バーンアウトがきっかけで人生に変化… アメリカからスウェーデンに移住した、あるコンサルタントの暮らし

テス・マイヤーさん

テス・マイヤーさん。

Courtesy of Tess Meyer

  • テス・マイヤーさん(30)はアメリカのカリフォルニア州出身のコンサルタントで、バーンアウト(燃え尽き症候群)に苦しんだ後、スウェーデンに移住した。
  • 今では残業はまれで、年に6週間分の有給休暇ももらえる。修士号もタダで取ることができた。
  • ただ、フルタイムの仕事を手に入れるまでには2年かかり、給料はアメリカにいた頃よりも少ないという。

※この記事は世界各地のミレニアル世代の今を追う『Millennial World』シリーズの一環です。カリフォルニア州出身のコンサルタントでブログ『Sweden and Me』の著者でもあるテス・マイヤーさん(30)への取材をもとに聞き書き、編集したものです。

カリフォルニア州バーバンク出身のわたしがスウェーデンに移住したのは、今から4年半前のことだ。パートナーとわたしは現在、デンマークの首都コペンハーゲンから30分ほどの距離にあるスウェーデンのマルメという都市で暮らしている。

アメリカで生活していた頃は週に50時間働き、バーンアウトを感じていた。23歳の時、4年間勤めた会社を辞めて実家に戻った。

幸せについて調べ始めたのはこの頃だ。グーグルで「幸せ」と検索すると、北欧諸国の名前が"世界で一番幸せな国"としてよく上がってきた。そこで2016年には北欧を訪れ、2週間かけてコペンハーゲンやストックホルム、ヘルシンキを見て回った —— いつかそこで暮らしている自分が想像できるかどうか確かめたかった。

わたしはスウェーデン社会の生き方や価値観 —— 中でも持続可能性に重点を置き、ストレスに支配されない生き方に共感した。ワーク・ライフ・バランスも素晴らしい。金星を取るために遅くまで働くということではない。スウェーデンでは遅くまで仕事をしていると、上司から「仕事量が多すぎる」または「勤務時間内に仕事をこなす能力がない」と指摘されるだろう。

スウェーデンの市民として… 学費「ゼロ」で修士号を取得

わたしのパートナー(同じくアメリカ人)はビデオゲーム業界で働いている。アメリカではPlayStationの仕事をしていた。スウェーデンに彼らのオフィスはなかったけれど、他のビデオゲーム・スタジオはたくさんあるのですぐに仕事のオファーがあった。

彼の勤め先がわたしたち2人の滞在、就労ビザのスポンサーになってくれたので、わたしたちはスウェーデンに住み、フルタイムで働くことができた。スウェーデン到着後、2人で移民局などへ行き、必要な手続きを済ませた。全てが落ち着くまでに3カ月ほどかかった。

わたしも職探しを始めたものの、大学へ戻ることになった。地元の大学の修士課程(1年制)に2度出願した。1度目はアメリカ人として出願し合格した。学費は約1万3000ドル(約180万円)とアメリカの水準からすると悪くない。

ただ、その1年後にスウェーデン市民として、スウェーデンの社会保障番号を添えてもう一度出願すると、同じプログラムに今度は学費「ゼロ」で再び合格した。

フルタイムの仕事を見つけるのに2年

街並み

2023年4月のデータによると、スウェーデンの失業率は7.5%だ。

Jacek Kadaj/Getty Images

プログラム修了後、仕事を見つけるのは大変だった。わたしの場合は2年かかった。アメリカで学士号と修士号を、スウェーデンで2つ目の修士号を取得していたし、英語のネイティブ・スピーカー(これはスウェーデンの多くの企業にとって魅力的)だったが、それでもスウェーデンのジョブネットワークに入るのは難しかった —— 誰を知っているか、企業カルチャーに合うかどうかがここでは本当に重要なのだ。

結局、わたしは大手コンサルティング会社に就職し、ここで働くようになって2年半が経った。大学の就職説明会で出会ったチームからランチと内々の面接に誘われ、正式採用となった。結局、応募書類を提出する以前に、誰を知っているか、彼らとどんな関係性を築いているかなのだ。ただ、そこに至るまでには約100社に応募し、できるだけネットワークを広げようと努力してきた。

わたしは修士号を持っていて、自分をうまくアピールできる非常に優秀な外国人たちがスウェーデンの労働市場で苦労しているのを知っている。それは自分がどういった仕事をしたいかによるのだ。テクノロジー系のバックグラウンドを持っていたり、開発者の経験があれば、ここではすぐに仕事が見つかるだろう。

わたしの場合、人材系の仕事を探していたものの、スウェーデンの労働法やスウェーデン語を知らなかったので応募できる仕事が非常に限られていた。また、多くの企業は地元の大学生と採用面で太いパイプを持っていて、卒業の2年前に採用を決めることもある。

アメリカにいた頃より給料は下がった… でも生活はしやすい

アメリカ人から見れば、わたしの今の給料はとても低く感じられるかもしれないが、スウェーデンでは自分は裕福だと感じる。充実した生活を送るのに、お金をたくさん稼ぐ必要はない。今から約8年前、アメリカにいた頃のわたしの年収は6万ドル(税引前)だった。今は4万5000ドルほどだ。

