米資産運用大手アライアンス・バーンスタイン(AllianceBernstein)が、各業界における人工知能(AI)普及浸透の影響について、「3〜5年後」の近未来予測を発表した。
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米資産運用大手アライアンス・バーンスタイン(AllianceBernstein)の調査レポート「ブラックブック(Blackbook)」は、公平かつ深層に迫る企業分析や業界予測に定評がある。近ごろ公表された最新版のテーマは「人工知能(AI)」だ。
2022年11月に対話型AI「ChatGPT(チャットジーピーティー)」が登場して以降、ジェネレーティブ(生成)AI関連の技術は株式市場まで含めて世界を席巻している。
過剰な期待、人類に対する脅威、生産性を劇的に向上させる可能性、新たなオンライン体験……投資家にとっては無視できない要素だらけだ。
バーンスタインのアナリストチームは、今後AIは各業界のどの部分で、なぜ、どのように価値を創造、破壊し、移転させるのか、最新のブラックブックで明らかにした上で、今後3〜5年の間にAIが進化、普及浸透していくことで、各業界の勝者になる企業、敗者になる企業を特定している。
以下では、300ページを超えるレポートのハイライト部分を紹介しよう(全文は機関投資家などバーンスタインの顧客向けに限定提供)。
- 2023年、AIを中核とするシステムへの支出は1540億ドル(約21兆5600億円)に達する。
- AIモデルのトレーニング向け画像処理半導体(GPU)の絶対数は不足しているが、処理能力は向上している。
- 「大規模言語モデル(LLM)の導入スケールが大きくなるにつれコストは低下していくと思われるが、検索向けであれ何であれ、LLMが恒常的に利用されるようになれば、GPU市場は間違いなく数倍規模に拡大する」
- ChatGPTのようなサービスが今日のグーグル検索に近いくらい使われるようになるとすれば、GPUへの需要もそれに応じて持続し、現時点で圧倒的な市場シェアを占める画像処理半導体大手エヌビディア(Nvidia)もその恩恵を受けることになる。
- AIモデルはさらなる効率化が進むものの、1クエリ(質問、処理要求)当たり4セントとして、それが数十億クエリまで膨れ上がるとしたら、とんでもないコストになる。現存する企業でその金額を負担し、ビジネスチャンスとして活用できるのは大企業に限定される。したがって、AIの普及拡大はビッグテックの独占と繁栄を後押しすることになる。
- 非営利の投資専門家団体、CFA協会(CFA Institute)の2020年調査によれば、リスクマネジメント手段としてAIを活用した経験のある認定証券アナリスト(CFA)はわずか5%。対話型AIには、業界で言うところの「幻覚(症状)」、つまり一種の“創作癖”があり、企業がそれぞれ独自にブラックボックスのAIモデルを提供するのでは、投資の過程を確認したり結果を説明したりが困難になる。
- 資産運用にAIを活用するヘッジファンドは、複数の戦略を代表するヘッジファンドから構成されるインデックス(指数)をアウトパフォームしている。CAGR(複利運用時の年率平均リターン)は前者が9.8%、後者が5.8%。この実績を踏まえると、投資におけるAI活用は今後増加していくと予想される。
- AIの爆発的普及によって敗者となる可能性が高いのは、豊富なデータを抱える小規模な小売りブランドや、規模は十分でもテクノロジーを有しない大規模なレガシーブランド。前者の例が、AIの運用能力と規模感を欠くスタイリングサービスのスティッチフィックス(Stitch Fix)、後者の例は米百貨店大手のノードストローム(Nordstrom)。
- 一夜漬けで詰め込み型の技術導入を進めても、結局のところ、事業の中核業務にAIを統合できない企業は敗者になる。
- AIはプラットフォームや生産性の効率化を通じて、Eコマース企業のオペレーションコスト削減に貢献する可能性があるものの、いくつかのネガティブな影響も想定され、「諸刃の剣」と言うべき。最大手クラスのECサイトが主な集客経路として頼りにする直接流入は、AIに侵食される恐れがある。
- 直接流入の経路が侵食されることで、ECサイト運営企業は、顧客ロイヤルティ、データへのアクセス、広告のような追加的サービスを使った販売能力が毀損(きそん)される恐れがある。
- オンライン旅行代理店は、レコメンド(推奨)機能の関連性および正確性向上を通じてAIの恩恵を受けるが、一方で、旅行業界の収益モデルはAIによって揺らぐ可能性もある。各種の対話型AIのレコメンドで(プラットフォームや自社商品が)優位となるよう資金を投じる対策は確実にブーストとなる。
- 旅行業界において、2019年〜22年に市場シェアを拡大した企業はいずれもAIに投資している。