Tyler Le/Insider
ショーラ・ウェスト(Shola West)は教室で集中するのが難しいといつも感じていた。自分がディスレクシア(文字の読み書きに困難を感じる学習障害)だと気づいたのは、卒業してから何年も経った後だった。
座って人の話を聞くより自分でやってみる方がうまく学べるという自覚があったので、高校を卒業すると大学へは行かず、教育テックのスタートアップに就職した。
だが、仕事自体は好きだったものの、すぐにじっとしていられなくなってしまった。「私は、一つの仕事だけをするのは無理な人間なんだと思うんです」とウェストは語る。
彼女は自分の限りないエネルギーを活用しようと、自分が知っていること、すなわち職場での処世術に関する知識を活用して副業をすることにした。初めてフルタイムの仕事を始める20歳の若者向けにワークショップやウェビナーを立ち上げ、受講者にモチベーションを与えたりビジネスアイデアについて話し合ったりした。
4年経った今も、ウェストは全速力で走り続けている。本業の広告業と副業のキャリアアドバイスに加え、大手企業と協力してキャリアイベントの企画も始めた。
若い働き手の間で、ウェストのように何足ものわらじを履いてキャリアを始める者が増えている。ソーシャルメディアを見れば枚挙に暇がない。ドロップシッピング、アマゾン(Amazon)転売、暗号資産投資、ビンテージ服販売などなど。自分自身でコンテンツ制作の仕事を立ち上げている人もいる。先行き不透明な経済と不安定な労働市場のなか、Z世代は副業に精を出しているのだ。
ここ数年、世代を問わずさまざまな副業を行う人が増えている。労働統計局のデータによると、フルタイムの仕事を複数掛け持ちしている人の数は近年増加傾向にあり、2022年8月には過去最高を記録した。
しかし、どの世代も副業を始めているとはいえ、この流れを牽引しているのは最も若い世代の働き手だ。マイクロソフト(Microsoft)の委託で2022年に実施された調査では、Z世代の回答者の48%が複数の副業を掛け持ちしていると答えている。
さらに有力な調査結果もある。給与計算関連の会社ペイチェックス(Paychex)による2022年の調査では、2カ所以上で雇用されている人はミレニアル世代とベビーブーム世代では約3分の1であるのに対し、Z世代では約半数となっているのだ。
Z世代が大挙して仕事に就くなか、彼ら彼女らが典型的な9時5時のキャリアパスを避けて収入を得る独自の方法を編み出していることは明らかだ。そう、Z世代は「ハッスル世代(英語では副業を「サイドハッスル」と言う)」なのだ。
Z世代の3分の1が生活費を懸念
学生や駆け出しの社会人が仕事を掛け持ちすることはよくあることだが、Z世代は社会人になってもこうした働き方を続けている。Z世代が「副業を行ったり複数の仕事に就いたりする」傾向にあるのは経済的な不安が一因だと、組織の世代意識向上を支援しているマルホランド・コンサルティング・グループ(Mulholland Consulting Group)の創業者兼CEOのサントル・ニシザキ(Santor Nishizaki)は指摘する。
デロイト(Deloitte)が2022年に実施した「Z世代・ミレニアル世代調査」では、Z世代の回答者の3分の1が一番気がかりなこととして生活費を挙げている。回答者の45%は給料ぎりぎりの生活をしており、4分の1以上が経済的な余裕を持って退職できる自信がないと答えている。
また、データ分析会社カンター(Kantar)が2023年2月に実施した世界的調査では、回答したZ世代労働者の40%が、生活費を賄うために少なくとも2つの仕事を掛け持ちしていると答えている。
しかし、現在の経済的苦境は氷山の一角にすぎない。Z世代も上の世代と同様、いい仕事に就いて一生懸命働けば報われると教えられてきた。しかし、ミレニアル世代が夢破れる姿を見たZ世代は、そんなものは破綻した社会契約であって受け入れることはできないと考えている。
「昇給はなかなかしませんし、みんな給料が安すぎると思っています。今は9時5時の仕事についてはいい話を聞きません」(ウェスト)
パンデミックとその経済的影響によって、フルタイム雇用が成功と経済的安定への最善の道であるという信念がさらに損なわれるなか、Z世代は自分の将来の面倒を誰かに見てもらおうとは思っていない。ハーバード大学の歴史学者で非常勤講師のエリック・ベイカー(Erik Baker)は最近、次のように書いている。
