イラスト:iziz
シマオ:皆さん、こんにちは!「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。読者の方にこちらの応募フォームからお寄せいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。
先日、クローズアップ現代で闇バイトの特集をやっておりました。大学生になって一人暮らしを始めて2カ月の息子が交通事故にあったと警察から連絡があって、その車に窃盗した金庫が載っていたという話です。本当に怖くて、私にも上京している大学生の娘がいるので、「絶対にあかんよ」とすぐにLINEしました。
その子(テレビの特集に出ていた大学生)はもともと中高一貫の私立校出身で、中学では生徒会長も務めていたようですが、入学してからはYouTuberをやったり、ホストをやったりして、「目立ちたい」と話していたそうです。親の仕送りには手をつけず、このようになったと。
彼だけでなく、一人暮らしを始めた大学生の娘が実は風俗で稼いでいて、借金を背負ってようやく親に連絡が来て発覚……という話も聞いたことがあります。
私はこうした子どもたちに忍び寄る悪が本当に許せません。同時に、一体どうしてこんな悪意が世の中に存在するのか不思議です。佐藤さんはどうお考えでしょうか。
(黄泉子、40代後半、専業主婦)
問題の本質は「お金と親子関係」
シマオ:黄泉子さん、お便りありがとうございます。この特集はNHKの公式サイトにも載っていますね。佐藤さん、やはり問題は社会にはびこる悪がどこから生まれてくるのか、ということなんでしょうか?
佐藤さん:結論から言うと、問題の本質はまったく別のところにあると私は考えます。
シマオ:え!? どういうことでしょうか。
佐藤さん:大学生が巻き込まれる犯罪や借金の問題は、つまるところお金と親子関係の問題だということです。つまり、親がどれだけ子どもに仕送りができているか、親子のコミュニケーションに問題はないかという点が重要なのです。
シマオ:でも、親がちゃんと仕送りをしているなら、どうして犯罪や借金に手を出してしまうんですか?
佐藤さん:例えば、こんなケースが考えられます。子どもは毎月の仕送りの金額ではとても生活ができず、何とか自分でバイトして稼がなければいけない。
一方で、親はお前の学費に何百万もかかったとか、自分たちも切り詰めて仕送りしているんだとか、恩着せがましく何度も言う。そうなると、つい反発して、ならば親のお金などアテにしないで自分で全部稼いでやるとなる。
シマオ:なるほど……。学費や仕送りに絡んで親子関係が破綻してしまう訳ですね。
佐藤さん:そもそも犯罪性向がある人物なら、中学高校時代にすでにその兆候があるはずです。そうでないなら、仕送りと親子関係で問題が生じている可能性が高い。
ただし、クローズアップ現代のケースではホストから闇バイトということですから、もしかすると客のツケ払いをうまく回収できず借金をして闇バイトに手を出し、犯行を脅迫されていたような可能性もあります。
シマオ:それもありそうで怖いですね……。
仕送りが足りない現実
イラスト:iziz
シマオ:まずは親が十分な仕送りをすべきということだと思うんですが、そもそも、仕送りっていくらくらいが相場なんでしょうか?
