セコイアが3分割に。米国責任者のボサ(左)と中国責任者のシェンの権力争い疑惑に終止符か。
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大手VCセコイア・キャピタル(Sequoia Capital)が分割される。
同社は6月6日、欧米のセコイア・キャピタル、中国のホンシャン(HongShan)、インド東南アジアのピークXVパートナーズ(Peak XV Partners)に会社を3分割すると発表した。
フォーブスのアレックス・コンラッド(Alex Konrad)が伝えたところによると、これは各社が競合するスタートアップに投資できるようにすることで、グローバルな投資事業を運営するうえでの問題を回避するためだという。
この決定は、シリコンバレーきっての著名企業である同社において権力闘争が行われているのではないかという疑いを払拭するものだ。
ダグ・レオン(Doug Leone)がセコイアのグローバルマネージングパートナーの地位から退く前の数年間、彼の後任者候補として2人の名前が取り沙汰されていた。米国では、インスタグラム(Instagram)やユーチューブ(YouTube)、そしてフィンテック企業のブロック(Block、旧スクエア)など、同社の最高のディールのいくつかを成立させたキングメーカーだったロエロフ・ボサ(Roelof Botha)が有力候補と思われた。
ボサの強力な競合者となったのはニール・シェン(Neil Shen)だ。ブルームバーグによると、彼はセコイア・キャピタル・チャイナを自らの手で約560億ドル(約7兆8400億円、1ドル=140円換算)の資産を誇る巨大VCへと築き上げた。
シェンは、ティックトック(TikTok)の親会社で2200億ドル(約30兆8000億円)という世界屈指の評価額を誇るバイトダンス(Bytedance)の取締役を務めるほか、中国のユニコーン企業である美団(Meituan)や拼多多(Pinduoduo)に出資している。
2022年夏、ボサはセコイアの「シニアスチュワード」に昇進し、シェンはセコイア・チャイナのトップに留まることになった。この時、米国と中国の間の緊張の高まりのせいでシェンはグローバルのトップに就けなかったとの憶測が流れた。規制措置により今後、米国企業が中国企業に投資するのが難しくなる可能性がある。
しかし、シェンは事実上、すでに自らの会社を運営していた。彼はセコイア・チャイナの300人の従業員を率い、投資家からの資金調達の先頭に立っていた(シェンはフォーブスに対し、直近の90億ドル〔約1兆2600億円〕にのぼる資金調達の大半は「外国のお金」で、中国からの資金はないと語っている)。ブルームバーグによると、国外投資に対する拒否権が存在する他のグローバルVCとは違い、セコイア・チャイナは完全に自律的に契約を結ぶことができた。
VC各社は2つのアプローチを通して米国外の投資を行っている。GVやインデックス・ベンチャーズ(Index Ventures)といった企業の場合、世界中に投資家がいてシリコンバレー以外の投資機会を探し回っているが、地域に特化したファンドではなく、世界中どこでも投資できるボーダレスファンドからの投資がほとんどだ。
これとは対照的に、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ(Lightspeed Venture Partners)はインドでの資金調達や投資のための別個のファンドを持っている。アクセル(Accel)もインドや欧州での投資のための別個のファンドを運営している。
セコイアは欧州のスタートアップへの投資を継続する。同社はアクセルのプリンシパルだったジュリアン・ベック(Julien Bek)を引き抜いて6人目のロンドン駐在パートナーにした。
セコイア・チャイナが別個の会社として運営されるようになるというニュースが示唆するのは、シェンがいいとこ取りをできるということだ。移行期間中、同社は財務、テクノロジー、コンプライアンスを担当するバックオフィスを新設する。
中国との関係はセコイア・キャピタルにとって、ここ数カ月にわたって頭痛の種になっていた。ジ・インフォメーションの調べによると、株式市場の暴落によりセコイアの株式ポートフォリオから数十億ドルもの価値が失われた。また、破綻した暗号資産取引所FTXへの投資では2億1300万ドル(約298億円)の損失を被った。さらに、イーロン・マスク(Elon Musk)のツイッター(Twitter)買収に8億ドル(約1120億円)を投じたが、フィデリティ(Fidelity)の推計ではツイッターの価値はマスクが支払った金額の3分の1に過ぎない。
現在のセコイアはAI(人工知能)に全力を注いでいるようで、今年新たに行った投資の半分以上がこのホットな分野に集中している。
なお、Insiderはセコイア・キャピタルの広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。