米顧客関係管理ソフトウェア大手セールスフォース(Salesforce)のマーク・ベニオフ最高経営責任者(CEO)。
Photo by Kimberly White/Getty Images for Fortune
セールスフォース(Salesforce)のマーク・ベニオフ共同創業者兼会長兼最高経営責任者(CEO)は、同社からアマゾン(Amazon)やオラクル(Oracle)など競合企業に移籍した複数の幹部人材を引き戻す人事を発表した。
同時に、同社在籍24年のベテランでプレジデント兼最高執行責任者(COO)を務めるブライアン・ミルハム氏の統括する部門、すなわち経営幹部としての権限が大幅に拡充された。
ベニオフ氏に続く後継者計画の不透明さを懸念する投資家の声に応える動きと見ていいだろう。
セールスフォースはこの1年半、極めて困難な状況に直面してきた。
アクティビスト投資家、いわゆる「物言う株主」が相次いで同社の株式を大量取得し、経営陣に厳しい要求を突きつけた。ベニオフ氏はその求めに応じ、従業員総数の10%に相当する約7000人のレイオフ(一時解雇)を発表。それと前後して、複数の有力経営幹部が同社を去った。
コスト削減の成果は間もなく可視化され、2022会計年度第4四半期(2022年11月〜23年1月)決算は売上高・利益とも市場予想をはるかに上回り、通期の調整後営業利益率は過去最高の22.5%を記録した。2023会計年度は27%を目指すと、意欲的な目標も掲げた。
さらに、6月1日に発表したばかりの2023会計年度第1四半期(2〜4月)も、売上高・利益ともに市場予想を上回った。同時に、わずか3カ月前に示した調整後営業利益率の見通しを1%引き上げ、28%とした。
セールスフォースのベニオフCEOとミルハムCOOは近ごろ、Insiderグローバル編集長のニコラス・カールソンの取材に応じ、昨今の同社の劇的な体質変化について語った。
以下にその内容を掲載する。分量を圧縮した上で、読みやすくするために適宜編集を加えたことをご了承いただきたい。
ベニオフ:在籍24年目のブライアン(・ミルハム)のおかげで、セールスフォースはいま驚異的な業績を実現できています。ブライアンの社員番号は13、ラッキーナンバーの13です。
ブライアンは昨年8月にCOOに就任、セールスやサービス部門を中心に従業員総数の50%超を統括し、ここまで驚異的な活躍を見せてきました。
今回さらに、エンプロイー(従業員)サクセスやHR(人事)、他社で言うところのIT部門および改革推進組織に相当するビジネステクノロジーまで統括することになり、ブライアンはまた素晴らしい新たな活躍の場を得たわけです。彼の能力を発揮する領域が著しく広がったと言っていいでしょう。
これで従業員総数のいったい何%を統括することになるのかな。
ミルハム:70%近くです。
カールソン:単刀直入な質問で恐縮なのですが、ブライアンをいますぐ(ベニオフ氏と肩を並べる)共同CEOに指名しないのはなぜなんでしょう?
