インタビューに応じたTerrascope(テラスコープ)CEOのマヤ・ハリー氏。グーグル、マイクロソフト、Cisco(シスコ)などでキャリアを重ね、テラスコープ入社前はTwitterのグローバル戦略担当副社長を務めた。
撮影:湯田陽子
気候変動分野で日本市場に注目が集まっている。
6月15日、シンガポールの炭素会計(CO2見える化)スタートアップ・Terrascope(テラスコープ)が日本に進出すると発表した。
テラスコープは1年前の2022年6月、世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」にもランクインするシンガポールの農業・食品大手Olam(オーラム)が創業。農産物や家畜の小売りから加工、輸出入、製造業者にいたるまでバリューチェーンを網羅する形で多くのグローバル企業と提携し、サービスを提供している。
三菱商事、みずほ銀行らと提携
日本とも関係が深く、今回の日本進出に伴い三菱商事、日本テトラパック、みずほ銀行と提携する。
三菱商事は、2015年にオーラムと資本業務提携を締結しており、今回の日本進出に伴い、テラスコープに対して同社のグループ企業を含めた潜在顧客を紹介、サービス拡大をサポートする。
また、食品包装・加工大手の日本テトラパックは食品・飲料分野でサステナビリティ・フットプリント情報を製品レベルで顧客に提供。みずほ銀行も、同社のアジア太平洋地域の法人顧客に対し、テラスコープのサービス提供に関する連携を開始する計画だ。
テラスコープによると、主な顧客ターゲットは大企業で、原料調達から廃棄までサプライチェーン全体(スコープ1〜3)のCO2排出量を正確に測定・削減できる点が大きな強みだという。
すでに飲料メーカー大手・ポッカのシンガポール現地法人や三菱食品などにサービスを提供しており、ポッカでは「サプライヤーの(実測)データを使うことなく、主要飲料のカーボンフットプリント(CO2排出量)を92%という高い精度で」算出した。
排出削減にも力を入れており、三菱商事とオーラムグループが出資する農産食品流通企業・MCアグリアライアンスには、「ある原料の調達ルートと加工方法を変えることで、排出量を25%削減できる」と具体的な提案をしている。
日本進出について、テラスコープCEOのマヤ・ハリー氏は「いまが日本市場に参入するタイミングだった」と語る。
「日本企業はCO2排出削減意識が高く、スコープ1〜3に関する認知度も高まっている。排出削減をめぐる国際的な規制が今後どうなるのか、その動向に対する不安もあるようだ。
また、日本は世界で2番目に多国籍企業が多い国だ。気候変動は緊急性の高い問題だが、日本企業の脱炭素をサポートすればグローバルなインパクトが加速する。だからこそ、いま進出する必要があると判断した」
記者会見にはテラスコープの大株主、オーラム・グループ共同創業者兼CEOのサニー・ジョージ・ベルギーズ氏(右から2人目)もシンガポールから駆けつけた。日本を代表する3企業と戦略的パートナーシップを組むなど、豪華な布陣で日本進出を印象付けた。
提供:Terrascope
マヤ・ハリーCEOに聞く「テラスコープとは何者か」
創業からわずか1年で日本を代表する企業とタッグを組み、日本進出を果たしたテラスコープ。同社はいったいどんな企業なのか。マヤ・ハリーCEOに聞いた。
—— テラスコープとオーラムの関係は?100%出資子会社なのか。
テラスコープはもともと、オーラムによるインキュベーションを経て創業した、いわばコーポレートベンチャーだ。主要株主はオーラムだが、我々経営陣も株主になっている。
—— 1年前の創業当時、イギリス、フランス、インドネシア、日本、マレーシア、シンガポールの6カ国で商業試験を実施中と発表していた。現在、ビジネスベースでサービスを提供している顧客件数は?
東南アジアやオーストラリア、中東、イギリスなど各国で、数十の大企業にサービスを提供し、うち44%と複数年契約を締結。契約件数は毎週のように伸びている。四半期ごとに54%増と急成長しており、日本でも同程度の成長を見込んでいる。
—— 規模感としてはどの程度か。
(急速に伸びているため)正確な数字を言うのは難しいが、現時点で言えるのは、我々の顧客のCO2排出量を合計するとイギリス1国分の排出量(※)と同程度だということだ。
※イギリス政府によると、2022年のCO2排出量(暫定値)は3億3150万トン。日本は2021年の速報値で約11億トン。
—— 日本にはすでに炭素会計スタートアップが多く存在し、世界ではスタートアップの淘汰が始まっている。
CO2排出削減は何十年にもわたる長い道のりだ。今後も数多くの企業が参入し、イノベーションが進むだろう。世界のCO2排出量を削減するには、それこそ大規模なイノベーションが必要になってくる。その中で、我々は非常に高い測定技術と、迅速かつ包括的に行える質の高さを有している。
—— 後発組であるテラスコープの勝算は?
特定のセクターに強いことは非常に重要だ。炭素会計企業は世界中にたくさん存在するが、我々には差別化できる強み、つまり農業由来のサプライチェーンに強いという優位性がある。
—— 具体的には?
排出源が何かを特定することができる。材料別や肥料別、あるいは土地利用の仕方など、深掘りして特定できることが我々のプラットフォームの強みだ。また、製品別のカーボンフットプリント(CO2排出量)測定も可能で、1時間未満で何万という SKU(品目)の排出量を測定できる。
—— その他の強みは?
サステナビリティとテクノロジー、それぞれの人材も豊富。例えば、サステナビリティのヘッドは、もともとアメリカ政府内でCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)の交渉を担当していた人物だ。テクノロジー分野でもアマゾンやグーグル、Twitterなど大手テック企業で経験を積んだ優秀な人材が揃っている。