BookTokクリエイターの@emilymiahreadsと@cultofbooksは、TikTok動画でロマンス本と「お約束」のパターンについて話し合っている。
Emily Russell/Coco Hagi/TikTok
TikTok(ティックトック)が出版業界を変えている。
今このプラットフォームで、本に関するハッシュタグ「#BookTok」が1400億回を超える再生回数を記録している。何千人ものクリエイターが毎日お気に入りの本について論じており、作家たちはこのプラットフォームを活用して大きな成功を手に入れることが可能だ。
「TikTokで自分の人生やキャリアが一変しました」と語るのは、作家のアレックス・アスター(Alex Aster)氏だ。彼女は自分が書いた小説のプロットを説明する動画を作り、それがTikTok上でバズったことで、数十万冊も売り上げた。
そして、BookTokは、クリエイターや作家がソーシャルメディア上で本について語る方法を変えた。
TikTokでは、お約束パターン、つまり多くの物語で繰り返される特定のテーマを使って、本のプロットについてさっと論じるのが一般的な方法だ。お約束パターンは恋愛小説のようなジャンルによく見られるものだが、それ以外のジャンルにも当てはまる。
最も普及しているお約束パターンは、最初はお互いに好きじゃなかったけれど最後には恋人になる「敵から恋人へ」、友人同士が恋愛関係に発展する「友達から恋人へ」、または「この人と違うときに出会っていたなら」などだ。
これらのお約束パターンに関連するハッシュタグは、数百万から数十億回も再生されていて、 #enemiestolovers(敵から恋人へ)は70億、#friendstolovers(友達から恋人へ)は9億4000万、#rightpersonwrongtime(この人と違うときに出会っていたなら)は2億2000万回となっている。
お約束パターンが重視されるのはTikTokの動画の短さと関係がある、と語るのは、Insiderの取材に応じたクリエイターたちだ。1~3分の動画の場合、クリエイターはほんの数秒で視聴者の注意を引き、本のプロットをぎゅっと詰め込む。お約束パターンならその作業は容易になる。
「数分待たされるYouTube(ユーチューブ)や、写真だけで本の内容についてはよく分かるらないInstagram(インスタグラム)と違って、15秒以内におすすめが表示されます」
こう話すエミリー・ラッセル(Emily Russell)氏はTikTokでおすすめ本を紹介し、6万5000人というフォロワー数を築き上げた。
BookTokは本の売上を引き上げるのに貢献してきた。2004年に売上の調査を開始した、アメリカの印刷書籍売上調査会社Circana BookScan(旧NPD BookScan)のデータによると、2021年の出版業界の売上は2004年の売上調査開始以来、最高だった。その後売上は若干落ち込んだものの、2019年との比較では依然として上回っている。
恋愛小説は最も恩恵を受けているジャンルで、3年連続で成長し、2022年の印刷書籍販売部数は3600万部を超えている。
出版社もまた、お約束パターンについて考えている。これらの物語の仕掛けは目新しいものではないが、TikTokのおかげで新たな重要性を獲得しつつある。
アシェット(Hachette)傘下のダイアローグ(Dialogue)が出版する『Renegade Books』の発行者であるクリスティーナ・デモステヌウス(Christina Demosthenous)氏はこう述べている。
「お約束パターンはかつてないほど重要です。それは読者にとっての指標であり、読者は自分の好きなお約束パターンに夢中になります。その安心感と親近感には、特別なものがあるのです」
お約束パターンの成功で作家プレッシャーがかかる
作家たちにとって、このようなタイプのプロットがプラットフォーム上で成功するのを目にするのは、諸刃の剣になり得る。
お約束パターンを使って書いてみようとする作家は、人生を変えるような成功を収めるかもしれない。常に注目を集めるコリーン・フーヴァー(Colleen Hoover)氏や、恋愛小説のベストセラーをいくつも書いているエミリー・ヘンリー(Emily Henry)氏のように。
しかし、他の作家は自分に失望したり、バズる可能性を高めるために自分の文章に特定のお約束パターンを取り入れることにプレッシャーを感じたりするかもしれない。
スリラー作家で、作家向けの定期購読プラットフォームの創設者でもあるマイケル・エヴァンス(Michael Evans)氏はこう話す。
「自分の作品を、オリジナリティがありながら、人が買いたくなるようなお約束パターンやそれに似た馴染みのあるものにするために、流行から一歩先を行く努力をすることが常に求められています」
ベストセラーの歴史ミステリーシリーズ『These Violent Delights』を執筆し、TikTokで宣伝したクロエ・ゴン(Chloe Gong)氏は、自身の小説は必ずしも「BookTok的な本 」ではなかったが、熱心な読者層を見つけることができて幸運だったと話す。
「そうでなければ、恋愛やドラマティックな話になりがちです。それが注目を集めるからだと思います。その型にはまらない他の本をサポートすることは非常に難しいことですが、人々にはそのような本をもっとサポートしてほしいと思います」
例えば、作家のアン・ベイリー(Anne Bailey)は、本来は歴史小説家だ。
彼女は、「敵から恋人へ」といった人気のあるお約束パターンを取り入れた恋愛小説を書いてみることにした。自身の最初の歴史小説と比べて、最初の恋愛小説は30日間で5倍の部数を売り上げるなど、はるかに早く成功を収めたという。
「世間でどんなキーワードが検索されているか、何が流行っているのかを、かなり意識しました。自分の文章、自分のプロットでありながらも、そのカテゴリーに収まるような本を書いたのです」
クリエイターの中には、TikTokでお約束パターンが重視されることで、作家のビジョンが狭まるのではないかと懸念する人もいる。
「お約束パターンを使っているかどうかなんて、本には関係ありません」とラッセル氏は言う。
「作家たちは、特に今日では、自分の本の多くをお約束パターンに乗せなければと考えて、それが制約になっています。でも、本当はそうではありません。良いプロットである限り、人々はその本を読んでくれるものなのです」