ベニオフ:そうですね、当社では走り出す前に歩かねばならない、とでも言えばいいでしょうか(訳注:助走期間が必要との意か)。
ブライアンは素晴らしい人物だし、すでにプレジデント兼COOとして実績も上げ、何より25年近く一緒に事業を進めてきた最も信頼のおけるパートナーです。その彼の能力を発揮する場がさらに増えるのだから、興奮を禁じ得ませんね。
カールソン:今回統括する部門が増えるとのことで、楽しみなのはどのあたりですか。
ミルハム:新たな担当部門に出会えて興奮しています。とにかくものすごくワクワクしているのは、まずは製品の観点から、目の前にある大きなチャンスを活かせること。当社の製品開発チームが生み出すイノベーションは本当に信じられないほど素晴らしい。お客さまにもきっと評価していただけると思います。
それに、当社の企業カルチャーである「オハナ(ハワイ語で家族もしくは血縁のない家族のような仲間を指す)」に直接関わる立場になったことにもワクワクしています。
HR部門の日々の業務、つまり社内でエンプロイーサクセスと呼ばれる取り組みにもっと積極的に関与し、従業員としっかり向き合っていきたい。当社には素晴らしいカルチャーがあるのです。
マーク(・ベニオフ)も、直近の(2023会計年度第1四半期)決算発表の場で、カルチャーはセールスフォースが持つ特別な力なんだと語ったと思います。
IT部門、当社で言うところのビジネステクノロジー部門も強力なリーダーシップで事業を推進しており、独自のテクノロジーを駆使して業務効率の改善やスケールアップ、組織改革などに素晴らしい成果を上げています。
あとはマーケティング部門を担当するのも非常に楽しみですね。
カールソン:ブライアン、セールスフォースは数カ月かけて大規模なレイオフを進めてきたわけですが、軌道修正や手当てなど何かやるべきことはあると思いますか。従業員としっかり向き合っていくと先ほど言っていましたが、具体的に何を意味しているのでしょうか。
ミルハム:当社の企業カルチャーである「オハナ」にこだわっていくことだと思っています。当社はここしばらく間違いなく困難な時期を経験してきましたが、その間、企業カルチャーに関して、復活を遂げたことや再発見したことがいろいろあったと思っています。
だからこそ、前会計年度の第4四半期(11〜1月)と今会計年度の第1四半期(2〜4月)と連続して数字を出せたことに、従業員たちはすごく、すごく興奮しているのだと思います。目の前で結果が出たのですから。
いまセールスフォースに戻ってきたいと言っている元従業員がいっぱいいて、実際、信じがたいほどに実績のある優秀な「出戻り」が復帰しています。
最近社内向けに発表したばかりですが、アリエル・ケルマンが最高マーケティング責任者(CMO)、ミゲル・ミラノは最高収益責任者(CRO)に、さらにケンダル・コリンズがチーフ・オブ・スタッフ(ベニオフCEOの参謀役、グローバルコミュニケーションチームを統括)として復帰します。
元従業員がこれほど会社に戻ってきたいと言うのだから、それは私たちが(この困難な時期に)やり遂げてきたことに、みんな刺激を受けているということだと思います。
ベニオフ:重要なのは、ブライアンが紹介した経営幹部たちは(一度会社を離れた後も)常にセールスフォースの一員だと感じていたということです。言ってみれば、彼らはセールスフォースのメンバーとして「外部トレーニング」を受けていたんですね(笑)。
彼らは決して「オハナ」を捨てたわけではなかったのです。だからこそ、彼らはここに帰ってきました。そして素晴らしいことに、復帰したメンバーはほぼ間髪おかずに仕事を始め、いきなり全力でそれぞれの事業に取り組めるのです。
カールソン:マーク、あなたはこれまで2人の有力経営幹部を共同CEOに就任させていますが、いずれも辞めてしまいましたよね。今回は何が違うのでしょうか?
ベニオフ:まあ、ブライアンと私の結婚生活にはこれだけの実績がありますからね。実に25年近くになります。ブライアンと私以上に、長期間にわたって成功を収めたビジネスパートナーシップはないんじゃないでしょうか。
カールソン:ブライアン、あなたは(共同CEOを務めた)キース・ブロック、ブレット・テイラーとは違う何かをしようと考えていますか?
ミルハム:私はマークと今日に至るまで24年も一緒にいて、会社やカルチャーを常に身近に感じて過ごし、日々の業務の流れも知り抜いています。自分の任された役割に何を期待されているのかも分かっています。24年間、毎日その仕事をやってきたのですから。
この役目をやり遂げるために必要なことをしっかり目を見開いて学んできましたし、このマークとの結婚生活を引き続きうまくいかせるのに十分なくらいに、仕事も会社も理解している自負があります。
だから、自分としてはセールスフォースの未来には何の不安もありませんし、その未来に踏み出していくのがただただ楽しみで仕方がないのです。