中国の習近平国家主席。
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- 中国経済はこれまでのような成長促進要因から脱却しつつあると、UBSのアナリスト、タオ・ワンはフィナンシャル・タイムズで指摘している。
- つまり、中国政府が以前の経済低迷期に行ったような景気刺激策を打ち出す可能性は低いということだ。
- 「大規模な景気刺激策では、根深い構造的問題に対処できない」
UBSインベストメント・リサーチ(UBS Investment Research)のエコノミスト、タオ・ワン(Tao Wang)によると、中国経済は周期的な不調に陥っているわけではないため、大規模な景気刺激策を行ったとしても成長鈍化が解決することはないという。
代わりに、政府は控えめなインフラ支出によって景気を下支えすることになるだろうとワンはフィナンシャル・タイムズへ寄稿している。
「最も重要なのは、北京の政策立案者たちが、この経済的苦境が単なる循環的なものではないと理解しているということだ。大規模な景気刺激策では、根深い構造的問題に対処できない。望むと望まざるとにかかわらず、中国は不動産開発投資や地方政府主導の成長から脱却しようとしており、それは痛みを伴うプロセスになる」
中国の成長は、第1四半期に好転したものの、その後、工業生産高、小売売上高、投資額、輸出額のすべてが急減速したことによりますます鈍化している。
経済活動を活性化させるため、中国の中央銀行は6月15日に中期貸出制度(MLF)の金利を引き下げた。また、政府当局者はインフラ刺激策や不動産市場の規制緩和について議論している。
しかし、政府が以前の不況時のような救済策を打ち出す可能性は低いとワンは考えている。それは以下のダイナミクスの変化によるものだ。
まず、すでに多額の債務を抱えているため、政府がこれ以上支出を増やせる余裕は限られている。加えて年金や医療費も重くのしかかっている。
一方で2020年には住宅所有率がすでに80%に達し、人口も減少しているため、住宅セクターは需要の低迷に苦しんでいる。
そして、企業や家計の支出意識や資金需要が低下しているため、政府の支援金は、持続可能性の低い地方政府の支出に向かうだけかもしれない。
これらのことからワンは、中国政府は財政支出を増やす代わりに、適度な景気刺激策と構造的な問題を解決するための政策を実施すべきだと主張している。
「これには、民間セクターの参入障壁の撤廃と法的保護の強化、医療・社会保障支出の増加、労働の流動性と地方移住者の消費力を高めるための『戸口(フーコウ)』(戸籍)改革の推進などが含まれる」
長期的に見ると、大規模な政府支援から離れることは、中国の経済にとって有益かもしれないと彼女は言う。非効率的な市場参加者が排除されることで民間部門の発展が促され、より多くの社会支出が可能になるからだ。
「このような国家と市場の役割の再編成は歓迎すべきことだ」とワンは述べている。