PGIMのテーマ別リサーチ責任者、シェリア・アンティア氏は「私たちのフードシステムで進行中のこの変革は、投資家にとって好機であり、市場にインパクトを与えるもの」と述べる。
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過去20年間、テクノロジーは他の追随を許さず、市場をリードするセクターとしての地位を確固たるものにしてきた。ブロックチェーン、メタバース、人工知能(AI)でさえ、投資家の注目を集め、ハイテク株の株価を押し上げた技術トレンドのほんの一例に過ぎない。
しかし、アメリカ経済が減速し新たな景気循環が間近に迫るなか、一部のアナリストは、投資家が長期的に大きな利益を得るためにようやく他の分野に目を向け始める時期が来たと考えている。
短期的な経済サイクルにとらわれず、永続的なトレンドに投資することは、まさに約1兆2700億ドル(約177兆8000億円、1ドル=140円換算)の資産を運用するPGIMのテーマ別リサーチ責任者であるシェリア・アンティア(Shehriyar Antia)氏が行っていることだ。アンティア氏は、今後5年から10年の間に世界に劇的な影響を与えるテーマに得化した投資を行っている。
そのアンティア氏によれば、今、世界の食料システムの変革ほどエキサイティングなトレンドはないという。
食の未来
現在の食料システムは、1日に20兆カロリーを生産し、世界人口のほぼ40%を雇用する巨大なものだとInsiderの取材に応じたアンティア氏は語る。
「しかし、非常に複雑で、非効率的で、ますます目的にそぐわなくなってきています。これは警戒心を煽るためではなく、今日直面している重大な課題を強調するために言っているのです」
アンティア氏によると、変革の余地がある要因はいくつかあるという。
「ここ数年、私たちが学んだことが一つあるとすれば、それは、食がマクロ的にも政治的にも大きな影響を与えるということです。食料安全保障が国家安全保障になりつつあり、新型コロナはこの点を痛感させました」
アンティア氏はそう説明し、異常気象やロシアによるウクライナ侵攻など、食料のサプライチェーンに大きな支障をきたす事態を懸念材料として指摘した。
そしてインフレが世界的な広がりを見せるなか、アンティア氏は食料費の高騰も不安定要因として取り上げた。
「食料の高騰をそのまま放置しておくと、市民の不安を煽ることになりかねません」
ただ良いニュースは、現在の食料システムがすでにこれらの課題に対処し始めており、大きな変革のごく初期段階にあることだとアンティア氏は言う。
悪いニュースは、そのことにまだ誰も気づいていないことだ。
「食料ほどの不可欠なシステムにおける大規模な変化にしては、あまりにも見過ごされています。世界の投資家はもっとこのことに目を留めるべきです。食料システムで進行中のこの変革は、投資家にとって本当に好機であり、インパクトを与えるものです」
世界の食料システムを変革する主な要因
今、世界の食料システムの変革を促す大きな変化のひとつは、主にフロンティア市場や新興市場での需要である。
世界の人口は今後25年間で25%増加すると予測されているが、食料需要は同じ期間に60%増加すると言われている。このような需要の高まりの理由は、世界の人々がますます豊かになっていることだとアンティア氏は説明する。
また、世界的に豊かになっているということは、世界中の食生活が収束しつつあることを意味し、フロンティア市場や新興市場の人々は、肉、乳製品、小麦、油、糖分を多く含む「西洋の食事」に傾倒していく。
「このような世界的な食生活の収束は、食料システムにおける生産性向上の必要性を切実に感じさせるものです」
食料供給面では、アンティア氏は世界の食料システムを進化させる新たな推進力として、気候変動と技術革新を挙げている。
気候変動が農業生産に害を及ぼす一方で、農業も温室効果ガスの30%を放出している。このような食料生産と環境の双方向の影響により、世界の食料システムにはより大きな持続可能性が必要であることが明らかになったとアンティア氏は言う。
また、テクノロジーはバイオ有機農法、複数の作業をこなすAI搭載の自律走行型トラクター、培養肉など、フードバリューチェーン全体にわたって活躍している。
「食糧システムのすべての段階において、イノベーションは変化の重要な原動力であり、投資家がそれを理解することは極めて重要です」
多くの投資機会が生まれている
食料システムがこのように大きく変化することが予想されるなか、投資家には多くのチャンスが待ち受けているとアンティア氏は強調する。
例えば、食生活が収束していくなかでは、より長いサプライチェーンが必要とされるだろう。世界的に地場産品の需要が高まるにつれ、冷蔵冷凍保存施設や輸送の需要も高まる。
ここで、投資家は不動産投資を通じて冷蔵施設そのものに直接資本参加することもできるし、低温物流企業の債券や株式に投資することも可能だ。低温貯蔵・輸送分野の主要プレイヤーとしては、東南アジアにも強い日本のニチレイ(Nichirei)、中南米を拠点とする未上場企業フリアルサ(Frialsa)などが挙げられる。
「彼らはすでに現地でコールドチェーン事業を確立しており、食品メーカーや小売業者にサービスを提供しています。食生活の収束は、彼らのビジネスにとって非常に強い追い風となるでしょう」
テクノロジーが特に新興市場で食糧システムを革新し続けるなか、投資家はスマート応用技術への投資を検討し始めるべきだともアンティア氏は考えている。
例えば、樹木や地中に設置されたセンサーが養分や水分のレベルを感知し、その情報を、畑のどの部分に水や肥料を与えるべきかの指示とともに農家のスマートフォンに送信する。アンティア氏はこの分野のマーケットリーダーとして、インドのグラモフォン(Gramophone)やイスラエルのサトゥラス(Saturas)といった新興企業を挙げた。
カナダ、ブラジル、アメリカの大規模農場でも、AI搭載の自律走行・無人運転トラクターによる精密農業の導入が始まった。これらの車両は非常に洗練されており、播種、耕耘、植え付け、施肥、収穫などの複数の作業を行うことができるとアンティア氏は説明する。
さらに、専用のセンサーを使って、作物だけに肥料を散布して雑草だけに除草剤を散布するなど、特定の農地の状態に合わせて調整することも可能だと彼は付け加えた。大規模農場向けの高性能な機械を製造しているグローバル企業のうち、アメリカではジョンディア(John Deere)、ヨーロッパではCNHインダストリアル(CNH Industrial)、日本ではクボタ(Kubota)がそれぞれトッププレイヤーだとアンティア氏は説明する。
アンティア氏が投資家にとって特に重要だと考えるイノベーションのもう一つの分野は、作物学、すなわちり新しい品種の植物とそのための肥料の開発だ。
「必要とされるのは干ばつに強く、耕作地の土壌、水、気候条件に最適化された種子や、害虫や病気に強い植物種です。これは、今日の技術を活用し、気候変動による有害な影響を軽減するための実に効果的な方法だと考えています」
応用作物学の分野では、北米のニュートリエン(Nutrien)、FMCコーポレーション(FMC Corporation)、コルテバ(Corteva)、欧州のビーエーエスエフ(BASF)など世界の主要プレイヤーを挙げている。 新興市場では、インドのPIインダストリーズ(PI Industries)やダヌカ・アグリテック(Dhanuka Agritech)なども突出したプレイヤーであるという。