元サッカーイングランド代表のデビッド・ベッカム氏が9カ国語でメッセージを読み上げる動画を制作して話題を呼んだSynthesia(シンセシア)がユニコーンの仲間入りを果たした。
Synthesia YouTube Official Channel
ジェネレーティブ(生成)AI開発を手がけるシンセシア(Synthesia)が9000万ドルの資金調達に成功。評価額は10億ドルに達し、AI分野におけるユニコーン誕生の最新事例となった。
2017年創業、英ロンドンに本拠を置くシンセシアは、テキストもしくは録音された音声データをもとに、本物の人間とほぼ区別不可能なアバターによる発音動画を短時間で生成する技術の開発を進める。
今回の資金調達はシリーズCラウンド。フェイスブック(Facebook)やスラック(Slack)の初期投資元として知られる名門ベンチャーキャピタル(VC)のアクセル(Accel)がリードインベスターを担った。
画像処理半導体大手エヌビディア(Nvidia)のベンチャーキャピタル部門、エヌベンチャーズ(NVentures)もラウンドに参画した。
Insiderはこの資金調達ラウンドがクローズに近い段階にあることを4月27日付記事で報じていた。
シンセシアのビクトル・リパベリ最高経営責任者(CEO)はInsiderの取材に対し、次のように語った。
「創業して6年になりますが、その間に基礎技術を確立できたことに満足しています。最新のプロダクトに使われているのもほとんどがそれらの技術です。
今年に入ってからビジネス面で大きな成長を経験し、同時にこの(生成AIに注目が集まる)チャンスが私たちにとって大きなものになるとの確信を抱くようになりました。だからここで、私たちの掲げるビジョンの実現に向けて(チームを)強化することを決めたのです」
2022年11月に米OpenAI(オープンエーアイ)が対話型AI「Chat GPT」をリリースし、さらに今年3月に次世代大規模言語モデル「GPT-4」を投入したことで、AIへの注目度は飛躍的に高まった。
一方、AIブームという追い風が吹いてもなお、テック系スタートアップ全般にとっては「冬の時代」と呼ばれる厳しい資金調達環境が続いており、各社の評価額は大幅減、良くても横ばいという苦境に目立った変化は見られない。
リパベリ氏によれば、そうした状況下でシンセシアがユニコーン(評価額10億ドル以上の非公開企業)の仲間入りを果たすことができたのは、大幅なユーザー増を実現したことに加え、財務状況など堅固なファンダメンタルズがあるからだという。
「2年前に比べれば、ユニコーンへのハードルは高まっています。資金調達を実現するには以前より多くの承認が必要だし、それを得るのもより困難な状況があります。
ユニコーン化と言っても結局は数字上の話にすぎないのですが、それでも、私たちにとって重要なマイルストーンであることに変わりはありません。
また、私たちが誇りに思うのは、ヨーロッパを本拠とするAI企業のトップ集団の中にいることです。引き続き、優秀な人材の集まるヨーロッパをベースに、世界に対して大きな影響力を持つAI企業へと成長を続けていければと思います」
シンセシアは2021年12月、名門VCクライナー・パーキンス(Kleiner Perkins)をリードインベスターとするシリーズBラウンドで5000万ドルを調達。アルファベット傘下のVCでグーグル(Google)の兄弟会社、GV(旧Google Ventures)なども参画した。
シンセシアの発表によれば、上記の既存出資企業も今回のシリーズCラウンドで追加出資している。
リパベリ氏の説明によれば、新たに調達した資金はまず人員補強に充当され、同社は従業員総数を現在の200人強から250人程度まで増やす計画。その他、AI関連の研究や動画編集プラットフォームの構築や既存サービスの改善にも資金を配分するという。
シンセシアは2021年、マラリア撲滅を目指す公衆衛生キャンペーン「マラリア・マスト・ダイ(Malaria Must Die)」のPRに際し、元サッカーイングランド代表のデビッド・ベッカム氏が9カ国語で語りかける動画を作成して注目を浴びた。
デビッド・ベッカム氏が9カ国語で訴えかけるSynthesia制作の動画。
Zero Malaria Britain
なお、ベッカム氏動画の制作経緯は、シンセシアが作成した以下のYouTube動画にまとめられている。
冒頭近くにシンセシア(Synthesia)のリパベリCEOも登場するメイキング動画。
Zero Malaria Britain