アップルのWWDCでスピーチするボブ・アイガーCEO。
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「Apple Vision Pro」が6月5日に華々しく発表され、多くの興奮が巻き起こった。しかし、ディズニー(Disney)関係者の中には、そこで予告されていた機能が実際に提供されるのかどうかを疑問視する者もいる。
アップル(Apple)の未来的な複合現実(Mixed Reality)ヘッドセットの発表の中で、ディズニーのボブ・アイガー(Bob Iger)CEOは、Disney+(ディズニープラス)のコンテンツが、このデバイスの発売初日から利用できることを明らかにした。
アイガーはこのヘッドセットによって、宇宙空間のような環境の中、巨大なバーチャルスクリーンで映画やテレビを見たり、水中ツアーのようなアクションに参加したりできるようになるとアピールした。彼はまた、VR(仮想現実)がスポーツ観戦の方法を変え、コートサイドで観戦したり、アクションを見るカメラアングルを選んだりできることを披露した。
アイガーは2022年11月にディズニーのCEOに復帰して以来、大幅な人員削減と予算削減を強いられてきただけに、アップルの開発者向け年次イベントWWDCへの登壇は待望の晴れ舞台だった。
しかし、Apple Vision Proに取り組んでいたディズニーのイノベーション・チームは解散させられ、その創設者とリーダーはコスト削減の一環として会社を去っている。Insiderは、Vision Proプロジェクトに関する希望と懸念、そして同社におけるイノベーションの将来について、現職と最近退職した5人のディズニー関係者に話を聞いた。
Vision Proのデモ映像。
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ディズニーのプロダクト・アドバンスド・イノベーション・チーム(PAINT)は、デイブ・ランクフォード(Dave Lankford)の下で2022年に設立され、VR、AR、AI、その他のテクノロジーを使った製品や体験を開発していた。Vision Proとのパートナーシップはその最新プロジェクトだった。
WWDCにおけるディズニーの発表は、意図的に曖昧なものになっている。もちろん、どんな派手な技術の展開でもそうだが、約束された機能のいくつかは実現しない可能性がある。しかしディズニー内部には、スタッフやリソースが縮小される中で革新的なサービスを提供しなければならないというプレッシャーがあるようだ。
他のイノベーション・プロジェクトは、ディズニーの広範な人員削減の一環として中止または保留に追い込まれており、興味深いものを開発する機会は現在「大きな危機に瀕している」とある内部関係者の1人は語る。
ディズニーはこれまで、アニメーションの進歩からテーマパークの乗り物の進化まで、多岐にわたる分野で革新を続けてきた。
しかし、2023年初頭にはディズニーのメタバース・チーム(ネクスト・ジェネレーション・ストーリーテリング・アンド・カスタマーエクスペリエンス部門として知られる)が解散し、ダーク・ヴァン・ダール(Dirk Van Dall)率いるアドバンストリサーチ・チームも解散。そしてイノベーション・チームも解散したことで、ディズニーといえば長らく連想されてきた新規アイデアの創出から後退していると一部の関係者は感じているという。ネットフリックス(Netflix)やアップルのゲームやハードウェアの動向が見出しを賑わせているというのに、だ。
ディズニーに11年勤務したベテラン、マイク・ホワイト(Mike White)が率いていたメタバース・チームは、新しいフォーマットでのインタラクティブ・ストーリーの開発を担当する約50人のチームだったが、3月に解体された。別の関係者はこう話している。
「革新性や反抗的なイノベーションを受け入れる余地はないようです」
ディズニーのVision Proに関する取り組みを知る関係者は、このプロジェクトはまだ進行中であり、ディズニー社内にはまだこれに取り組んでいる他のチームがあると話す。
内部関係者はまた、2月にストリーミング部門のCTO、ジェレミー・ドイグ(Jeremy Doig)が退職した後、技術およびプロダクトの監督を任されたアーロン・ラバージ(Aaron LaBerge)の下での新体制にも懸念を抱いている。
関係者らによると、ラバージの新体制は、以前は特定のプラットフォームやプロジェクトに配属されていたスタッフが、ディズニーのさまざまな業種や事業にまたがって働くシェアードサービス・モデルを採用しているという。「全員が、あらゆることに取り組むことになる」と3人目の関係者は語る。
サービスの一元化は、コスト削減をして効率化を追求する企業では一般的な戦略だが、ディズニーのこの動きは、かつて物議を醸した「ディズニー・メディア&エンターテイメント・ディストリビューション(DMED)」を思い出させるため、一部の関係者の反発を買っている。
アイガーの前任者ボブ・チャペック(Bob Chapek)の遺産であるDMEDは、社内からも、ハリウッドのクリエイティブ・パートナーからも広く嫌われていた。アイガーはCEOに返り咲くと、真っ先にDMEDを解散させた。
ディズニーの内部関係者の中には、ラバージの下での新体制が、DMEDが引き起こしたような緊張を生み、さまざまなプロジェクトやプラットフォームを担当する人々を弱体化させるのではないかと懸念する者もいる。
この体制には、ESPNからマーベル(MARVEL)、そしてナショナル・ジオグラフィックに至るまで、ディズニーの膨大なプラットフォームや製品を横断してディズニーの顧客にサービスを提供することに社員が思いを致し、リソース配分のための統一的なアプローチを確認する狙いがあるのだと、社内で説明されてきた。
しかし一般の消費者が、これらの多種多様なブランドをどのように認識しているかを考えると、この考え方が実を結ぶかどうか疑問視する声もある。
「DMEDが引き起こした問題を解決したと思ったら、今度は別の状況が浮上中です」