祖母を99歳で亡くしたばかりだった。医療技術の躍進により、私たちの多くが今まで考えていたよりも長生きする可能性があるのだ。

その間、インフレや市場自体よりも速く、医療費が高騰することを彼は指摘する。

早期退職を目指しているのに、長寿や医療費の上昇を考慮した計画を立てていない人は、いずれ苦境に陥るだろう。そして、それに気付いた時はもう手遅れなのだ。

「FIRE信奉者は、“最善を望み、最悪に備えよ”」

FIREムーブメントが本格的に始まったのは、この10年の話だとパール・プランニング(Pearl Planning)のファイナンシャルアドバイザー、メリッサ・ジョイ氏は指摘する。つまり、FIREの人気は長期の景気後退や下降傾向の株式市場を経験していないのだ。

実際、2008年以降ダウジョーンズ工業株30種平均指数(DJIA)がマイナスになった年は2回だけで(2015年に-2.23%、2018年に-5.63%)、S&P500も同じ年に同様に下落した(2015年に-0.73%、2018年に-6.24%)。一方でこの10年間は、誰もが知っている通り株式市場は強気市場が続いている。2021年だけで、ダウジョーンズとS&P500はそれぞれ16.32% と25.08%上昇した(本記事の執筆時点)。

早期退職に向けて資金計画を組むということは、市場が良い時も悪い時も乗り越えて行けるポートフォリオを構築することにつながるが、過去10年は非現実的な例として考えた方が良い

「堅実な資金計画で次の大不況を乗り切れる人もいれば、耐えられない人も出てくるだろう」

「FIREのおかげでパーソナルファイナンスが“クール”になった。だが、誰にでも実現できるものではない」

「金融リテラシーとファイナンシャルプランニングは、夕食会で父親が話すような退屈な話題と思われていた。だが、FIREムーブメントのおかげで、クールで新時代にふさわしいものという認識に変わった」と、ザ・クリスチャン・リタイアメント・ショウ(The Christian Retirement Show)のファイナンシャルアドバイザー、エリック・シュラム氏は、最後に言う。

しかし、実際FIREを目指しているのは、すでに経済的にゆとりのある専門職の富裕層が大半を占めていると、彼は指摘する。それ自体は悪いことではないが、FIREムーブメントとその中核的な思想が広がり続けることを、シュラム氏は願っている。

「高収入のミレニアル世代のあいだで、FIREをきっかけに始まった金融リテラシーに対する意識が低所得者層にも広がり、彼らも経済的成功を収められるようになったら嬉しい」



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