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みなさん、ご自身のお仕事に意義や価値を感じることができているでしょうか?
こんな言葉があります。
「ブルシット・ジョブ」=「クソどうでもいい仕事」
これは文化人類学者のデヴィッド・グレーバー氏が、著書『ブルシット・ジョブ——クソどうでもいい仕事の理論』で提唱している概念です。
ブルシット・ジョブとは、次のように定義されています。
「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている」
グレーバー氏は、ブルシット・ジョブの例として、「会社の受付カウンターにキャンディを補充する仕事」「誰にも見られることのない書類を黙々と作成する事務」「誰かに偉そうな気分を味わわせるためだけに存在している仕事」などを挙げています。
さて、今回、「ブルシット・ジョブ」という言葉を取り上げたのは、ある女性・Aさんからこんな嘆きの声を聞いたからです。
「私の仕事って『ブルシット・ジョブ』なんだと気づいてしまった……」
Aさんは化粧品メーカーに勤務するマーケティング職。マイナーブランドのマーケティングを担当していらっしゃいますが、会社から「今期は売上を倍増させるためのマーケティング施策を考えよ」とのお達しがあったそうです。
ごく当たり前のミッションに見えますが、なぜ彼女は「ブルシット・ジョブ」と表現したのでしょうか。
Aさんが言うには、
「そのブランドはもともとターゲットが明確なニッチブランドで、市場規模はそれほど大きくないため、売上を倍増させるほどの余地はありません。万人受けするわけでもない商品を実際以上によく見せるなんて、お客さんを騙しているようで気が進まないし、やる意味を見出せません」
日頃、転職エージェントとしてみなさんからのご相談をお受けしていると、彼女と同様に仕事の意味や価値を見失ってしまっている方にお会いすることもあります。
では、どうすればこのような状況から脱却し、納得のいくキャリア構築につなげられるのでしょうか。
問題意識を持ち、クリエイティブな仕事に変えていく
自身の仕事が「ブルシット・ジョブ」になるかどうかは、「受け身の姿勢でこなす」か、「主体的に問題意識を持ってやる」かによって変わってくると、私は捉えています。
例えば、冒頭で一例として挙げた「会社の受付カウンターにキャンディを補充する仕事」。これは昔からの習慣が根付いていて、誰も疑問を持つことなく惰性で続けているケースが多いのではないでしょうか。
しかし、キャンディを補充するスタッフ自身が、「このキャンディによってお客様の気分が和めば、商談が円滑に進む」という目的意識を持ってやっていれば、それはブルシット・ジョブではないと思うのです。
仮にそのスタッフが「これはブルシット・ジョブだ」と思いながらやっているのであれば、その目的を見つめ直し、意義ある仕事に変えればいいのです。
例えば、キャンディの効果について、アンケート調査なりリサーチなりをして検証する。「キャンディよりもウォーターサーバーのほうが喜ばれるのではないか」「気分を和ませるなら、花を飾るのでもいいのではないか」など、目的・効果・コストなどを踏まえて提案する。
こうした取り組みは、ブルシット・ジョブではない、意味のあるものだと思います。
「キャンディ補充係」ではなく「受付空間コーディネーター」としてクリエイティビティを発揮していると言えるでしょう。
私自身も、会社員時代にブルシット・ジョブに悩まされたことがあります。会議のたびに資料作成を命じられたのですが、データをエクセルで集計してグラフを作ったところで、会議でまともに見ている人もいなければ、次の施策に活かされるわけでもない。
その時の私は、上司に「使われないものに時間を割きたくない。その時間をお客様のための企画書作成に使わせてください」と訴え、ムダな資料作成を省きました。
「指示されたから」「ルールだから」「ずっと続いていることだから」というだけでやる仕事は、ブルシット・ジョブになりがちです。そこに時間とパワーをかけたとしても、ビジネススキルは磨かれないし、新たなキャリア展開にもつながらないでしょう。
「何のためにやるのか」を見つめ直し、「どうすればより生産性が上がるのか」「よりよい効果を生むのか」を考えて実行していくことが重要だと思います。
まずは「思い込み」を取り払ってみる
Aさんのお悩みの話に戻りましょう。
Aさんによると、担当しているブランドは「ターゲットが明確なニッチブランド」「市場規模は大きくなく、売上を倍増させるほどの余地はない」とのこと。こうした理由から、指示されたミッションに「意味がない」と捉えていらっしゃいます。
まずは「本当にそうなのか」を、根本から見つめ直してみてはいかがでしょうか。
私は多くのブランドマーケティング職の方々と対話してきましたが、「思い込み」によって可能性を狭めてしまっていることが往々にしてあると感じています。
これは、あるファッションブランドのエピソードです。「可愛い」系のデザインなので、20代向けのマーケティング施策を展開していたのですが、実のところ50代以上のミドル~シニア層のファンも多いことが判明したそうです。娘や孫へのプレゼントとして買うほか、自分用にも買っているのだとか。
この事例のように、「アンコンシャス・バイアス(偏見や思い込みから、無意識のうちに偏った見方をしてしまうこと)」を取り除くことで、新たな展開が見えてくるかもしれません。
Aさんの担当ブランドも、もしかすると意外なところに新たなターゲット層が潜んでいる可能性もあるのではないでしょうか。
それが実際にあったとしてもなかったとしても、「リサーチする」「検討する」というアクションには十分に意味があると思います。
そして何らかの仮説を立てたら、狙うターゲット層に適した施策――リアルイベントなり、SNSマーケティングなり、新たに仕掛けてみてはいかがでしょうか。既存マーケット向けのCRM予算を新たな施策に使わせてもらうよう、上長に交渉してみる手もあります。
そうした主体的な取り組みが受け入れらない風土の企業だとしたら、転職によってステージを変えるのも一つの選択肢です。実際、Aさんも転職を視野に入れているとのことでした。
転職活動をするとなると、先ほど例に挙げたアクションが「アピール材料」として効果を発揮します。
採用選考に臨む時、「問題意識を持ち、主体的に行動を起こした」「改善や変革に向けて、新たな施策を考えた」といった経験をストーリーで語れれば、結果的にそれが実っていなくても、スタンスやマインドがプラス評価され、採用に至る可能性があります。
「主体的に課題に向き合い、改善を模索・提案する」というサイクルを回していれば、どのような仕事もブルシット・ジョブにはなりませんし、キャリア構築にもつながっていくはずです。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。