生成人工知能(AI)開発を手がけるランウェイ(Runway)の3人の共同創業者。左から、アナスタシス・ゲルマニディス、アレハンドロ・マタマラ=オルティス、クリストバル・バレンズエラ。
Runway
グーグル(Google)と生成人工知能(AI)開発を手がけるランウェイ(Runway)が大規模なクラウドコンピューティング契約を締結した。グーグルはランウェイに対し、クラウドサービスおよびクラウド利用クレジットを提供する。
ランウェイは、AIを活用した動画作成・編集ツールの開発を手がけるスタートアップで、テキストや画像や動画を元に別の新たな動画を生成するマルチモーダル(複合)AI「Gen-2」を提供する。
今年の第95回アカデミー賞で最多7部門受賞を果たした映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(Everything Everywhere All At Once)』にも、ランウェイの技術が活用されている。
Insiderは5月5日付記事で、ランウェイが匿名の最大手クラウドプロバイダーから1億ドルを調達し、評価額が15億ドルとなったことを報じていた。
その後、5月31日にテック専門メディアのインフォメーション(The Information)が内情に詳しい関係者からの情報として、上記の1億ドルの資金提供元がグーグルであることを報じた(なお、同記事は「約」1億ドルの資金調達ラウンドの全額をグーグルが負担したとまでは断定していない)。
Insiderが独自ルートで確認した内部文書によると、冒頭で紹介したグーグルとランウェイの新たなクラウドコンピューティング契約の金額は3年間で7500万ドル。契約締結日は4月28日で、サービス提供の開始予定は8月30日とされている。
同契約に伴い、グーグルはランウェイに対して約2000万ドルのクラウド利用クレジットを提供し、ランウェイはそのうち最大27万ドル分を(クラウドサービス利用の)テクニカルサポート料金支払いに充当する模様だ。
グーグルはコメントを拒否し、ランウェイからは返答がなかった。
グーグルクラウド(Google Cloud)はスタートアップ向けの成長促進プログラムとして、1年当たり最大20万ドル分のクラウド利用クレジットを2年間提供(同社はこれを「サービス利用料割引」と位置付ける)するほか、チームのスキルアップ支援、ビジネスサポートやネットワーキングなどを従来から提供してきた。
それを踏まえると、ランウェイが今回のクラウド契約に伴って得たクレジットは、他のスタートアップが上記プログラムを通じて受けられるサポートを大きく上回る規模と言える。
Insiderはグーグルに対して、ランウェイに出資したのは事実なのか、繰り返し回答を求めたが拒否された。
実は、グーグルとランウェイが締結した今回のような契約は目新しいものではない。
大手クラウドプロバイダーがAI関連スタートアップに出資し、そのディールの一部としてクラウド利用クレジットを提供したケースは過去にも複数確認されている。
マイクロソフト(Microsoft)は2019年、対話型AI「ChatGPT(チャットジーピーティー)」の開発元であるOpenAI(オープンエーアイ)に10億ドルを出資したが、その内訳は現金とAzure(アジュール)利用クレジットの組み合わせだった。
このようなクレジット提供を伴う出資については、最終的に(クレジット分が)クラウド支出を通じてプロバイダー側に還流するため、売上高の水増し手段として使われる「ラウンドトリップ(循環取引)」に該当する可能性があるとして、会計上の疑問が提起されている。
なお、クラウド利用クレジットを無償提供するスタートアップ支援プログラムを実施しているのはグーグルクラウドだけでなく、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、マイクロソフトも何年も前から同様のプログラムを展開している。
早い時期にクラウドインフラ含む支援を提供したスタートアップが、成長するにつれクラウド支出を増やしていき、遠くない将来に収益源として期待できるようになるというわけだ。
とりわけ、AWSは長年にわたってスタートアップとの関係を築き、成功を収めてきた。
例えば、民泊仲介大手エアビー(Airbnb)はまだ小規模なスタートアップ時代の2008年にAWSのクラウドサービスを使い始め、(その信頼関係と実績をベースに)2020年には12億ドルという巨額の複数年契約を結ぶに至った。
また、画像共有サービスのピンタレスト(Pinterest)は、上場前の2017年5月にAWSと7億5000万ドルの長期クラウド契約を締結した。同社はそれ以前からAWSを利用していたが、上場を前にホスティング費用の見直しに合意した上で、契約を更新した模様だ(詳細は2019年3月23日付の過去記事を参照)。
この長期契約では、2023年7月までに少なくとも7億5000万ドル相当のクラウドサービスを利用する必要があり、その金額に到達しない場合はピンタレストが差額をAWSに支払う必要がある。しかし、そうした最低支払額の設定を受け入れるのと引き換えに、従来より安価な料金でのクラウドサービス利用が可能になった模様だ。
なお、今回ランウェイとの契約でグーグルのクラウド利用クレジット提供の実情が垣間見えた形だが、過去にはグーグルクラウドのセールス部隊が、スタートアップにクラウド利用クレジットを無償提供するAWSの戦略に圧倒され、到底勝ち目はないと悲嘆に暮れていた時期もあった(詳細は2021年11月23日付の過去記事を参照)。