Insiderが取材した有力ストラテジストたちは軒並み、米国株を強気とする。S&P500種株価指数には史上最高値更新の可能性もあるという。
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Insiderが最近取材した複数のストラテジストの話によると、ここ3カ月ほどの目覚ましい株価上昇に乗じてリターンを得ることに失敗した投資家も、完全に乗り遅れたと諦めるにはまだ早いのだという。
企業業績、雇用統計、景気に関して、市場予想を上回るデータの発表が相次いだことから、S&P500種株価指数は3月13日以降の3カ月間で15%上昇した。
インフレの鈍化も株式市場にとって追い風となっている。
直近では5月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比4%上昇と、2021年3月以来の穏やかな伸びにとどまったことから、連邦準備制度理事会(FRB)は先日の連邦公開市場委員会(FOMC)6月会合で利上げの見送りを決めた。
実績のある投資家の中には、ここ数カ月間の株価上昇はあくまで一時的なものと見る向きも多いが、一方で、特段の反落要因がない限り株価はさらに上昇していくとの確信を抱く投資家もいる。
前者のような足元の株価上昇に対する懐疑的な見方は、市場に過剰な欲が存在していないことを示す紛れのないサインだと、UBSウェルス・マネジメントのブラッド・バーンスタイン氏は語る。
「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育つ」との格言もある通り、足元の株価に懐疑的な見方が多いからこそ、S&P500種指数は昨秋記録した52週安値に近づく可能性より、2024年初頭にかけて「FRBが利上げサイクルを終了するとの確信が得られたところで」52週高値の更新に向かうもう一段の伸びを示す可能性のほうが高い、とバーンスタイン氏は予測する。
反落の可能性は排除できない
さらに株価が上昇して(リターンを得る)機会を逸するのではないかという恐怖が投資家の買いを後押しすることで、自己実現的に株価上昇が実現するため、相場にはまだ上振れの余地があるというのがバーンスタイン氏の見立てだ。
しかも、投資家たちは2022年の弱気相場で損失を防ぐためにポジションを現金化したままなので、そうした買いに充当するだけの資金を有している。
バーンスタイン氏の同僚で、アセットアロケーション(米州)部門責任者を務めるジェイソン・ドレイホ氏も上記の見方に同意する。
同氏によれば、各種の経済指標が堅調に推移したことで、投資家は株式へのエクスポージャーを再び拡大する動きに出た。そして、その資産配分の対象はマーケットリーダー(各市場のトップシェア企業)にとどまらなかった。
「ファンダメンタルズが(株価上昇のきっかけとなる)火花となり、ポジショニング(株式市場への資産配分)という焚き付けに火が移って勢いよく(相場が)燃え盛ったわけです」(ドレイホ氏)
2023年の最初の5カ月間(1〜5月)については、S&P500種株価指数の年初来の伸び率はわずか7銘柄の上昇によるものだった。ドレイホを含めてInsiderが取材したストラテジストは皆、このブレドス(値上がり銘柄数から値下がり銘柄数を引いた値)の弱さを指摘している。
バーンスタイン氏は冗談を交えつつこう語った。
「もはやS&P『5種』と呼ぶべきでしょう。実質的に、S&P500種の全リターンが時価総額上位の5銘柄のパフォーマンスによるものなのですから」
ところが、6月に入って、市場の勢いを見た投資家たちが、それまで現金化して避難させていた資金を株式市場に再投入したことで、ブレドスが大幅に改善された(言い換えれば、S&P500種株価指数の上昇に寄与する銘柄の幅が広がった)。
ほんの一握りの銘柄の際立ったパフォーマンスへの依存度が下がるほど、株価上昇は長続きする可能性が高くなるので、ストラテジストたちはこれを強気相場のサインと認識した。
JPモルガン・アセット・マネジメントの株式ポートフォリオマネージャー、ジャック・カフリー氏はInsiderの取材に対し、「より良いブレドスはより健全な相場を生み出します」と語った。
カフリー氏によれば、リターンを得たい投資家が株式市場になだれ込んで勢いが生まれたこと以外にも、対話型人工知能(AI)「Chat GPT」のリリースに端を発するAIブームや、FRBの利上げサイクル終了が現実味を帯びてきたことも、株価上昇の追い風となった。
米経済のレジリエンス(強靭さ)と根強いインフレ圧力を理由に、FRBは年内2回の追加利上げの可能性を示唆しているが、市場はもはやFRBの景気動向予測を信用していないように見えるとストラテジストたちは口を揃える。
市場ではマイルドな景気後退を想定する向きがまだ多く、実際そうなればFRBは追加利上げを断念する可能性が高い。
