WHILLの電動車いすを前に記念撮影する杉江理CEO(中央)。
撮影:土屋咲花
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に移行されて約1カ月。観光地や商業施設などでは人々の動きが活発化している。
こうした中、電動車いすを開発するモビリティベンチャーのWHILLは、商業施設などに同社の電動車いすを導入する法人サービスを本格化させる。外出したくても歩行に困難を抱える人が、施設を利用しやすくする狙いだ。
サブスク形式で車両とシステムを提供
法人向けサービスで提供する管理システム。機体の現在地や利用経路などが分かる。
撮影:土屋咲花
「外出規制の緩和で行楽客が回復している中で、旅行関係の施設などから『幅広い世代にもっと来場してもらいたい』『施設にもっと長く滞在してもらいたい』といった問い合わせや依頼をいただく機会が増えています」
6月13日に都内で開いた新事業説明会で、WHILLの杉江理CEOはこう語った。
新たに始める法人向けサービス「WHILLモビリティサービス スタンダードモデル」は、WHILLの機体のほか、点検や保険サービスなどをサブスクリプション形式で提供する。既に国内外の空港で導入されている自動運転モデルとは異なる。
価格は1台につき月額2万3000円からで、別途初期費用(9800円)が必要。
顧客として想定する商業施設や博物館などは既に車いすのレンタルが可能なことも多いが、WHILLは機体の利用履歴や現在位置などを端末上で把握できる管理システムも開発した。導入効果を可視化するほか、車両の再配置や設置場所の最適化も図れる点で差別化する。
機体は段差や悪路に強い「Model C2」、スクータータイプの「Model S」と折りたたみ可能な「Model F」の3種類から選べ、施設の特性に合わせて使い分けてもらう想定だ。
同社は施設側の導入メリットとして再来場の促進や滞在時間の延長に伴う経済効果、高齢者や家族連れの利用促進を挙げる。
目標については非公開だが、国内外に幅広く展開を目指す。「この業界をリードしていくような規模でやっていきたい」(杉江CEO)という。
既に15施設で利用
WHILLの法人向けサービスが導入されている施設。
出典:WHILL
同社は2021年から、実証実験やPoCの位置づけで商業施設や行楽地への機体導入を進めてきた。現在はハウステンボスや日本科学未来館、ふかや花園プレミアム・アウトレットなど15施設が導入している。
2023年3月に開業したばかりの、北海道日本ハムファイターズの新球場を核とした複合施設「北海道ボールパークFビレッジ(HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE)」もWHILLを導入している。
説明会に登壇した同施設の担当者は「シニア層だけでなく、足を骨折している学生にも利用されています。WHILLがあるからボールパークに安心して来れる、といった声をいただいています」と話した。
同施設では車両の稼働率が高く、当初より5台増やして現在は計16台が稼働しているという。
「Fビレッジは2024年にはシニア向けのレジデンスやメディカルモールが敷地の中にできる予定です。点在していく各コンテンツをいかに繋ぎ、人の行き来を生んでいくのかという時にキーになるのは、モビリティ(移動のしやすさ)だと思っております」(同施設の担当者)
「普段は車いすでなくても、長時間はつらい」人に
WHILL社の電動車いす。
撮影:土屋咲花
WHILL社の試算によると、65歳以上で1キロ以上の連続した歩行が困難な人は約1670万人いる。同社が65歳以上の男女を対象に行った調査では、「外出が減る→外出が億劫になる→さらに外出が減る」という経験をした人の割合が44.5%に上った。
「普段は車椅子を使うまではいかなくても、長距離や長時間の歩行は辛いという方々が、多数存在しているというのが現実です。シニアの方はもちろんですが、それ以外にも怪我をしている方や妊婦の方といった、外出時に長時間一緒に歩くのが難しい方々がより良く楽しめるような世界を作っていきたい」(杉江CEO)