2022年5月オープンの小売店舗「メタストア(Meta Store)」を訪れたメタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)。
Facebook/Meta
内情に詳しい複数の関係者によれば、直営の小売店舗を展開しようというメタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)の新たな戦略は、まだごく初期段階ながら早くも頓挫(とんざ)した模様だ。
同社はおよそ1年前の2022年5月、米カリフォルニア州バーリンゲームに初の実店舗をオープンさせ、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が「社運を賭けた」プロジェクトとして推進するメタバース構想やその仮想現実(VR)の世界を体験できる場として宣伝してきた。
「メタストア(Meta Store)と名づけられた同店舗は、VRヘッドセット「クエスト(Quest)」のショールームとして機能し、店内に設けられた大規模なデモステージでは、ヘッドセットを装着して自由に動き回ることができる。もちろんその場でデバイス自体を購入することも可能だ。
オープン当初、メタストアは関係者から(アップルストアのような)リテール(小売り)分野進出の第一歩と認識され、同社も一時期はグローバル出店を社内検討していた。
しかし、そうした野心もどうやら短命に終わったようだ。
匿名の関係者2人の証言によれば、メタストア出店計画も含め2020年夏から3年近くにわたってリテール事業の責任者を務めたマーティン・ギリアード氏は今年初めに同社を去り、その後任は充てがわれていない。
リンクトイン(LinkedIn)のプロフィールを確認したところ、同氏は1月にメタを退社し、リテール分野のデータ分析スタートアップの経営者に転身した模様だ。
内情に詳しいある人物によると、メタは2023年中に少なくとももう1店舗オープンさせる計画を進めていたという。
そうした新規出店を含むメタの計画が挫折するに至ったのは、アップルが2021年にプライバシーに関するフレームワーク「アップ・トラッキング・トランスペアレンシー(App Tracking Transparency)」を導入し、ユーザーがトラッキングを事前に拒否しやすくなったことで、数十億ドル規模の広告売上高を失った影響が大きい。
それと前後して、記録的なインフレをはじめとするマクロ経済要因によってデジタル広告出稿を控える企業が相次ぎ、メタは2022年第2四半期(4〜6月)に上場以来初めての減収を記録。以降、第4四半期(10〜12月)まで3四半期連続の減収と、広告事業の低迷に苦しんだ。
しかし、たとえ同社の屋台骨である広告事業の伸び悩みという現実があるにせよ、リアル店舗を有して小売り事業を収益化するのが簡単でないことは、アマゾン(Amazon)やマイクロソフト(Microsoft)ら他の大手テック企業による実店舗展開が失敗に終わった経緯からも明らかだ。
Insiderはメタおよび退社した事業責任者のギリアード氏にコメントを求めたが、得られなかった。
メタが実店舗に手を出したのは今回が初めてではない。
2016年には、同社(当時、旧称のフェイスブック)は現行のVRヘッドセットの前身に当たる「オキュラス・リフト(Oculus Rift)」の販売拡大を目指し、全米500カ所でポップアップストアを展開。ホリデーシーズンにはニューヨークのビジネス街のど真ん中にも特設会場を期間限定で設置した。
そうした実績の有無にかかわらず、数万人規模のレイオフを実施し、福利厚生の削減に余念がない現状のもとでは、収益にもたらす効果の不透明な実店舗の継続運営は簡単ではないだろう。
不動産や人材配置の効率化の視点で言えば、同社は4月にアメリカ以外では最大規模を誇るロンドンオフィスの撤退を決め、賃貸契約中のオフィススペースの全面的な転貸を進めている。
以前は巨大オフィススペースへの統合移転を計画していた米テキサス州オースティン拠点の規模縮小も検討している模様だ。契約済みのオフィス物件について、すでに転貸やリースの早期解約に動いており、委託契約の従業員も2022年から順次削減が行われている。
同時に、リモートワークを強く推奨してきたパンデミック後のオフィスポリシーを変更し、9月以降は週3日以上のオフィス勤務を義務づけることも最近発表した。
リモートワーカーの生産性が低いとの調査分析結果をベースにした判断とみられるが、オフィス利用の最適化に寄与する面も少なからずあるだろう。
メタのスーザン・リー最高財務責任者(CFO)は今年3月に米金融大手モルガン・スタンレーが主催したカンファレンスで、同社が経営と管理体制の両面で合理化を進めており、「一部のプロジェクトは終了させ、一部のチームについては(人材や予算などの)リソースを他に移すなど、厳しい判断を迫られている最中です」と発言している。
さて、今回行き詰まりが明らかになったメタの小売り事業だが、責任者の退社に加え、後任人事が見送られている状況にもかかわらず、既存のメタストアについては、現時点では従来通り「クエスト2」ヘッドセットとレイバン(Ray-Ban)製スマートサングラス「レイバン・ストーリーズ(Ray-Ban Stories)」を扱って営業を続けている。
営業時間も以前と同様で、平日のみオープンし、週末は営業していない。
本来ならマーケティング戦略の観点から人通りの多い場所に置かれるべき実店舗だが、メタストアは同社の広大なオフィスキャンパスの奥深くに位置するため、一見すると(メタバース構想の主体を担う)リアリティ・ラボ(Reality Labs)の研究施設といった風情だ。
Insiderが最近訪問して店舗内の様子を確認したところ、少なくとも15人の店員およびリアリティ・ラボのスタッフが作業したり会話を交わしたりしていたが、来店客はゼロだった。
現地にいた従業員の一人によると、現在でも多い時だと1日60人ほどが来店し、冒頭で紹介した大規模なデモステージでヘッドセットを試していくという。
また、別の現地従業員に「この店舗は年末まで営業を続けるのか」と尋ねると、「よく分からないけれど、そう思う」の答えが返ってきた。