佐藤さん:東京私大教連が首都圏の地方出身学生の仕送り額を調べたデータがあります。それによると、2022年4月入学の学生の仕送り額平均は月8万8600円。1986年から統計をとっていて、一番高かったのは1994年の12万4900円ですから、4万円近くも下がっています。
シマオ:30年前よりもそんなに下がっているなんて……驚きです。
佐藤さん:私は大学生と話す機会がありますが、中には仕送りが5万円、6万円くらいだという人も少なくありません。
シマオ:それはもう、バイトをしないと生活が成り立たないですね。
佐藤さん:しかも、一人暮らし大学生の家賃平均は今5万円くらいだと思いますよ。ちょっと調べてみてください。
シマオ:はい。えーっと、一人暮らしの大学生の家賃の平均ですよね……。ありました、全国大学生活協同組合連合会の2022年の調査では、5万3020円だそうです。
佐藤さん:昭和の大学生なら風呂ナシの木造アパートで、4畳半一間なんて当たり前でしたし、1万円台の部屋に住む学生も多かった。でも今はほとんどの大学生が風呂付きのマンションです。だから仕送りが家賃でほとんど消えてしまう学生が結構いるんです。
シマオ:そうなるとバイトで、しかも短時間で手っ取り早くお金を稼ぐ仕事に目がいってしまうのは無理もないですね……。
佐藤さん:その通りです。男子ならホスト、女子ならガールズバーの仕事が代表的でしょう。そして中には、オレオレ詐欺の受け子や出し子、そして闇バイトなど犯罪の片棒を担ぐ仕事に走ってしまう子もいる。
結局は、親の教育費が「弾切れ」状態になったことで、子どもが自分で稼がないといけなくなるという構造の問題なのです。
塾代と仕送りまで想定したマネープランを立てる
シマオ:少し気になったのですが、親になったら子どもの教育費について、いつ頃から計画を立てるべきなんでしょうか?
佐藤さん:理想を言えば生まれた時からですが、現実的には子どもが小学校4年生の頃くらいでしょうね。中学受験をするなら塾代がかなりかかるので、そのタイミングでちゃんとマネープランを立てておくのがいいでしょう。
シマオ:小学4年生だと10歳ですか。そこからすでに子どもが大学まで進むための資金計画を立てなきゃいけないということですね。なんだか、考えただけでも気が重くなるような……。
佐藤さん:シマオくん、最初に話したことを忘れましたか?
シマオ:そ、そうでした! 親のマネープランが子どもの将来を左右するかもしれないってことですもんね。
佐藤さん:その通りです。塾や仕送りを含めた教育費と、子どもへのマネー教育はどうすべきかについて、説明しましょう。
シマオ:お願いします!
佐藤さん:そのためにはまず国公立と私立で、それぞれ教育費がどれくらいかかるかを把握しておく必要があります。
シマオ:たしか、私立は国公立の3倍と聞いたことがあります。
佐藤さん:よく知っていますね。分かりやすく表になったものが、「かんぽ生命」の学資保険のサイトに出ているので参考にさせてもらいましょう。
かんぽ生命公式サイトよりキャプチャ
文系の場合ですが、小中高大学とすべて国公立に行った場合の教育資金総額は約797万円、すべて私立に行くと2220万円です。シマオくんの言う通り、私立は公立の約3倍ですね。
これに塾代が加わりますから、実際はもっと高くなる。小中高合わせた平均的な金額で考えると、年間で20万円から30万円くらいでしょうか。合計はだいたい200万円から300万円くらいと考えていいと思います。
つまり、すべて公立で、その分塾に通わせて学力を補う場合でも教育費は1000万円を超えてくる計算になります。仮に、小中が公立で、高校大学が私立の場合は14000万円程度です。
シマオ:はぁ……思わずため息ですね。しかも、ここに仕送りは入っていませんよね?
佐藤さん:はい。仕送りする場合は、4年間で約421万円とあります。年間約100万円として、月に8万円から9万円の仕送りをしている計算ですね。
シマオ:5万円ちょっとの家賃を払って、食費が3万円くらいってことですね。地方にお住まいの親御さんの場合は、この仕送り額がキーになるってことか。
佐藤さん:そういうことです。これだけの金額ですから、愚痴りたくなったり、恩着せがましい言葉の一つも言いたくなったりすることもあるでしょう。
ですが、親子関係をこじらせないためにもそれは避けるべきです。これも親の務めですから、しっかりと計画を立てて、しかるべき仕送りができるように準備を怠らないことです。
シマオ:具体的にはどうすればいいでしょうか?
