米ソフトウェア大手オラクル(Oracle)がクラウド時代の中核事業と位置づけるヘルスケア部門。近ごろ不穏な動きが目立つ。
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米ソフトウェア大手オラクル(Oracle)は6月15日、中核的事業の一つと位置づけるヘルスケア部門「オラクル・ヘルス(Oracle Health)」で数百人の従業員をレイオフし、同時に、複数の採用内定を取り消し、募集中だった空きポジションの採用を凍結した。
内情に詳しい関係者3人がInsiderに証言した。
レイオフの対象となった従業員は、給与4週間分を基本に、勤続年数1年ごとに1週間分を追加した金額を解雇手当(退職金)として受け取る。未消化の有給休暇も買い取りとなる。
オラクルにこの措置についてコメントを求めたが得られなかった。
ヘルスケア部門は、283億ドル(約3兆8000億円、当時)の巨額買収を経てオラクル傘下入りした医療情報技術大手サーナー(Cerner)を抱える。
5月17日付記事で報じたように、オラクルの現役および元従業員4人の証言によれば、同社は2022年6月の買収手続き完了後から最近まで、サーナー従業員の昇給・昇格を凍結し、数千人規模のレイオフまで実施していた。
今回の数百人規模のレイオフは、数年来トラブルを抱える米退役軍人省とのプロジェクトに関係して発生したもののようだ。
退役軍人省は、その名称からは(外国人には)想像がつかないが、全米最大の医療システムで、1200以上の医療機関を通じて年間900万人以上の退役軍人向けケアを提供する。
同省は2018年にサーナーと契約を締結し、1970年代後半までさかのぼる電子医療記録システムのリプレースに着手したものの、サーナーによる導入・展開の遅延や技術的トラブルの発生、それに伴う費用の増大など、問題が相次いだ。
米上院は2022年、このプロジェクトの透明性向上を図るため、監視を強化する超党派法案を可決。バイデン大統領の署名を経て成立した後、オラクルのエグゼクティブバイスプレジデント、マイク・シシリア氏が米上院退役軍人委員会の公聴会に出席して証言するなど、事態が深刻化していた。
直近では、サーナーの新システムを導入済みの複数の医療機関で問題が発生したため、退役軍人省は今年4月にシステム展開を無期限停止する措置を取った。
同省とサーナーは翌5月に交渉を経て従来のリプレース契約を見直し、米政府が退役軍人省を介してサーナーにより詳細な説明を求めることができるようにした。
説明が長くなったが、こうした経緯があって、サーナーの政府関連のプロジェクト契約が縮小したことで、今回の数百人規模のレイオフが必要になったと、ある関係者は話す。
サーナー買収はオラクル創業以来最大規模のディールで、同社の入れ込みようも半端ではない。買収交渉が最終合意に至った際のプレスリリース(2021年12月20日付)で、サフラ・カッツ最高経営責任者(CEO)はこう強調した。
「ヘルスケアは世界で最も大きく重要なバーティカル市場(特定の業種に特化した専門市場)で、その規模はアメリカだけで3.8兆ドル(約530兆円)にもなります」
また、ラリー・エリソン会長兼最高技術責任者(CTO)もその直後、サーナーと協力してオラクルのクラウド上に「革命的な」医療情報システムを構築し、医療機関や公衆衛生当局が組織の枠組みにとらわれず患者データにアクセスできる仕組みを新たに創出するとの壮大なビジョンを語っている。