2人目の子どもを持つことに大きな「壁」がある。
撮影:今村拓馬
政府は6月1日、「異次元の少子化対策」の詳細となる「こども未来戦略方針」案を公開した。
2022年の日本の出生数は80万人を下回り、合計特殊出生率は17年ぶりに1.2台に落ち込むとも報じられている。この異次元の少子化対策は、本当に子育ての当事者を支える施策になるのか。
公益財団法人1more Baby応援団が発表した「夫婦の出産意識調査2023」では「2人目の壁が存在する」と回答した人が過去最高値を更新するなど、厳しい現実がある。子どもを2人以上もつことを妨げている要因はなんなのか、調査結果をみていこう。
「夫婦の出産意識調査2023」
調査期間・手法:2023年4⽉4⽇〜4⽉13⽇(仮調査)、4⽉8⽇〜4⽉13⽇(本調査)。インターネット調査
調査対象:全国の女性20〜39歳、男性20〜49歳の既婚者合計2961⼈
各都道府県ごとに、①既婚で⼦どもなし ②既婚で⼦ども1⼈ ③既婚で⼦ども2⼈以上の3分類を均等回収(各21⼈×47都道府県=987⼈)した上で、各都道府県の年齢構成比などをもとに調整。
約8割が「2人目の壁」を認識。トップは「経済的な理由」
2人目の壁が存在すると感じている人の割合。
出典:1more Baby応援団広報事務局
今回の調査では、2人目以降の出産を躊躇する「2人目の壁」が存在すると回答した人の割合が78.6%と約8割となった。これは、過去10年間で最も高い割合だという。
2014年の出生数は約100万人。当時から育児休業給付金の支給額の引き上げや幼保無償化など、さまざまな対策が実施されてきたが、2022年の出生数は約20万減の約79万人。成果は出ていない。
「⽇本は⼦どもを育てやすい国に近づいていない」と回答した⼈の割合(後述)も過去最⾼となっている状況だ。
経済的な理由を挙げる人が最も多い。
出典:1more Baby応援団広報事務局
「2人目の壁」が存在すると回答した2326人に対してその理由を聞いたところ、「経済的な理由」が76.8%と突出して多かった。
次いで、「ゆとりのある時間、自由な時間が取りにくくなる」(45.3%)、「第一子の子育てで手いっぱいのとき」 (45.2%)といった意見が多数挙がっていた。また、「仕事上の理由」(43.1%)、「社会制度上の理由」(38.7%)なども、依然として子育ての障壁になっていることが伺えた。
経済的な課題があることは大前提として、子育てを支える仕事・社会環境も意思決定に多かれ少なかれ寄与していると言える。
教育費が負担…物価高も「2人目の壁」に影響
経済的に負担を感じる要素。高校や大学の教育費を挙げる人が多い一方で、食材・食品費と日常生活のコストがネックになっている側面も。
出典:1more Baby応援団広報事務局
では、最も多くを占めた子育てにかかる経済的な理由は何か。
2人目の壁として「経済的な理由」を挙げた1787人を対象に、どのような費用が負担に感じるかと質問すると、1位が「大学の教育費」(63.9%)、2位 が「高校の教育費」(58.0%)と中長期的な教育費の負担が大きいという回答が多かった。ただ、3位には「食材・食品費」(57.9%)が挙がるなど、物価高などを背景とした日常生活の負担の高まりが2人目の壁を感じさせる要因になっている側面も伺えた。
実際、現在⼦どもがいる1648人に2人目の壁を感じたきっかけを聞くと、「物価上昇や増税で家計の圧迫を感じる時」(51.2%)が最多となった。
サポートが求められている内容についてのアンケート結果。
出典:1more Baby応援団広報事務局
また、どうすれば「2人目の壁」が解消するか尋ねた質問に対しては、「出産・育児費用における経済的なサポート」(73.9%)を挙げる人が最も多かった(母数は2人目の壁が存在すると回答した2326人)。
「負担に感じる経済的な費用」では、大学や高校の教育費などが突出している一方、出産や育児に関する目前の費用も重要視されているようだ。
なお、政府が発表した異次元の少子化対策の素案では、出産育児一時金が42万円から50万円へ引き上げ。児童手当の所得制限が撤廃されて対象年齢を高校生相当へ拡充する一方で、扶養控除との関係についてはエクスキューズが残った。
また、課題となっていた財源については「追加負担を生じさせないことを目指す」「消費税などこども・子育て関連予算充実のための財源確保を目的とした増税は行わない」と明言された。
日本は、子どもを「産みにくい」し「育てにくい」のか?
なお調査では、日本が子どもを「産みやすい」「育てやすい」国に近づいているかどうかも問われた。ただ、産みやすい国に「近づいていない」(75.1%)、育てやすい国に「近づいていない」(75.8%)がどちらも多数を占めている。
産みやすい国と答えた⼈は歴代ワースト2位、育てやすい国と答えた⼈は歴代ワースト1位だったという。
日本が、産みやすく、育てやすい国だと感じている人は少ない。
出典:1more Baby応援団広報事務局
その理由を男女別に聞くと、男性の回答では「児童手当の金額が十分でない」(48.9%)がトップ。一方、女性の回答では「女性に子育ての負担が偏ったままだから」(61.0%)が最も多く、男女で考え方の差が見られた。
日本が子どもを産み、育てやすい国となるためには、経済的な支援が必要であることはもちろん、出産・育児にまつわるジェンダーギャップの改善も引き続き必要であるといえる。
男女で課題感にも違いがある。この是正も今後の重要な課題だ。
出典:1more Baby応援団広報事務局