「我々の文化には、仕事を単に必要なだけでなく価値あるものにするものは何か、ということが書かれた台本がある。そして、その台本どおりにいかないことが増えている」
ボストン大学の経済学者ローレンス・コトリコフ(Laurence Kotlikoff)の推計によると、Z世代とミレニアル世代の半数以上は、十分な金銭的蓄えがない状態で退職生活に入る可能性がある。また、連邦住宅金融抵当公庫(Freddie Mac)の調査では、Z世代の回答者の約34%は家を購入するのは無理だと思うと答えている。
典型的な9時5時の仕事では、かつてのようなものはもはや手に入れられない。それが現実なのだ。
「『真面目に働いていれば出世して、いい車やいい家が買えてリタイアできる』みたいなことは、もう信じられません。そんな保証、もうどこにもありません」(ウェスト)
情熱を持てる仕事を
若い人の多くが生活のために複数の仕事を掛け持ちする一方で、副業はより深いレベルでその魅力を増している。Z世代にとってフリーの仕事とは、自分自身を「社畜」の境遇から解放し、自分の時間を取り戻し、関心を追求する手段になっているのだ。
「価値や情熱やパーパス(人生の目的)が得られるような何かが必要なんです。何度か転職するうちに、副業から得られる情熱や刺激が一番大事だと気づきました」(ウェスト)
25歳のアジュラ・ブラマ(Ajla Brama)は早いうちから起業家精神を持っていた。中学生の時には、家にある不要品をイーベイ(eBay)で売ったり、近所でベビーシッターをしたりしていた。ティーンエイジャーの頃から、大人になっても会社勤めはしたくないと思っていた。大学時代にはとある企業でマーケティングの仕事をやってみたが最悪だった。「私には向いてなかった」と彼女は振り返る。
ブラマは代わりに、情熱を持てることに目を向けた。ナチュラルスキンケアだ。多くの商品に有害な可能性のある成分が含まれていると知った彼女は、寮の部屋で、純粋でオーガニックな成分を用いた独自の商品を作ることを決めた。
大学を卒業してマーケティングの仕事を辞めると、ブラマはエロス・エッセンシャルズ(Eros Essentials)と名付けた会社に全力投球した。1年もすると十分に稼げるようになったので、今度は投資について学ぶことにした。
しかし、彼女は密かに蓄えを増やすのではなく(もっと上の世代ならそうしたかもしれない)、自身の投資体験を副業に変えた。投資のヒント、マネーハック、株のアドバイスをTikTokやInstagramに投稿し始めたのだ。「投資を進めて軌道に乗せながらコンテンツを作っていきました」とブラマは言う。
SNSのフォロワーが増えるにつれ、いろいろなブランド企業から追加の仕事を依頼されるようになった。それでも疲れることはなかったし、複数の仕事を掛け持ちすることで自由が得られたとブラマは言う。
「とても流動的で解放的。場所に縛られることもないし、職場の仕事スペースに縛られることもない。Wi-Fiがあれば月面でも働けます」
ベイカーは先述の記事の中で、このような起業倫理の背景にある考え方を次のように説明している。
「自分にとって最も大切なことを仕事にすれば、真に重要なことを成し遂げられる。世界を変えられるし、個性だって手に入れることができる」
ニシザキもこの変化に気づいている。Z世代はできることなら「好ましい影響を与えたいと思っている」という。彼は、マズローの欲求段階説のようなものだと説明する。つまり、若者の多くは食事や住居のような最も基本的な欲求を満たそうとしているだけなのだが、それらの欲求が満たされると、「帰属意識を求めること、影響を与えること、コミュニティを持つことがこの世代にとっては重要になる」のだという。
自分自身の上司になる
Z世代にとって、副業のメリットは経済的自由や収入が得られることだけではない。自分の時間を自分で管理できることも魅力の一つだ。独立した若い働き手はもはや、企業の一存でレイオフされたり異動させられたりすることはない。
