LGBT法の背後で急増する「差別ビラ」。渋谷駅ビルのトイレ、マクドナルドにも

ビラの写真

悪質なビラが拡散している。

撮影:横山耕太郎

衆院本会議で可決された「LGBT理解増進法案」をめぐり、性的マイノリティ、特にトランスジェンダーへの差別を煽動するビラが拡散している。

中には「女子トイレが廃止されることを知っていますか?」など事実誤認に基づく表現が多用されている悪質なものも多い。

こうしたビラは商業施設や飲食店などに広がっており、企業の姿勢も問われる事態だ。

性的マイノリティ支援団体は「差別をあおる行為で絶対に許されない」と訴えている。

渋谷の商業施設のトイレにも

ビラの写真

渋谷マークシティのトイレにあったビラ。

読者提供

渋谷駅に直結する複合施設「渋谷マークシティ」の女子トイレ個室のドアに、6月10日午後3時30分頃、差別ビラが貼られているのが見つかった。

ビラには「LGBT法案差別禁止条項で女子トイレが廃止されることを知っていますか?」と書かれ、「女子トイレや女子浴場に男性が入る」とし、性犯罪に繋がる可能性があるなどとしている。

しかし現在議論されている「LGBT理解増進法案」は、その目的が「国民の理解の増進」であり、トイレや風呂の施設利用を変更する根拠となるものではなく、ビラの主張は事実ではない。

同ビラは12日午前には撤去されていた。渋谷マークシティに差別ビラへの対応について問い合わせたところ、「警備から報告がきていない。社内で事実が確認できていないのでコメントできない」とした。

マクドナルド「見つけ次第撤去」

マクドナルド

マクドナルドにも類似のビラが置かれていた(写真はイメージです)。

shutterstock/ beeboys

こうしたビラが拡散し始めたのは、自民党の特命委員会で「LGBT法案」についての議論が本格化した5月頃とみられる。

Business Insider Japanの取材に応じたレズビアンの女性は、5月下旬、同じ趣旨のビラを東京都内のマクドナルドで目撃した。

テーブルの複数の座席に複数枚のビラが置かれており、その場で全てをゴミ箱に処分したという。

「ヘイトビラを見てしまった瞬間のショックは、今も癒えていません」と話す。

日本マクドナルドは取材に対し、店舗にビラが置かれていたかどうか当該店に確認した上で、

「当日『チラシを置いてよいか』という問い合わせはなかった。お客様がチラシ等を間違って置いた場合でも、クルーが店内を巡回した際、見つけ次第撤去させていただいております」(広報)とし、加えて、会社として多様性ある環境づくりに注力していることを強調した。

SNSへの投稿も相次ぐ

差別ビラが自宅ポストにも投函されたとする、SNSの投稿も相次いだ。

「ついに我が家のポストにも「LGBT法案反対ビラ」が投函されてました。 ビラの存在を知ってはいたけど、(たまたまとはいえ)当事者の家に投函されるとショックが大きいですね。一応、資料として貼っておくと、ビラの裏側のQRコードからはこのWebページに飛ぶようです」

「多分近所の人が撒いてるんだろうけど近くにこう思ってる人がいるんだと思ったら朝から気分が沈むこれを近所の多くの人が読んでしまってるという事実にも」

大きな事実誤認「ビラは危険」

集会の写真

6月14日には国会議事堂前で「LGBT理解増進法案」の内容に抗議する集会が開かれた。

撮影:横山耕太郎

トランスジェンダー女性でLGBT法連合会理事の時枝穂さんは、「今回のビラ配りは組織的に行われている印象がありますが、トイレにまで貼るなんて信じられない」と話す。

「例えば『男性は性犯罪をするから、男性すべてを排除する』とはならないように、トランスジェンダーを一括りにして語るは間違っています。今回のようなビラは人権を踏みにじるものです」 (時枝さん)

差別ビラの問題点について、支援団体「fair」代表理事の松岡宗嗣氏は「事実と異なる“懸念”をもとに、不安を煽ることは非常に危険」だと指摘する。

「トランスジェンダーの実態とは異なるにもかかわらず、こうしたビラによって、性的マイノリティー、特にトランスジェンダーが『こんなに危険なんだと』と差別や偏見を煽動してしまう」(松岡さん)

今回のビラに書かれている「トランスジェンダー女性が女子トイレ・浴場を利用できるようになり性犯罪が起きる」という主張には、大きく2つの事実誤認があると松岡さんはいう。

まず一つは、性犯罪とトランスジェンダーを結びつけている点だ。

性暴力や性犯罪は誰であっても許されないというのが大前提です。こうした差別ビラでは、あたかもトランスジェンダー女性と性犯罪者を同一視していますが、これは実態とは異なり、偏見だと言わざるを得ません。

むしろトランスジェンダー女性の約6割が性暴力被害を受けているという調査もあります」

一方で「男性が女性だと自称すれば女性トイレに入れるように、トイレの利用基準が変わってしまうのではないか」と不安に思う人もいる。

「そうした不安に対しては、LGBT理解増進法案が男女別施設の利用基準を変えるものではないことや、トランスジェンダーの実態を伝えることだと思います。さらに性別分けされた施設や制度をめぐる考え方も含めて、さまざまなケースに応じて丁寧に整理する必要があると思います。

しかしビラでは、明らかにトランスジェンダーを加害者かのように見立て一律に排除しようとしており、非常に問題です」

松岡さん写真

「fair」代表理事の松岡宗嗣氏。

撮影:横山耕太郎

今回のビラに関するもう一つの事実誤認は、男女別の施設利用のあり方は、本人の状況や施設環境によって異なり、すでに利用可否が個別に判断されているということだ。

「職場や学校といった特定の人が利用するトイレなのか、または不特定多数が使う施設なのかによっても異なりますし、更衣室などでもそれぞれ状況が違います。

また公衆浴場に関しては、利用者が全裸になる状況であり、厚生労働省も身体的な特徴に基づく男女に区別することと定めており、ここは一定の合理性があると言えると思います」

松岡さんは「合理的な理由のある区別は、差別ではない」と説明する。

「当事者の状況や施設環境に応じて、個別に調整して利用できるかできないかを判断する。そして利用が難しい場合には別の方法を考えるといった『合理的配慮』の提供が重要です。こうした個別調整ではなく、すべて一緒くたにし、一律で排除するということは問題だと思います」

「差別」とどう戦うか

深刻化する差別的なビラの拡散問題に、私たちはどう向き合っていけばいいのか?

松岡さんは「ビラに書かれていることをそのまま真に受けてしまうのではなく、トランスジェンダーの実態を理解してほしい」と話す。

「今回のようなビラは明らかに事実誤認な言説ばかりです。日々の暮らしの中で差別や偏見によって苦しい思いをしているマイノリティについて、実態を無視し議論の“おもちゃ”にしてはいけないと思っています。

こうした情報を目にした時には、丁寧に事実を調べ、確認してほしいと思っています」

悪質なビラは、民間の商業施設や飲食店でも発見されている。

性的マイノリティ支援を表明している企業も少なくないが、今回のようなビラへの対応も含めて、事実誤認をはらむ差別的な表現に対し、企業としてどう向き合っていくかが問われている。

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