佐藤さん:自分の生涯年収がどれくらいかはだいたい分かる訳ですから、まずはそれに応じてどの段階まで国公立で行くか、いつから私立でも大丈夫かを確認します。
その上で、どのように資金を作っていくかを考える。それこそ、保険会社の学資保険に入っておくというのはアリでしょう。その場合も、いつから入るか、どの保険会社を選ぶかでさまざまな選択肢がありますから、よく比較検討することです。
シマオ:いろいろな情報を集めて、自分にとって何が一番いいかを確認しておくということですね。学資保険以外に教育費を積み立てるのにいい方法はあるでしょうか?
佐藤さん:お金はあると使ってしまいますから、簡単には引き出せない10年国債を郵便局で購入する方法や、税金のかからないNISAで積み立てる方法などもあります。
例えば、月2万円、15年間貯蓄すると360万円ですが、投資なら長期であるほど複利の力が有利に働きます。子どもが3歳の時に始めて、18歳の大学進学の時に売れば、そのお金はまるまる4年分の仕送り原資として使えるかもしれません。
シマオ:なるほど。ただ貯金するのではなく、増やすための選択肢もあるということですね。
子どもに対するマネー教育も重要
佐藤さん: もう一つ大事なのが、子どもにお金の話をしっかりとしておくことでしょう。いまの家計の状況を明らかにして、国公立、私立など将来の選択を子どもと一緒に話しながら決めるのです。これは恩着せがましいことを言って親子関係をこじらせることとは違います。
シマオ:お金の話を子どもにしたくないという親も多いかも知れませんが、そこはやはりオープンにすることが大事なんでしょうか。
佐藤さん:私はそう思います。現実を知ってもらって、子どもも一緒に自分の将来を考える。若い時からお金と向き合う習慣をつけるという教育的な意味もあります。
シマオ:マネーリテラシーなんて言葉がありますけど、子どもの頃からそれを高める教育が必要だということですね。
佐藤さん:はい。それから大学で一人暮らしをする可能性のある子どもを持つ親は特に、借金の怖さをしっかりと教えておくべきだと思います。
シマオ:消費者金融から借りたら大変ですもんね!
佐藤さん:いえ、実はそれは大きな勘違いなんですよ。消費者金融に関しては総量規制というのがあって、年収の3分の1までしか貸せないというルールがあるんです。
ところが大手銀行のフリーローンは総量規制の対象外になっている。名前のある銀行だから大丈夫だろうと借りた結果、銀行のフリーローンの返済が滞っている人はたくさんいるんです。
シマオ:そうなんですか! それは知りませんでした。
佐藤さん:私の父親は銀行員でしたから、銀行の恐ろしさというのをよく話していました。銀行員は貸せる時はニコニコと優しいですが、いざ返済が滞ると人が変わったように取り立てる。問答無用で担保を取り上げるというのです。
銀行業界ではこれを「剥がす」と言うのですが、それがもうえげつないのだと脅されて育ちました。ですから、家でも車でも、私は借金を一切しないことにしています。買いたいものは全部貯金をして自己資金で買うに尽きます。
シマオ:家はともかく、車なんかは頑張れば自己資金でも十分買えそうですもんね。
佐藤さん:あと、リボ払いの危険性は教えておくべきです。使うと、元本がなかなか減らず利子の支払いだけで相当の額になってしまう。リボルビング方式での借金はとにかく避けるべきでしょう。
シマオ:ふ〜む、そう考えるとお金の罠っていろいろあるんですね……。アメリカの学校ではお金の授業があると聞いたことがありますが、日本だとまだあまり広がっていないですよね。親がしっかりしないと……。
佐藤さん:はい。子どもに伝授する意味でも、親自身がお金との向き合い方など、マネーリテラシーを高めておく必要があると思います。その上で、闇バイトや詐欺などで人生を棒に振らないよう、きちんと話しておいた方がいいでしょう。
シマオ:黄泉子さん、いかがでしょうか? 子どもが安全に大学生活を送るためには、まずは自身のマネープランから見直すことが先決のようです。
「佐藤優のお悩み哲学相談」、そろそろお別れのお時間です。引き続き読者の皆さんからのお悩みを募集していますので、こちらのページからどしどしお寄せください! 私生活のお悩み、仕事のお悩み、何でも構いません。それではまた!