出典:アップル
アップルがついにVR/ARヘッドマウントディスプレイ(HMD)に参入する。ただし、世の中に出てくるのは2024年になってからだ。
6月5日(現地時間)に開幕した年次イベントWWDC23のなかで、初のVR/AR HMD「Vision Pro」を発表した。
IT大手のなかで、アップルはVR/AR製品に関しては後発組にあたる。そのアップルが選んだ製品の戦略は、価格3499ドル(約48万8000円)という、高価格なハイエンド製品というものだった。発売はまずアメリカ市場からで、2024年早々を予定する。
一方、公表されたデザイン、想像される性能、体験設計には、発表時点でも目を見張るものがある。
いまわかっている情報から、7つの特徴を深掘りして解説する。動画も末尾に掲載している。
1. なぜ外から「目が透けて見える」デザインなのか
製品ページにはさまざまなイメージ写真があるが、こんな風に「ディスプレイに映っている顔」の雰囲気がわかるような1カットはYouTubeの動画内にある。
出典:アップル
Vision Proを非常にユニークなHMDにしているのは、独特のデザインによる部分が大きい。
正面から見ると、立体的なガラスを通して、スキーのゴーグルのように「目」が透けている…ように見える。ただ、これは外側に搭載したディスプレイの表示だ。
この個性的なデザインには、Vision Proを「人と一緒にいながら使うVR HMD」とするための強いメッセージ性がある。
HMDは、装着すると表情がわからなくなるため、「自分だけの空間」に閉じこもるような印象を抱かせがちだ。
Vision Proは「空間コンピューティング」をうたう、新しい形のコンピューターを意識している。
仕事で使い、Macと接続してバーチャルディスプレイとしても使い、家族や子ども立体視動画も撮影できる。そういう他者のいる空間で使うとき、「表情」が見えることが重要だとアップルは考えたようだ。
2. ディスプレイ性能は圧倒的な高解像度、マイクロ有機ELの片眼4K対応
レンズ部分。近視など視力が合わない人向けに、後付けのレンズも装着できるようになっている。
出典:アップル
一般向けのVR HMDとしては非常に高価な価格ながら、ディスプレイ部分は「片眼4K対応」という、非常に高性能なものになっている。
もう少し掘り下げてみよう。正確な解像度は非公開ながら、両眼合計で「2300万ピクセル」あると説明している。つまり、片眼で1150万ピクセルだ。
FaceTimeで通話しながらコラボレーションをしている様子。実際の風景はどんな風に見えるのだろうか。
出典:アップル
一般的に、「4Kテレビ」の解像度は3840×2160ドットで、画素数で言うと829万ピクセル。Vision Proの片眼解像度はこれよりさらに高解像度ということになる。またマイクロ有機EL(OLED)ということで、表示品質の高さにも期待できる。
競合にあたるメタのQuestシリーズは、Quest Pro(価格15万9500円)でも片眼で2000ドット四方程度。Vision Proは価格帯がまったく違う製品とは言え、いかに高解像度かがよくわかる。
Macと連携しているところ。デモ映像では、見るだけでMacに繋がる、と説明していた。
出典:アップル
高解像度な表示能力を生かして、Macの仮想ディスプレイとしても使える(デモ映像では無線接続のように見える)。現実には存在しないような巨大なディスプレイに拡大できるのは、VR HMDならではと言える。
3. 「iPad」と「iPhone」アプリが動く。チップは「M2」採用
Vision Proの心臓部はiPadと同じM2チップ。また大量に搭載するセンサーやカメラのデータを処理するために、新たにR1という新チップも搭載する。
出典:アップル
あらゆるVR HMDが課題とする「対応アプリ」の問題は、Vision Proにはアドバンテージがありそうだ。Vision Pro専用アプリのほかにiPadとiPhoneアプリが動作すると、発表のなかでアナウンスしている。
これを可能にするのが、iPadやMacと同じ心臓部の半導体「M2」チップを採用したことにある。
アプリの操作は音声認識と、手のジェスチャー操作が基本になるようだ。