これはスウェーデンの友人と比較しても悪くない。この国は給与体系がとてもシンプルだ。所得の均等が重視されているので、アメリカで見られるような複雑な給与体系は見られない。

生活費もわたしが住んでいるところは特にお手頃だ。自分たちは寝室が2つある広さ800平方フィート(約93平方メートル)以上のマンションを月に約1000ドルで借りている。公共交通機関が充実しているし、自転車でどこでも行けるので車は必要ない。スウェーデンの医療は基本的に無料だ —— 外来診療費は年間125ドル、処方箋代は年間246ドルが上限となっている。

外食は付加価値税(VAT)があるので、やや高くつく。ロサンゼルスで外食するのと同じくらい払わなければならないが、わたしの給料はさほど多くない。

残業はほとんどなし、従業員の健康が重視される

マイヤーさん

出社するのは週に3回ほど。「家で仕事をするのが好きです」とマイヤーさんはInsiderに語った。

Courtesy of Tess Meyer

職場はいつも午後4時半頃になると静かだ。金曜日は午後3時以降に打ち合わせが入ることはない。もう週末が始まっているのだ。仕事の途中でゆっくり昼食を取ったり、所用のために席を外したり、髪を切りに行ったり、運動をしにいくのも普通だ。健康が重視されている。

子どものために遅刻や欠勤、早退しなければならない時も何か聞かれることはない。誰も驚かない。親として子どもにかかわることが期待されている。

残業もほとんどない。ワーク・ライフ・バランスという意味では、一般的に非常に厳しいコンサルティング業界で働いているにもかかわらず、だ。アメリカにある同じ会社で働いている友人もいるけれど、そちらはもっとスケジュールが厳しいそうだ。

ここには皆が会社から与えられた仕事をきちんとこなすだろうという信頼感がある。もし家族のために早朝や深夜に仕事をする必要があるなら、それはそれで構わないし、自分次第だ。何もしていないのにデスクに座っていなければならないようなマイクロマネジメント的なカルチャーでもなければ、表面的なパフォーマンスだけのカルチャーでもない。もしわたしが午後3時半に仕事が終わって帰ろうとしても、誰も気にしない。

毎年6週間分の有給休暇は全て使い切って

マイヤーさん

スウェーデンの有給休暇法(Annual Leave Act)は、労働者が6月から8月のどこかで少なくとも連続4週間の有給休暇を取れる権利を保障している。写真はヨーロッパを旅して回るマイヤーさん。

Courtesy of Tess Meyer

スウェーデンでは企業で働き始めてから丸1年が経つと、有給休暇25日が法的に保障され、夏には最大で連続4週間の有給休暇が取れる。実際、休暇中に支払われる給料は普段よりやや多めだ。

わたしの勤め先では年に6週間分の有給休暇がもらえて、自分は全て使い切っている。と言いつつ、実は4週間「連続」では取ったことがない —— それはアメリカ人として、仕事なしで4週間も何をして過ごせばいいの? と思ってしまうからだ。なので、わたしの場合は2週間か3週間の休暇に分けたり、週末に有休をプラスして取るようにしている。25日分、全て消化しきれなかった場合、最大で5日は翌年に持ち越すことができる。

わたしは自分の休暇の大半を家族を尋ねたり、ヨーロッパを旅して回ることに使っている。仕事用の携帯電話とプライベートの携帯電話を持っているので、会社で何か自分が積極的に関与していたことがない限り、仕事用の携帯電話は旅先に持って行かない。10回のうち9回は仕事用の携帯電話は自宅で「オフ」になっている。

わたしがこれほど大きく人生を変えて、海を渡って移住したのはワーク・ライフ・バランスを改善するためだったので、その点はとても大切にしている。実際、境界線の引き方については、複数のスウェーデン人の同僚からもっとわたしのようになりたいと言われたこともある。家族の近くにいることやもっと良い給料、アメリカ人の親しみやすさ、アメリカの素晴らしい自然を捨ててまで移住したのだから、わたしのモチベーションは高いのだ。

将来的にアメリカに戻るかどうかは…

移住から5年経ったら、わたしたちはスウェーデンの市民権を取得したいと考えている(アメリカの市民権はそのまま維持するつもりだ)。

わたしが思うに、キャリアは人生の1つの柱に過ぎない。パートナーとの関係、友人、家族、健康や自己啓発… それら全てに時間と意識が必要だ。

アメリカでは自分のキャリアともう1つか2つの柱にしか集中できず、それが精一杯だったように思う。今はもっと多くの柱をやりくりできる余裕があると感じているし、それはとても気分がいい。

自分たちが将来的にアメリカに戻るかどうかは分からない。家族の近くにいられた頃が懐かしい。飛行機で12時間、時差9時間の距離はあまりに遠い。ヨーロッパでの暮らしは素晴らしく、5年近く生活しているうちにわたしたちは別人のように変化を遂げた。アメリカの政治情勢や銃乱射事件を見ても、どうしようもない。ニュースを見ていると恐ろしくなる。

今後、わたしたちがもし子どもを持とうと思うなら、スウェーデンには有給の育児休暇が480日ある。つまり1年半以上だ。これを手放すだけでも、大きな損失のように感じる。

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