メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)が週3日以上のオフィス勤務を義務づける方針を発表。同社は2030年に従業員の半数がリモートワーカーになる将来を展望していたはずだが……。
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メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)は最近、一部の従業員を対象に、週3日のオフィス勤務を義務づける計画を発表した。
同社に限らず、大手テック企業の間では、在宅勤務・リモートワークを推奨もしくは可能としたパンデミック時の方針撤回が相次いでいる。
グーグル(Google)やアマゾン(Amazon)、スナップ(Snap)でも、週数回のオフィス出社を義務化したことで従業員の一部から困惑や批判の声が上がっている。
メタの場合、2020年5月というパンデミックのかなり早い段階でマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)自ら、2030年までに同社従業員のおよそ半分がリモートワーカーに置き換わるとの大胆な見通しを語っており、それゆえに今回の方針転換は「豹変(ひょうへん)」として注目されている面もある。
メタは2023年を「効率化の年(the year of efficiency)」と位置づけ、2万人以上に及ぶ人員整理をはじめとする徹底的なコスト削減を進めている。
その動きと並行して、他の大手テック企業の経営トップの例に漏れず、ザッカーバーグ氏も今年に入ってオフィス勤務が生産性におよぼす影響の重要性を示唆するようになり、春先には従業員向けメールで以下のように指摘した。
「分析によれば、キャリアの浅いエンジニアは少なくとも週3日は同僚と対面で仕事をしたほうが、パフォーマンスは平均的に高くなります」
「さらなる研究が必要ですが、私たちの仮説では、直接対面して信頼関係を築くほうが簡単で、そうした関係がより効率的に仕事をする上で役立つのです」
激化するジェネレーティブ(生成)AIの開発・応用競争に対応しつつ、短尺動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」と競合するフェイスブックの機能「リール(Reels)」を成長させ、同時に「社運を賭けた」メタバース構想の実現を引き続き目指す同社にとって、従業員パフォーマンスの向上は何より優先すべき課題ということだろう。
Insiderは複数の現役従業員に取材し、リモートワークに関する方針転換について意見を聞いてみた。特に関心がないという人もいれば、何とかオフィス出社を回避する方法がないか探すという人もいて、回答はさまざまだった。
リサーチサイエンティスト職のある従業員は、本社キャンパス(米カリフォルニア州メンローパーク)近くに自宅があるので、出社しても昼食時は車で一度帰宅するという。
「(勤怠管理)システムの仕組みを考えれば、出社義務が課されても、IDバッジを一度リーダーに通しに行けばいいだけの話。経営陣もさすがに、退社時にリーダーを通すことまでは強制しないでしょう。
何だかんだ言っても、みんなミーティングはズーム(Zoom)で済ませるほうが楽だと分かってるんですから」
同州サンフランシスコに住むある従業員は、パンデミック時に「リモート限定」の条件で採用されたので、今回のオフィス勤務義務化の適用対象外だという。
ただ、そうした条件で採用された従業員の中にも、秋以降は週に一度くらいはオフィスに顔を出そうと考えている人が少なからずいるようだ。ずっと家にいるのが嫌になって、すでに週数回出社している(リモート限定の)同僚もいるという。
週3日のオフィス出社義務に応じなければならないのは、採用時に配属オフィスを指定された従業員たちで、それでもリモート優先ポリシーが適用されている間は出社の必要はない。
なお、現役従業員2人の説明によると、業績査定で優秀と評価されている従業員であれば、所属するチームが対応可能な限り、リモートワークの継続を許可される可能性はあるという。
「業績評価が低い場合、リモートワークは許可されないでしょう。また、新人など社歴の浅い従業員はオンボーディング(新規人材の受け入れと早期戦力化サポート)が難しくなるので、やはりリモートワークは難しいと思います」
出社義務を課す新たなポリシーの導入後は、「特定のオフィスに配属されても自らの判断で出社しない権利が自動的に付与される」形での完全リモートワークは消滅するという。
また、出社義務化を支持する従業員は、今後リモートワークを選択する同僚たちは職場で得られるはずの経験が薄くなるので、むしろ必死で仕事に打ち込まないとついていけなくなると語る。
「リモートワークだと会社からデスクスペースが付与されないし、(福利厚生としての)食事も提供されません。(コロナからの活動再開後)オフィスのクオリティは改善されつつあるので、出社するほうがより良い経験を得られるのでは」
一方、出社義務化に反対する別の従業員は、こんな率直な意見を口にした。
「どうしても経営陣に媚を売りたい人は別として、それ以外の従業員はみんなオフィス復帰なんてナンセンス(bullshit)だと分かっているんです」
さらに、同従業員を含むリモートワーク支持の現役従業員たちは、通勤時間が必要なくなったおかげで仕事により多くの時間をかけられるようになった上、日中でも業務の合間にペットを連れて散歩に出かけたり家族と会ったりできるので、ワークライフバランスも改善されたと口を揃えた。
また、リモートワーク支持の従業員たちは、プロジェクトによっては対面で協業したほうがいいケースもあることを認めつつ、パンデミック前はむしろさまざまなチームが分散化されていたからこそイノベーションが起こせたのであり、従業員がどこで仕事をするのか管理を強めようとする新たな方針はそれに逆行するものだと批判する。
メタの広報担当にコメントを求めたところ、以下のような返答があった。
「当社は引き続き業務の分散化を進めており、オフィス勤務であれ、在宅勤務であれ、会社に有意義な影響をもたらす仕事は可能であると確信しています。
当社はまた、最善の結果を残すために必要なコラボレーション、従業員同士の関係、カルチャーを育むモデルを継続的にブラッシュアップしていく考えです」
なお、同社は従業員が週3日の出社義務に従わなかった場合の罰則など具体的な対応は明らかにしていない。同じ大手テック企業の例を見ると、グーグルの場合、週3日の出社義務を満たさない従業員は業績査定に際して不利を受ける可能性があることを示唆している。
引き続き景気後退の可能性が囁(ささや)かれる中、成長鈍化や景況悪化を懸念する経営者たちは、大規模なレイオフやリモートワーク廃止によって生産性や効率性を向上させようと躍起になっている。
顧客関係管理(CRM)ソフトウェア大手セールスフォース(Salesforce)のマーク・ベニオフCEOは、2022年末から年明けにかけて社内のスラックチャンネル上や全社会議の場で、パンデミック中に採用した従業員やリモートワーク主体の若手従業員の「生産性が低下している」と発言し、波紋を呼んだ。
そうした認識の延長上にある判断として、従業員にオフィス復帰を要請する他社を批判してきたベニオフ氏だが、2月にはオフィス勤務の再開を全従業員に要請した。
また、アマゾンは「5月以降、少なくとも週3日」のオフィス勤務義務化を発表したところ、方針転換に反対する嘆願書に3万人以上の従業員が署名、永続的なリモートワークを認めるよう訴える騒動が起きた。
同社では、この方針転換に賛成する従業員たちも別途、社内スラックチャンネルを作って出社義務化のもたらす生産性向上などの恩恵を強調するなど、賛否両論が拮抗する状態が続いている模様だ。
なお、今回メタが発表した週3日のオフィス勤務義務化がルールとして実施されるのは9月5日以降で、従業員がどのような反応を示すか、今後新たな動きが出てくる可能性もある。