ツイッター(Twitter)の社内改革に取り組んできたイーロン・マスク氏。後継の最高経営責任者(CEO)に、米NBCユニバーサルの元経営幹部、リンダ・ヤッカリーノ氏を指名したばかり。
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イーロン・マスク氏がツイッター(Twitter)を買収しておよそ7カ月。
マスク氏当人のツイート数は誰の目にも明らかなほど劇的に増加したものの、それに対するユーザーの反応はむしろ薄くなってきている。
Insiderがテクノロジー専門コンサル企業ヒュージ(Huge)に依頼して行ったマスク氏のツイッターアカウント分析によると、マスク氏の投稿にいいね、リツイート、コメントで反応するユーザーは依然として多く、(返信やリツイートを含まない)オリジナルのツイートに対するエンゲージメント総数(反応した回数)は、毎週数百万回に達する。
ただし、エンゲージメント総数は10月後半から買収手続き完了(10月27日)直後の数週間でピークに達し、それ以降は大きく落ち込んでいる。
その間、マスク氏はツイッターの社内改革とプラットフォーム改善を猛烈な勢いで進めた。大規模なレイオフ(一時解雇)や急進的な社内改革に反発する自主退職が相次いだ結果、従業員総数は半年間で約9割減少した。
結果として、ツイートにいいねがつかなかったり、フィードが正しく更新されなかったりの障害が頻繁(ひんぱん)に生じ、セキュリティ保護のための二段階認証が機能しなくなった時期もあった。
また、従来は著名人や信頼できる情報提供元の公式アカウントに限定されていた「青色の認証済みバッジ」を、月額11ドルを支払う課金ユーザーに提供するよう変更し、以前から「領主と小作人みたいなシステム」と批判していたユーザー間のヒエラルキーを逆転させた。
そうやってアカウント認証をサブスクリプションサービス化したことで収益源は広がったものの、ヘイトスピーチやなりすましアカウントの激増、有害コンテンツの長時間放置などの混乱をリスクと判断した広告主が出稿停止を決めたことで、ツイッターの収益の大部分(約9割)を占めてきた広告収入は激減した。
マスク氏の過去18カ月間の投稿数千件を前出のヒュージが分析したところ、返信やリツイートを除くオリジナルのツイートは、本記事公開時点で1週間当たり約400万回のエンゲージメント総数を獲得している。
この数字は、マスク氏がツイッターの経営に関与する以前、2022年前半の水準(1週間当たり100万〜300万回)を若干上回る程度にすぎない【図表1】。
【図表1】マスク氏のオリジナルツイートの週間エンゲージメント総数(赤線)の推移。減少気味と言っても、テック企業の経営幹部アカウント(緑線)や最大級のフォロワー数を抱えるアカウント(黒線)に比較すると圧倒的に多い。
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マスク氏がエンゲージメント総数を大きく伸ばした最初のタイミングは、水面下でツイッター株買い増しを進め、(後に問題化したように、5%超の株式取得時の開示義務期限から約10日遅れたものの)大量保有報告書類を米証券取引委員会(SEC)に提出した後だった。
9.2%のツイッター株取得が発覚した後、マスク氏は残る全株式の取得を目指して敵対的買収に動きかけたが、同社取締役会のポイズンピル(毒薬条項)発動を機に事態が急転。最終的に取締役会は「総額440億ドル」の巨額買収でマスク氏との合意に至った。
世界中の注目を集めたこの約1カ月におよぶ買収交渉の間、ツイッターにおけるマスク氏のエンゲージメント総数は毎週2000万回以上と、爆発的な増加を記録した。
ところが、エンゲージメント総数は間もなく減少に転じ、1週間当たり500万回程度まで落ち込んだ。
その後、マスク氏が偽アカウントの実態把握のための情報開示を求めて買収手続きを保留する態度を示し、7月上旬に買収撤回を表明する頃には、エンゲージメント総数は1週間当たり100万回程度まで激減。
ツイッター側の提訴を経て、10月初旬にマスク氏が再度当初の価格条件での買収を申し出るまで、100万〜300万回程度での推移が続いた。
エンゲージメント総数が再度のピークに達したのは、マスク氏がツイッター買収手続きを完了させた10月下旬だった。
それから2022年末頃までの2カ月間、つまり記事前半で触れた大量解雇やアカウント認証の有償化など急進的な経営改革が立て続けに報じられた時期は、1週間当たり1000万回を超えるエンゲージメント総数を記録する時期が続いた。
2023年に入ってからは、一時的に急上昇した時期は何度かあったものの、1週間当たり600万回を前後する推移が続いており、前年末のような勢いはすでに見られない。直近の時期では、300万〜400万回程度まで減少している。
気になるのは、マスク氏が従来以上に頻繁(ひんぱん)に投稿を繰り返しているにもかかわらず、エンゲージメント総数の下落基調に変化がないことだ。
マスク氏のツイート数は、ツイッターの経営に関与する以前(買収完了前)と比較して、1カ月当たり1割程度増えたことが、ヒュージの分析により判明した。
1週間当たりの平均オリジナルツイート件数で見ると、買収意図を発表する以前は7件程度だったが、買収交渉から買収手続き中に10件超、買収完了後は20件超へと、段階的に2倍増、3倍増している【図表2】。
【図表2】マスク氏の1週間当たりの平均オリジナルツイート件数(赤棒)の推移。テック企業の経営幹部アカウント(緑棒)や最大級のフォロワー数を抱えるアカウント(黒棒)に比べると現在のツイート数の多さが際立つ。
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そうやってツイートの絶対量が増えたために、エンゲージメント総数の増加分も希薄化された。ヒュージの分析によれば、本記事公開時点では「イーロン・マスク氏のオリジナルツイート1件当たりのエンゲージメント数は、買収完了前と完了後に有意な差を確認できない状況」という。