アップル(Apple)元従業員による起業件数は近年加速している。
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アップルは数百のスタートアップ起業家を輩出してきた。
オランダの情報調査会社ディールルーム(Dealroom)によれば、アップルの元従業員が立ち上げた、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達実績を持つスタートアップは推定597社に及び、それらの評価額は合計1800億ドル(約25兆円)を超える。
なお、アップル自身の時価総額は現在2兆9400億ドル(約411兆円、6月23日終値)。2022年11月10日に記録したわずか1日の増加幅が1909億ドル(米上場企業の過去最大記録)という同社の規模感を考えると、元従業員たちの成長が著しいとは言え、まだまだ偉大な親の乳飲み子といったところではある。
さて、アップルの元従業員による起業が目立って増えてきたのは2010年以降のことで、割と最近の話だ。
Insider編集部の取材に応じたそれら起業家たちは皆、「アップルでは、やり抜く力やレジリエンス(屈しない強靭さ、回復力)、アイデアの生み出し方など、起業家にとって不可欠のスキルを身につけることができました」と古巣への感謝を語った。
そうした元従業員の一人で、現在はキャリアコーチングを手がけるデイワンキャリア(Day One Careers)を創業したエブゲニー・ビック氏は、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズがかつて語ったように、同社には1つのアイデアに「イエス」と言う前に1000のアイデアに「ノー」を言うことでイノベーションを生み出すカルチャーがあり、それを誇りにしていると語った。
「アップルでは、従業員たちが常に数々のアイデアを出し、それがなぜ必要なのか、周りの人たちを説得するよう促しています」
ビック氏によれば、アップルは人間関係を築くスキルを身に付けられる会社でもある。
「アップルでは、互いに影響し合いながら仕事をするのが基本です。その経験があるからこそ、私自身もいま、ビジネスパートナーを見つけて一緒にやっていこうという気持ちになるのだと思います」
また、環境配慮型のサステナブルな商品パッケージを製造・販売するシェルワークス(Shellworks)の共同創業者、インシヤ・ジャファジー氏にとって、アップルは内側も外側も心の底から「美しい」と思える製品を追い求めるスタンスが企業のカルチャーとして根づいている会社だ。
「私がシェルワークスでやろうとしているのも、まさに同じことなんです。プロトタイプ(試作品)をつくり、実験し、自分たちの手でつくり上げていくことの無上の喜び。私が働いていた頃のアップルには確かにそういう文化がありました」
一方、現在のアップルはかつて社内に存在したスタートアップのような気風を失い、深刻な大企業病を患っていると指摘する声もある。
ある元従業員は匿名を条件に取材に応じ、次のように語った。
「巨大ハイテク企業となった今日のアップルに浸透しているのは、秘密主義(secrecy)のカルチャーであり、各部門が徹底的にサイロ化(タコツボ化)しているとの批判が内外から聞かれます」
アップルは、知的財産や機密情報の漏えいに極めて神経質なことで知られる。
アップルの元従業員を採用した新興半導体メーカーのリヴォス(Rivos)や半導体大手クアルコム(Qualcomm)子会社のニュービア(Nuvia)などは、アイデアの盗用や著作権侵害でアップルから訴訟を起こされている。
そうした複雑な実態を目の当たりにしても、アップルの卒業生(アルムナイ)たちに起業を躊躇(ちゅうちょ)する気配は見られない。
欧州での存在感
ディールルームのデータによると、アップルの元従業員たちは2010〜15年の6年間でスタートアップ163社を立ち上げ、VCからの資金調達を成功させた。
2016〜22年にかけてはさらにペースが加速し、直前の6年間に比べて約2.5倍増となる419社を創業した。
インドに新たな製造拠点を設けたり、同国初のアップルストアをオープンしたりと、アップルはその事業展開をさらにグローバル化させているが、元従業員から起業家になった人々の足跡もまた、北米大陸を飛び越えて急速に広がっている。
【図表1】アップル元従業員が創業したスタートアップはヨーロッパ各地に広がる。青いマークは各社の本拠(位置は大まかなもの)を示す。
Map: Ricki Lee/Insider Source: Dealroom.co
さらに下の【図表2】は、元アップル従業員が創業して直近1年間(2023年5月まで)に「最も成長を遂げた」スタートアップ22社をリストアップしたものだ。創業者名や評価額は前出ディールルームのデータに基づく。
上記の「最も成長を遂げた」との表現はディールルームの定義に従ったもので、同社は対象企業のウェブサイト訪問者数、従業員数および売上高の伸びによって成長性を評価している。
Insider編集部はさらに、そのようにディールルームが直近1年間の成長ぶりを評価したスタートアップを、(1)2015年以降に創業(2)元アップル従業員が共同創業者に含まれる(3)本拠がヨーロッパ(4)VCからの資金調達実績がある(5)推定評価額が1500万ドル以上、という条件でフィルタリングし、以下のリストを作成した。
【図表2-a】直近1年間に「最も成長を遂げた」スタートアップ22社リスト(1〜11位、評価額の大きい順)。
Table: Ricki Lee/Insider Source: Dealroom.co
【図表2-b】直近1年間に「最も成長を遂げた」スタートアップ22社リスト(12〜22位、評価額の大きい順)。
Table: Ricki Lee/Insider Source: Dealroom.co