左はNASAのカッシーニ探査機がエンケラドスを捉えた画像。右はジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がエンケラドス(赤い四角)から噴出するプルームを捉えた画像。
NASA/JPL/Space Science Institute; NASA, ESA, CSA, Geronimo Villanueva (NASA-GSFC)
- NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、土星の衛星エンケラドスから噴出する水のプルームがどれほど巨大なものかを明らかにした。
- 北米大陸の東西の長さの2倍以上にあたる9700キロメートルもの高さまで水が噴出している。
- このプルームは地下の海から発生しており、この衛星に生命が存在する可能性を示している。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、土星の衛星エンケラドスから噴出する巨大な水のプルームを捉えた。この衛星は水を噴出しながら土星を周回することで「水のドーナツ」を形成している。
エンケラドスからの水の噴出は、これまでにも観測されたことがあるが、これほどの規模は初めてだ。
NASAの土星探査機カッシーニが2005年にこの衛星の南極近くを通過した際に、謎のプルームが初めて発見された。それまでエンケラドスは不活性な氷の球だと考えられていたが、このプルームによって、凍った地殻の奥深くに全球規模の海があるというエキサイティングな事実が明らかになった。つまり、エンケラドスは太陽系で地球外生命が存在する可能性のある最有力候補となったのだ。
カッシーニは、下の画像のようなエンケラドスのクローズアップを捉えた。
エンケラドスのクローズアップ。太陽からの逆光によってプルームが見事に照らし出されている。
NASA/JPL-Caltech/SSI
だが、宇宙に打ち上げられた望遠鏡の中で最強のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡でエンケラドスを観測すると、大規模な水の噴出が見られ、これまで考えられていたよりもプルームははるかに大きいことが示された。
ウェッブ望遠鏡でプルームの巨大さが明らかに
ウェッブ望遠鏡が捉えた画像により、エンケラドスから北米大陸の東西の長さの2倍以上にあたる9700キロメートルもの高さまで水が噴出していることが明らかになったと、2023年5月31日にNASAが発表した。
エンケラドスの南極から水のプルームが噴出し、水蒸気が拡散する様子が、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって捉えられた。
NASA, ESA, CSA, Geronimo Villanueva (NASA-GSFC)
NASAゴダード宇宙飛行センターの科学者であり、この観測結果に関する論文の筆頭著者であるジェロニモ・ビラヌエバ(Geronimo Villanueva)は、プレスリリースで次のように述べている。
「データを見たとき、最初は自分が間違っているに違いないと思った。衛星自体の20倍以上の大きさのプルームが見つかるなんて、本当に衝撃的だった」
プルームの高さは、カリフォルニア州ロサンゼルスからアルゼンチンのブエノスアイレスまでの距離に相当する。エンケラドス自体は、ロサンゼルスとサンフランシスコの間に収まるサイズだ。
NASAによると、エンケラドスの表面から宇宙に向かって噴出する水の量は、1秒当り79ガロン(300リットル)だという。これは2時間でオリンピックサイズのプールを満たすことができる量だ。
土星の周りにできた「水のドーナツ」
噴出した水の約30%は、トーラスと呼ばれる土星の周りの巨大な水の輪にとどまり、残りはそこから飛び出して土星の水系に供給される。
「エンケラドスが土星を周回するのにかかる時間は33時間と比較的短い。土星を周回しながら水を噴き出し、ドーナツのような跡を残している」とビラヌエバは述べている。
エンケラドスが土星の周りに「水のドーナツ」を形成し、土星系全体に水を供給していることを示した図。
NASA, ESA, CSA, STScI, Leah Hustak (STScI); Geronimo Villanueva (NASA-GSFC)
「ウェッブ望遠鏡で観測したところ、プルームが巨大だということだけでなく、あらゆる所に水が存在することが分かった」とビラヌエバは言う。
土星には少なくとも124個の衛星があり、その中でもエンケラドスは特に興味深い衛星だ。
地球の約4%の大きさで、その地下の海に生命体が存在するとすれば、地球の深海生物のように光合成ではなく、化学合成で深海の熱水噴出孔から噴き出す物質をエネルギーに変えているのかもしれない。