ファイバー(Fiverr)による調査では、Z世代の回答者の67%が現在フリーランスで働いているかフリーランスになることを計画しており、5人に1人がその動機としてフルタイムで働くことへの不満を挙げている。また、オンラインホスティングスタートアップのWPエンジン(WP Engine)が実施した調査では、Z世代の回答者の62%が自営をしているか独立する気があると答えている。
SNSのおかげですぐに収益化できる副業を始めやすくなったという事情もある。バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の調査では、Z世代の回答者の72%が副業をしていると答えており、その大半は月に500~1000ドル(約7万〜14万円、1ドル=140円換算)の収入を得ている。
ニシザキによると、このような意欲的な変化はZ世代の最若年層にも見られると言い、こう続ける。
「私が子どもの頃は、大人になったら何になりたいかと聞かれたらたいていの子は消防士とか宇宙飛行士と答えていました。でも今はインフルエンサーです。Z世代は子どものうちから、YouTubeなどのプラットフォームを通してお金を稼ぐ方法もあることを知っているんです」
SNSプラットフォームは仕事のための新しい手段を開いた。ニシザキは、これからのキャリアパスはこれまでの世代のように一直線なものにはならないと考えている。
「SNSやコーセラ(Coursera)のようなプラットフォームのリソースにアクセスすれば、自分をトレーニングして市場価値を高めるスキルをいくらでも身につけられるようになりました。だからZ世代はいろいろな仕事をすることができるのでしょう」
ブラマも、Z世代には上の世代よりも多くの選択肢があり、その結果としてそれらの機会すべてをつかむことができていると見ている。
「できることがいろいろあるし、起業の敷居もすごく低くなっています。自分が持っているいずれかのスキルで仕事の機会を作り出すほうが、1つのことをするよりもはるかに稼げます」(ブラマ)
ウェストによると、彼女の意欲的なキャリアパスにもこうした現実が表れているという。
「成功するために、中間管理職になって、部門長になって、といったことが必要だとは思いません。私はむしろ、あれもこれもちょっとずつやってみて自分が得意なことや好きなことを見つけるというやり方がいい。しかも、好きなことというのもコロコロ変わるんですけど。でもその自由さと柔軟性が気に入っているんです。
私は昔から、新しいことに挑戦するのが好きなタイプでした。一つの方法で物事を行うことが成功を根本的に定義するものだとは思いません」
社員の副業は雇用主にも恩恵
若い従業員の起業精神を拒むのではなく、Z世代の働き手が情熱を追求するのを認めたり、場合によっては奨励したりしている雇用主もいる。コロナ禍以前は、働き手は本業以外のことを話すことに憚りを感じたものだが、今では多くの企業が社員の副業に理解を示している。
ウェストは、副業については雇用主から全面的な支援を受けているという。しかし彼女の友人の中には、本業の会社に見つかって解雇されるのを恐れて副業していることを隠さなければならない人もいるという。
「そんなことでは会社は若い世代を失うだけです。私の友人はみんな、何かしらの副業はしていますから」(ウェスト)
さらに言えば、社員の副業は雇用主にも恩恵をもたらしうる。働き手は副業で得た経験やスキルを本業に還元できるからだ。ニシザキはいろいろな組織に、世代意識を高めることの大切さや、個人がその潜在能力を最大限発揮できるような強みを発見することの大切さをよく説く。そして、社員が社内で手を広げられる機会を見つけるよう勧めるという。
「写真や文章に熱心な社員には会社のニュースレターを作らせたらいいし、SNSに熱心な社員には会社のTikTokアカウントを始めさせて採用ツールとして運用させたらいい。人材を失う方が、若い働き手に再投資するよりよほど高くつくのですから」(ニシザキ)
仕事に就くZ世代が増えるなか、企業は彼ら彼女らのハッスル(副業)するマインドセットを見込んでおく必要がある。若い働き手は上の世代よりも、情熱を持てる仕事を見つけたいという動機が大きい。休むことなく働いてキャリアの階段をのぼったあげく、頂上からは大したものが見えないというのは嫌なのだ。Z世代は野心的で楽観的なので、そんなことにはならない。
「実際、私たちは自分が本当にやりたいことについて、もっと自由に考えることができるんです」(ウェスト)