人間のモデルではなくAIを使って多様性を表現しようとすると、差別的問題を悪化させるおそれがある。
Dia Dipasupil/Getty Images for NYFW
広告主が生成AI(ジェネレーティブAI)を使ってBIPOC(black, indigenous and people of colorの略で、黒人、先住民や有色人種を指す)のモデルを生成することは、白人が黒人のイメージ、スラング、文化などをコミカルにオンライン上で表現する「デジタル・ブラックフェイス」だとされ、評論家は警鐘を鳴らしている。
2023年4月、リーバイスはモデルの「数と多様性」を高めるために生成AIを使うと発表したが、多様なモデルや才能のある制作者の機会を奪うのではないかとの非難を受けた。
非白人のモデルは、白人優位の業界で数少ない仕事をいかに獲得しなければならないかについて語る。
黒人モデルのエフォサ・ウーバムウェン(Efosa Uwubamwen)は、以前Insiderに「有色人種は、白人のモデルほど多くの仕事が入らなかったり、依頼を受けるということがありません」と語っている。
生成AIは、モデルを雇わなくてもすむようになるだけでなく、セットや背景を作ることにも活用され、コスト削減につながる。しかし、多様なモデルを「持続可能な方法で」見せたいと言っていたリーバイスのように、多様性を手っ取り早く表現しようと生成AIを使う企業は、逆に多様な人たちを排除することにつながりかねない。
リーバイスの広報担当者は、こうした批判に答えるために2023年3月に同社が発表したステートメントに触れ、これからの生成AIの活用は、自社サイトにおける「小規模で限られたパイロット版」であると説明した。「当社は、ライブ写真撮影の計画、実際のモデルの使用、多様なモデルとともに働くという我々のコミットメントを縮小することはありません 」と、広報担当者は語る。
広告代理店のコード・アンド・セオリー(Code and Theory)のチーフダイバーシティ・エクイティ・アンド・インクルージョン・オフィサー(Chief Diversity, Equity, and Inclusion Officer)であるレニー・ミラー(Renee Miller)は、多様性を促進するように見えながらも、時間とお金を節約できるというAI活用の魅力については理解しているという。
「特に小規模なクライアントにとっては、これは魅力的なことです。『欲しかったモデルがすべて揃う。それも安い価格で!』というようにね」(ミラー)
アパレル企業のリボルブ(Revolve)は、AIが生成したモデルに同社が次に発表するファッションの一部を着せた看板を作ったが、特に問題にはならなかった。
「写真撮影のために数万ドルかけてセットを作る必要もないわけです」とリボルブの共同CEOであるマイケル・メンテ(Michael Mente)は以前、Insiderに語っている。
また、コード・アンド・セオリーのミラーは「インクルージョンがいいからといって、安易な方法でインクルージョンを表現しようとすると反発が起きることが多いのです。AIが生成したモデルを使うとどんな結果につながるか、早い段階で適切に議論しておくことが重要です」と言い、こう続ける。
「誰にお金を払うのか、誰を雇うのか、最終的にそれによって何が起こり得るのか。AIでモデルを生成し、デジタルで黒人や黄色人種その他の顔を使っているのは白人だけではありません。有色人種の人だって生成AIのモデルを作っているんです」
彼女はさらに「私たちはシュドゥの時のような立場になりたくはない」と言う。シュドゥ・グラム(Shudu Gram)は、2018年に黒人女性のモデルとして登場してSOULSKYやFentyといったブランドをInstagramで宣伝していたが、実は白人男性によって作られたデジタル・スーパーモデルだったことから、かなりの批判を浴びた。
こうした懸念に対して、広告主は安全対策をとり始めている。
例えば、コード・アンド・セオリー、VMLY&R、メディア・モンクス(Media.Monks)といったエージェンシーは、こうした問題専用の社内グループやSlackチャンネルをつくり、AIの倫理的な使用について疑問を抱くクリエイティブ系の社員にリソースを提供している。
ミラーによると、コード・アンド・セオリーにはAI倫理委員会というものがあるという。一方VMLY&Rは、倫理的かつ合法的な方法で生成AIを使用するための仕組みを取り入れていると、同社のチーフ・イノベーション・オフィサーであるブライアン・ヤマダは語る。
「私たちは、デザインと開発の過程で人を介在させる仕組みを取り入れ、適切な疑問をぶつけてもらうようにしています」(ヤマダ)
AIを使用するには注意が必要とはいえ、広告主の中には、より多様性を打ち出せるような生成AIエンジンをトレーニングしたいと考える者もいる。
例えば、デコーデッド・アドバタイジング(Decoded Advertising)のモーションデザイナーであるアレックス・コールは、生成AIが「黒人の声」のニュアンスを作り出せるかどうかのプロジェクトの運営に携わった。
「(このプロジェクトによって)黒人の声をキャプチャできることは分かりましたが、それは黒人の声に対するバイアスをキャプチャすることでもあります。つまり、(アメリカの黒人ヒップホップシンガーの)ミーガン・ジー・スタリオンのように話すものを作れるということです」
デコーデッド・アドバタイジングのスタッフは、多様な人々に関するデータを生成AIに提供することの意義を見据える。同社のジュニアストラテジストであるチェヤン・ムーア(Cheyanne Moore)はこう言う。
「黒人の経験からのデータを入れていないAIツールには今まで限界がありました。正確性を期すためには、多様性を含んでいなければいけません」(ムーア)