AI革命時代、半導体をめぐる各国の戦いをどう読み解くか。『半導体戦争』著者に聞く

クリス・ミラー

『半導体戦争』の著者、クリス・ミラー氏。

ダイヤモンド社、クリス・ミラー氏提供

いま、『半導体戦争(原題:Chip War: The Fight for the World’s Most Critical Technology)』が世界各国で話題になっている。その著者クリス・ミラー氏とは、歴史学者ニーアル・ファーガソン氏率いるコンサルティング会社Greenmantleで共に働く同僚という渡邊裕子さんに、前編にひきつづきミラー氏へのインタビューを交えた本書の読みどころを紹介してもらう。


社運を賭けたアンディ・グローブの決断

『半導体戦争』の大きな魅力は、半導体産業を築き、引っ張ってきたさまざまな企業がどのようにして生まれたか、どのような人物たちがその舵取りをし、成功あるいは失敗に導いたかという過程をドラマチックに描いているところだ。

登場する企業、登場人物の数は多い。なにしろ1940年代から今日に至る半導体の歴史について語ろうというのだから。

半導体物理学を確立し、トランジスタを発明したことでノーベル賞を受賞するウィリアム・ショックレーに始まり、フェアチャイルド・セミコンダクター、インテル、テキサス・インスツルメンツ、HP、AMD、マイクロン、クアルコムなど、半導体産業をけん引する企業を築いた数多くの経営者・技術者たち、それに今注目を集めているNvidia(エヌビディア)をつくったジェンスン・フアン(黃仁勳)まで、それぞれが人間味をもって描かれている。

ある時、クリスに「この本に登場する人々の中で、どの人が一番印象的だったか」と聞いたジャーナリストがいた。クリスは、ロバート・ノイスの名前を挙げた。フェアチャイルド・セミコンダクター(1957年創業)とインテル(1968年創業)を築いた共同創業者の一人だ。

ゴードン・ムーアとロバート・ノイス

インテルを共同創業したゴードン・ムーア(左)とロバート・ノイス。「ムーアの法則」の提唱者として知られるムーアは2023年3月、94歳で亡くなった。

Intel Free Press

ノイスは1990年に亡くなっているので、クリスは彼にインタビューしたわけではないのだが、リサーチをしているうちに「この人に会ってみたかったな」と思ったのだという。実は私も、ノイスは登場人物の中で最も興味深く思える人だった。なぜか。クリスが述べた理由は、私が考えていたのと同じことだった。

この本を読むとつくづく感じるのは、「科学技術が進化するだけではテクノロジー産業は築けない」ということだ。研究による製造技術の革新はもちろん必要だが、そこに商業的センスが加わって初めて、テクノロジーは実用化され、改良され、次のテクノロジーを生む。

ノイスは技術者で、半導体集積回路(IC)の発明者の一人であり、その技術的功績もたしかに卓越しているのだが、彼の本当の非凡さは、まだ存在しない、誰も見たことのないマーケット、未来の需要を見通すビジョンだったと思う。

精度の高い半導体を作れるだけでは商売にならない。半導体の力を何にどう使えるか、その用途をイノベーティブに発想し、市場につなげる直感的な力。起業家精神とも呼べるかもしれない。その点でノイスは傑出していたし、彼という人がいなければ、半導体産業の歴史も変わっていたはずだ。

アンディ・グローブ

マイクロソフトを創業したビル・ゲイツ(右)と語らうアンディ・グローブ(2001年撮影)。グローブは、インテル創業直後に3人目のメンバーとしてムーアとノイスに加わり、1979年から社長(プレジデント)、1987年からはインテル史上3人目のCEOを務めた。

REUTERS

本書に登場する企業の中で特に重要な一つがインテル(1968年創業)なのだが、そのインテルの経営陣にとって、社の運命を左右する重要な節目が、1980年に訪れる。インテルはメモリチップ事業で日本にシェアを奪われ、低迷期に入っていた。

この時、社長(プレジデント)を務めていたアンディ・グローブは、「自社を破壊するか、このまま破綻するか、二つに一つだ」と悟る。そして「インテル自身を破壊する」ことを選ぶ。創業以来インテルのアイデンティティであったメモリチップ事業から撤退し、代わりに、1980年に萌芽を見せ始めていたPCビジネスに賭けることにしたのだ。

この決断について彼はのちに「断腸の思い」だったと回顧したそうだが、彼の大胆な賭けはみごとに当たった。グローブはインテルを徹底的に再編し、その結果、彼らはPC向けのチップ市場を事実上独占する企業となった。この時もしPC革命に乗るチャンスを見送っていたら、インテルは破綻していたかもしれない。

Nvidiaを1兆ドル企業へと押し上げたもの

ジェンスン・フアン

Nvidiaのジェンスン・フアン社長兼CEO。3人の創業者のうちの1人。1993年の創業から30年で時価総額1兆ドルを誇る企業へと成長を遂げた(2018年撮影)。

REUTERS/Rick Wilking

——アメリカの半導体産業は「PC革命」の波に乗ることで大いに成功を収めました。今、私たちはもう一つの革命「AI革命」が起きるのを目の当たりにしています。この革命における潜在的な勝者は誰だと思われますか?

クリス・ミラー(以下、ミラー):最大の勝者はおそらく、AIを実用的に使う道を見出し、マネタイズ(収益化)できたソフトウェア企業になるでしょう。昨今話題になっているChatGPTは、遊ぶには楽しいですが、おもちゃのようなものです。

究極的に、AIはマネタイズされ、我々の経済の形を変えることになるはずです。無数のやり方で。ただ、それは、今の私たちの想像を超えるものになるでしょう。言い換えるなら、私たちには、その姿がまだ具体的に想像できていないと思います。

企業は、自分たちのAIシステムをトレーニングするためのハードウェアを必要とするようになるでしょう。そのためには、巨大なデータセンターが必要になります。マイクロソフトやグーグルが持つようなデータセンターです。それらにはもれなく半導体が必要です。

最近株が高騰して注目を集めているカリフォルニア州のNvidiaは、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)開発における最大手のひとつです。1993年に創業した時には、ビデオゲーム・メーカーを主な顧客としていましたが、ある時、自分たちの技術が、AIシステムの効率的な訓練に使えることに気づき、そこから特殊なロジックチップの新たな用途を開拓したのです。

今や、世界中ほとんどのデータセンターにあるAIシステムをトレーニングするための半導体をNvidiaが設計しています。Nvidiaが米国で最も時価総額の高い半導体メーカーになった理由は、「データセンターには今後より多くのGPUが必要になる」と広く考えられているためです。

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