RDMファイナンシャル・グループのマイケル・シェルドン最高投資責任者(CIO)はInsiderの取材に対し、「FRBがこれから数カ月以内に追加利上げを企図してその正当性を証明しようとしても、実際のところ、その時点ではハードルがさらに上がっていると思います」と語った。
また、米投資情報サイト「ストックチャーツ・ドットコム(StockCharts.com)」のデービッド・ケラー氏によれば、ブレドスの改善は確かに投資意欲を刺激する前向きな変化ではあるものの、S&P500種指数はテクニカルな観点から見て、現時点ですでに「買われ過ぎ」の水準にあり、間もなく反落が起きる可能性があるという。
「テクノロジー、とりわけAIをめぐる2023年の株式市場の動きは、アップサイドへの加速ぶりが1990年代後半そのものです。
そしていま足元で起きているのは、各分野のリーディングカンパニー銘柄、あらゆる主要ベンチマークの買われ過ぎ、過熱です」
「(年初来の株価上昇の)トレンドは紛れもなくポジティブなものでした。しかし、あまりにポジティブが行き過ぎて、一般的に下降局面に転じるところまで来てしまったのが問題なのです」
ケラー氏の見解では、S&P500種指数の動きで注視すべきラインは4300。2022年8月に記録した当時の高値であり、フィボナッチリトレースメント(フィボナッチ比率を利用して一時的な反発や反落を予測するテクニカル指標)の61%ラインに重なる。
S&P500種指数の動きで注視すべきは「4300」ライン(最上段のピンク色帯)。
David Keller, StockCharts.com
反落の可能性が高いこの4300ライン付近での推移を維持できれば、4600はもちろん、2022年1月に記録した史上最高値に迫る4800も視野に入ってくる。が、ラインを維持できなかった場合は、約10%低下して4050になるとケラー氏は予測する。
ただ、反落の可能性があるとは言え、取材したストラテジストたちは市場の大暴落が訪れるとまでは言っていない。実際、一部の強気派はその逆だと考えている。
BMOキャピタル・マーケッツのチーフ投資ストラテジスト、ブライアン・ベルスキは6月15日付の顧客向けレポートでこう指摘した。
「私たちの調査分析によれば、これほど力強い好調なスタートを切った暦年において、後半の7カ月でリターンがマイナスに終わるケースは極めて稀(まれ)で、過去の平均以上のリターンを記録するシナリオのほうがはるかに可能性が高いでしょう」
S&P500種株価指数について、直近安値から20%超の上昇を記録した後の平均上昇率(紺棒)およびプラスのリターンを得られる可能性(橙点)。左から3カ月後、6カ月後、12カ月後(1950年以降の弱気相場が分析対象)。
BMO Capital Markets
株価上昇のチャンスを活かす10の投資法
ここまで各社のストラテジストによる株式市場の見通しを紹介した。以下では、それぞれがいますぐ資金を投じて問題ないと考える10の投資先を紹介しよう。
UBSウェルス・マネジメントのバーンスタイン氏とドレイホ氏はいずれも「債券」とりわけ「ハイクオリティ債」を魅力的な投資先とした。
株式について、バーンスタイン氏は、大型株をアンダーパフォームしている「中小型株」がより魅力的に感じると語った。
RDMのシェルドン氏も同じ見方で、一部の中小型株はマーケットリーダーの大型株に対して約40%割安な価格で取引されているという。
「ブレドスが良くなり、景気後退が回避されれば、出遅れ感のあった小型株もキャッチアップの可能性が高くなります」(シェルドン氏)。
シェルドン氏の考えでは、ブレドスの改善に際して推奨されるクリエイティブな投資先は、S&P500種指数の動きに連動する投資成果を目指す「イコールウェイト(均等加重)インデックスファンド」だ。
シェルドン氏はその一方、BMOキャピタル・マーケッツのベルスキ氏やストックチャーツ・ドットコムのケラー氏と同様、「ハイテク株」は(株価上昇の勢いこそ落ちるものの)まだ投資する価値があると指摘する。
また、シリコンバレーバンクの破綻に端を発する銀行危機の影響などで出遅れた「金融株」のキャッチアップも期待できるという。
ただし、JPモルガン・アセット・マネジメントのカフリー氏、UBSウェルス・マネジメントのドレイホ氏の2人は、ハイテク株、中でもシクリカル銘柄(景気敏感株)に過剰な資金配分をすべき時期ではないと強調する。
マイルドな景気後退の可能性が相変わらず想定される中、カフリー氏は「ヘルスケア」銘柄を推奨する。景気動向に左右されにくく、バリュエーションも適切で、社会の高齢化に応じた堅実な成長を期待できるというのがその理由だ。
同じく景気減速の文脈で、ドレイホ氏は「資本財」銘柄を推奨する。こちらは景気に左右されやすい面があるものの、クリーンエネルギーへの投資など長期視点のカタリスト(相場を動かす材料)の恩恵にあずかる可能性がある。
最後に、ケラー氏は「生活必需品」銘柄や「公益事業」銘柄をポートフォリオに組み入れることで、この先の調整局面に備えることができると指摘している。