(写真はイメージです)
Manjurul/GettyImages
まだ国内では数が少ない「合成生物学」の分野の大学発ディープテックベンチャーに新たな動きだ。
6月14日、合成生物学や微生物の代謝の研究で知られる石川県立大学の南博道准教授が共同創業者を務めるスタートアップのファーメランタ社が、シードラウンドで第三者割当増資による総額2億円の資金調達を発表した。引受先となったのは、Beyond Next Ventures、Angel Bridge、Plug and Play Japan。
合成生物学とは、遺伝子を好きなように改変して機能性をもたせた微生物を設計したり、人工の生物システムを構築する分野。医薬品などの欲しい成分を生み出す微生物を作り出し、「生産工場」として活用する。
ゲノム編集や遺伝子組み換えなどの遺伝子を改変する技術が発達してきたことで、研究現場ではこういった合成生物学を活用した研究開発が当たり前のように進められつつある。
ファーメランタ社の強みは、この分野で世界をリードする技術にある。
植物の有効成分を遺伝子改変した大腸菌に作らせる
中央いるのが柊崎庄吾代表。その右にいるのが、CSOの南准教授。
画像:ファーメランタ
ファーメランタは、2022年10月に設立したばかりの石川県立大発のスタートアップだ。
私たちはこれまで、新しい医薬品を開発するために、植物などが生産する天然の化合物を抽出して活用したり、その成分を人工的に合成したりする研究を積み重ねてきた。ただ、植物の二次代謝産物と呼ばれる複雑な化合物を人工的に作るのは難しく、一方植物をたくさん育てて抽出しようにも、時間の問題や希少成分であるがゆえに工業的な生産が難しいという課題があった。
ファーメランタでは、植物の複雑な代謝によって生み出される成分(二次代謝産物)を大腸菌に作らせることを狙う。
柊崎庄吾代表は、
「大腸菌にその成分を生産させる能力を付与して、大量培養することができれば、時間もコストも大きく短縮できる」
とBusiness Insider Japanの取材に対して自信を語る。
その自信の背景にあるのが、CSO(Chief Scientific Officer)を務める南准教授らの研究バックグラウンドだ。
20個以上の遺伝子を導入・発現する世界トップ技術
微生物を培養している様子。
画像:ファーメランタ
南准教授ら研究グループは、2008年に植物の二次代謝産物として知られている「アルカロイド」を微生物を使って生産することに世界で初めて成功。これがファーメランタの技術基盤となっている。現在では、大腸菌に20個以上の遺伝子を導入し、適切に発現(遺伝子がうまく働くこと)させる技術を確立しているという。
「10や20の遺伝子を『入れる』ことはできても、それをうまく発現させるにはノウハウが必要なんです」(南准教授)
例えば、麻酔として知られる「モルヒネ」の原材料であるレチクリンや、テバインと呼ばれる鎮痛・中毒治療薬の原料(どちらもアルカロイドの一種)。さらに、大麻に含まれる成分として知られている※カンナビノイド(CBD)など、産業的に需要の高い成分の生産にすでに成功しているという。
※欧米では、CBDを有効成分とする医療用医薬品が承認されており需要がある。
大腸菌の中でさまざまな化合物を作って目的の成分を生産するイメージ。それぞれの化合物を作るうえで必要な遺伝子を導入する。
画像:ファーメランタ
海外を見渡せば、同じ領域で有効成分の生産を目指す企業もある。
ただ、酵母菌を使ってテバインの生産を実現しているスタンフォード大学ベンチャーのAntheiaでも、培養液1リットルあたりで生産できる量は6.4マイクログラムとまだ微量だ。ファーメランタでは、植物由来(化合物名については非公開)のアルカロイドを、培養液1リットルあたり「数グラム」の規模で生産することに成功しているという。
今回の資金調達で、研究拠点の整備や人員の増強を進め、さらに生産効率を高める改良を進めていくとしている。
世界を見渡せば、合成生物学的な手法で研究開発を進めている企業は多い。経済産業省の資料によると、アメリカでは、合成生物学ベンチャーへの民間投資額が2021年段階で約2兆円に達しているという。
実際、バクテリアを活用して新たな抗生物質の開発などを進めている米ナスダックに上場した「ギンコ・バイオワークス」や、機械学習を活用して遺伝子を組み替えた微生物に効率的にタンパク質や樹脂素材などを製造させる技術を持つザイマージェンなどが知られている。