もちろんタッチ操作とジェスチャー操作とは似て非なるものだから、iPadで使う場合と同じ体験とはいかないかもしれない。
ただ、仕事にせよ日常使いのアプリにせよ、ふだんiPhoneやiPadで使っているものがそのまま動くというのは、新しいプラットフォームの立ち上げ時期には非常に大きなメリットになる。
4. カメラは「立体視撮影」対応、そのほか最新センサーの集合体
親が子どもたちを立体視撮影をしている様子。
出典:アップル
他社のVR HMDで、ありそうでなかったのはカメラ撮影機能だ。
Vision Proは、アップル初の3Dカメラ機能を搭載しているという。これは、2つの撮影用カメラによる立体視撮影ができる機能とみられる。静止画・動画いずれもに対応している。
動画撮影時は、前面ディスプレイで、撮影していることがわかるようにもなっている。
これ以外にも、Vision Proには多数のセンサーを搭載していることがわかっている。プレスリリースによると、立体視カメラのほかに環境センサーのカメラも含めて、カメラ12基、センサー5つ、マイク6基を搭載している。
外向きに搭載される大量のセンサー。2つの高解像度カメラ、手のジェスチャー認識に使うカメラ、周囲の環境をリアルタイムの3Dで認識するためのセンサーなど、最新センサーの塊といったところだ。
出典:アップル
センサーは内側にもある。ユーザーがいまどの部分を見ているのかを認識する「アイトラッキング」機能のセンサーのほか、生体認証として新たに、瞳の虹彩を認識する「Optic ID」を搭載した。
虹彩認証「Optic ID」の動作イメージ。装着している人が本人かどうかを識別する。
出典:アップル
指紋認証(Touch ID)や顔認証(Face ID)に代わる、HMDならではの装備となっている。
5. バッテリーは外付け、2時間駆動(電源をつなげば終日動作)
バッテリーと、ケーブルの接続端子。取り外しできる設計になっている。
出典:アップル
近年のVR HMDはバッテリーを内蔵するのか否か、バッテリー駆動する場合、動作時間をどう設定するかが重要なポイントの1つだ。
Vision Proでは、バッテリーをケーブルで外付けにするという設計を採用している。おそらく、バッテリー内蔵による重量増や重心位置の問題を解決するためだろう。
標準バッテリーでの動作時間は2時間。電源につないで使用する場合は1日中使えるとしている。
現実問題として、他社のVR HMDでも長時間使う人は非常に大容量なバッテリーを接続するか、電源に接続して使うケースが多い。リアルなユースケースでは外部バッテリーというのはそこまで大きな懸念にはならないかもしれない。
一方で、気になるのは装着時の重量バランスだ。後頭部部分には重りになるものがなく、前面に重量物が集中しているように見える。装着感や首の負担がどうなるのかは、実機のレポートを待ちたいところだ。
6. 「モジュラーデザイン」でストラップなどは交換できる
交換可能なパーツ。目の周囲のライトシール部分は磁石で脱着できるほか、後頭部を支えるヘッドバンドも交換式になっている。右に見える、Apple Watchと同じデジタルクラウンは、回すことで外界の透過表示の度合いを変えられるようなデモ映像も見せている。
出典:アップル
デザインはひとめでApple Watchと共通の特徴を感じるものになっているが、アクセサリーについても交換可能というApple Watchの文化を持ち込んでいるようだ。
後頭部のヘッドバンド部分は調整式で、取り外し可能。デザインの意匠には、「Apple Watch Ultra」のリストバンド「グレイトレイルループ」と似た部分がある。
また、顔に直接触れるライトシール(遮光の覆い)部分は磁石で吸着していて取り外しができる。この設計は他社のVR HMDでも一般的な設計だ。
7. いつ登場するのか…まず2024年早々に米国、続いて2024年末に世界展開
Vision Proの発売は具体的に明らかになっていないが、まず最初に発売するのがアメリカ市場で、2024年早々(Early Next Year)であることは明言している。
プレスリリースによると、「来年(2024年)後半にはさらに多くの国で発売される予定」としている。