ユナイテッドアローズの松崎善則社長。
撮影:土屋咲花
「今、店舗での1接客あたりの時間が、すごく長くなってきているんです」
アパレル大手ユナイテッドアローズの松崎善則社長は、2023年に入ってからのリアル店舗の変化についてこう語る。
同社はコロナ禍で不採算店舗の撤退を進め、2022年度は19店を退店。店舗数を約2割減らし、収益体質への改善を進めた結果、直近の決算では業績が回復基調にある。
アフターコロナの「攻め」を示すように、同社は5月、3年で100店舗の拡大を目指す中期経営計画も発表している。
リアル店舗か、ECの成長か —— 変化のただなかで舵取りを進めるアパレル大手の今を松崎氏に聞く。
撮影:土屋咲花
ユナイテッドアローズは社員による質の高い接客が強みで、店舗従業員の98%が社員だ。
コロナ禍後に店舗で起こっている「接客時間の延伸」について、松崎社長はこう語る。
「コロナ禍前はふらっと来店される方が多かったのですが、今はある程度購入意思がある方が多く、接客が多岐に及んでいることが理由です。
(コロナ前のように)流動客が多いとどの方が購買意欲が高いかの判別が難しいため、手当たり次第アプローチして様子を見ることになります。
(一方)目的意識を持ってご来店される方にきちんと接客ができれば、お買い上げに繋がりやすいため現在の傾向は好ましい。強みにしてきたことが生かしやすくなったと思っています」
ECで新ブランド→実店舗化する「新・出店戦略」
EC化率の変化。ユナイテッドアローズは従来から平均値より高い水準だが、コロナ禍では大きく比率を引き上げた。
ウェブサイトより編集部キャプチャ
ユナイテッドアローズはコロナ禍で経営体質改善に取り組んだが、その一つがEC化率の向上だった。
ウェブサイトで公開しているグラフによると、同社のEC化率はコロナ禍前から全国の衣類、服飾雑貨のEC化率と比べて高い水準を保ってきたが、2019~2020年は約30%まで伸びた。2022年には自社ECをリニューアルしているが、直近の同社のEC化率は25.4%(2022年度)で下降傾向。
見えてきたことは、実店舗の重要性だった。松崎社長は、
「新規の方がECでいきなり買い始めるというのはあまりなく、店舗で購入経験がある方がECでもお買い物される傾向があります。そういう意味では、店舗で接点がないとECの売り上げも増えない。店舗の体験価値を増やすことで、ECの売り上げ増にも繋がると思っています」
と話す。
コロナ禍でECを主軸にスタートした若者向けの自社ブランド「CITEN(シテン)」は、2023年3月に立川市に実店舗をオープンした。現在は関東で計4店を展開する。
「ECだけのブランドはスケールアップや長持ちさせるのが難しいと思っています。ウェブサイトだけでは、ブランドイメージを作りにくいからです」(松崎社長)
と実店舗の重要性を強調する。
「CITENはブランド開発段階から、店舗での体験を通じてECを伸ばしていくことを想定してスタートを切りました。ブランドの中では販売単価が安価なため、他ブランドよりもスピード感を持って多店舗展開につなげていくのがメイン戦略です。
事前にECだけで販売したことで、どのエリアに反応が良く、どういった商品が売れ行きが良さそうか手ごたえを得た状態で出店につなげられているので、売り上げは順調です」
ECでも人気で、ブランドを象徴するアイテムとなったヒット商品「パデッド トートバッグ」は、2022年8月の発売以降、累計約2万5000点を販売した。実店舗の出店以降、「生産が追い付かないくらい」(松崎社長)という。
「CITEN」のECサイト。ロゴ入りのアイテムが人気だ。
ウェブサイトより編集部キャプチャ
「セールに頼らない」で収益体質を改善
直近の業績。オレンジ色の棒グラフが売上高、青色が営業利益、線グラフは売り上げに対する営業利益率。
ウェブサイトより編集部キャプチャ
ユナイテッドアローズの2023年3月期の決算は、売上高、営業利益ともに昨対比で改善した。特に売り上げに対する営業利益率は1.4%から4.9%と3.5ポイント改善し、収益体質の改善が進んでいるのが分かる。ただ、コロナ前にあたる2019年度の営業利益率7%には戻っていない。
現在、グループ全体の店舗数は298店。大型店など不採算店舗の撤退を進め、2020年と比べて17%減った。平均売り場面積はコロナ禍前より約5%縮小し、平米当たりの売り上げを改善している。
加えて力を入れていたのが、総売り上げのうち定価で販売した割合である「プロパー消化率」の向上だ。
「以前はセールへの依存度が高かった」(松崎社長)が、企画精度を上げる取り組みやAIによる消化予測を活用した結果、2022年秋冬シーズンでは前年同シーズンと比べてプロパー消化率が4ポイント改善したという。
並行してAIも活用したプロパー消化率向上に取り組むが、重視するのは店舗に立つ社員を中心とした人の力だ。
「AIは売れるか売れないかという分析はできますが、プロパー(定価)で売るためにどうするかについては示さない。やっぱり人間がプロモーションを考えることになります。そういう意味では、人のクリエイティブが結局は大事になってきていると思います」
松崎善則社長。ユナイテッドアローズでのキャリアはアルバイトからスタートした。
撮影:土屋咲花
新規出店「3年で100店」
ユナイテッドアローズ店舗。
撮影:土屋咲花
収益体質を改善し、改めて「3年で100店出店」を掲げる今後はどのような出店戦略を取るのか。
「ユナイテッドアローズなどの既存ブランドは、これまでと違う店舗面積や運営手法で再出店を考えています。これまで大型の店舗の出店が多かったですが、投資額が大きくなり人員効率が下がる傾向がありました。今後の出店は中小型店舗を中心に進めていきます。
また、既存事業での出店は65〜75店舗を考えていますが、そのうちの多くをCITENで考えています」(松崎社長)
新ブランドの出店も予定する。
「当社の顧客層は30~40代の方が中心で、テイストもコンサバやトラッドの印象が強い。20代から30代の方をターゲットにした、これまでとは違うテイストのブランドの開発に入っていきたいと考えています。
今期は準備期間としてとらえていて、発表は中期経営計画の後半になる予定です。ブランドのスタートはECと店舗、どちらからもあり得ます」