スクラムスタジオ主催のクローズドイベント「Startup Showcase 2023」が都内で開催された。
撮影:小林優多郎
未来の「都市」と「生活」のためにどんな技術が必要なのか。
多様な社会のニーズに応えるため、日々スタートアップ企業は新技術の開発やビジネスの確立に奔走している。
そんな中、スクラムスタジオは6月21日に海外のベンチャー企業を集めたマッチングイベント「Startup Showcase 2023」を開催した。
そこには、VCであるスクラムベンチャーズが実際に投資する企業のほか、日本でのパートナーを探しに来た18社が集まった。
その中から注目のスタートアップ企業とその技術を5つ紹介しよう。
軍用にも活躍する空気圧のパワードスーツ
取材開始直後1〜2分で装着が完了したパワードスーツ。
撮影:小林優多郎
アメリカのRoam Robotics(ロームロボティクス)は、身体機能を拡張するウェアラブルロボット、いわゆる「パワードスーツ」を展示していた。
今回展示されていたパワードスーツは脚力を補助するもので、最大の特徴はその軽さにある。
軽さの理由は空気圧を使うことと、重量のあるモーターやバッテリー類はリュックに収められているために背負って使えるためだ。
しゃがんだ状態から立ち上がる(屈伸)動作や、踏ん張るときの動作をアシストしてくれた。
撮影:小林優多郎
実際に装着してみたところ、空気が抜ける音はやや大きく感じたが、軽いので装着は簡単。装着してから動作開始までのラグは数十秒で済んだ。
同社は軍用デバイスとして2万5000〜5万ドル程度で展開しているが、性能を調整することで6000〜8000ドル程度の医療・福祉向けのデバイスとしての展開も計画している(各種補助金が適用できるよう調整中)。
日本においても、軍事・医療系のほか、倉庫などの運送の現場で利用できないか、パートナーシップ企業の拡大を目指している。
自動運転もするAIベビーカー
AIベビーカー「Ella」はCES 2023のイノベーションアワードを受賞している。
撮影:小林優多郎
カナダのスタートアップ「Glüxkind」(グリュクスキンド)は、まるで自動運転車のようなベビーカー「Ella」を展開している。
Ellaは電動自転車のように上り坂では前進する力をアシストし、逆に下り坂では落ちていかないように安全にブレーキがかかる仕組みになっている。
本体にはさまざまなセンサーが搭載されているというが、手元のハンドルにはカメラが付いており、つかむ人とベビーカーが一定距離を保ちながら自動で前に進むオートパイロットモードも搭載している。
ハンドル部の中央にはカメラがある。左右のLEDは停止の時に赤くなるなど、ベビーカーの状態を示す。
撮影:小林優多郎
そのほかにも、ベビーカーと接続したアプリで操作することで、乗っている幼児の健康を見守ることや、ホワイトノイズを再生することでの安眠導入機能を搭載している。
今回展示されていたモデルは最上位モデルとなり、3800ドルとかなり高価なものだった。
Glüxkindの共同創業者兼CEOのKevin Huang氏は、Business Insider Japanの取材に対し「テスラのModel Sに対するModel 3のように、似た機能を載せた別バージョンを今後発表する予定だ」と、比較的安価な価格帯の製品についても予告した。
心臓疾患に関する研究データの男女格差解消を目指す
センサー内蔵のブラジャーを開発するBloomer Tech。
撮影:小林優多郎
未来の生活のWell-beingを語る上で欠かせないのが、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」だ。
Startup Showcase 2023の会場には、フェムテックに取り組むアメリカのBloomer Tech(ブラーマーテック)が出展していた。
Bloomer TechはMITからスピンオフした企業で、心血管疾患検知用の心臓モニタリングセンサーを内蔵したブラジャーを開発している。
取得データのイメージ。
撮影:小林優多郎
創業者兼CEOのAlicia Chong Rodriguez氏は「(心臓疾患などに関する)研究データは男性のものが多く、女性のデータが圧倒的に足りない」と現状の課題感を会場で話していた。
現在はアメリカの病院や研究機関と協力し、研究に耐えうるデータの取得ができるようにデバイスの開発に努めている。
具体的な予定はまだないものの、研究やデバイスの開発が進めば、コンシューマー向けにも「女性の健康状態のわかる下着」としての展開も検討しているという。
元家具職人が展開する“タッチディスプレイ化技術”
景観を損ねず省スペースで、さまざまな素材の表面を「タッチディスプレイ」化できる。
撮影:小林優多郎
アメリカのスタートアップ・Touchwood Labs(テックウッドラボ)が展開していたのは、木や石、布などの素材をタッチディスプレイ化する技術だ。
見た目はやや地味ではあるが、創業者兼CEOのMatthew Dworman氏は、元・家具職人という異色のスタートアップでもある。
仕組みはシンプルで、ディスプレイ化したい素材の直下に、超薄型のタッチセンサーとマイクロレンズを仕込む。そして、そのさらに下からLEDで映像を投射することで、映像が任意の素材の表面上に映し出されるという仕組みだ。
最大25点の接点を認識できるため、両手や複数人での操作も可能となっている。Dworman氏は、レストランや観光地など景観を損ないたくないような場所での活用や、高齢者向けの認知症予防用ゲームなどに使えると話している。
プロトタイプに使っているマイクロレンズ。
撮影:小林優多郎
現在、この仕組みはまだ量産段階には入っておらず、今回展示されていたプロトタイプの製作費は1000ドルほどかかっているという。
日本を含む各国でパートナーを探し、量産体制を整えることで、(プロトタイプと同様のサイズ感で)50ドル程度に抑えていきたい考えだ。
IRLに特化した友だちマッチングサービス
222のホームページ。
出典:222
最後に紹介したいのが、ハードウェアの展示が比較的多かった会場の中で異彩を放っていたのが222(トゥートゥートゥー)というアメリカのスタートアップだ。
投資をしているスクラムベンチャーズは、222を「リアル友だち作りAIマッチングサービス」と説明している。
日本で言うと「マッチングアプリ」に近いのだろうが、222は公式ページなどで「This is not a dating app.(出会い系アプリではない)」「This is not networking.(SNSなどのネットワーキングアプリではない)」としている。
入会時の質問をするチャットBot。
撮影:小林優多郎
具体的には、222はIRL(In Real Life=現実世界)に特化したアプリで、いわゆるプロフィールページやダイレクトメッセージなどの機能が存在しない。
入会時にチャット形式で質問に答え、自分の趣味嗜好をAIに伝える。そして、AIが分析したデータと相性の良い人間との「イベント」(4〜8人が参加できるレストランやバーなどのパブリックスペースでの食事など)を提案する。
222の共同創業者兼COOであるDanial Hashemi氏。
撮影:小林優多郎
222の共同創業者兼COOであるDanial Hashemi氏は、創業の理由を「コロナ禍で、若者世代はリアルでのコミュニケーションを求めていた」からと会場で話した(222は2021年創業)。
現在の収益方法はイベントに参加する度に必要な「チケット」に課金するといった形式で、ロサンゼルスやニューヨークでサービスを展開している。
222はまずアメリカ国内で展開地域を広げていく考えだという。
Hashemi氏に「日本での展開はありうるか」と質問したところ、「全世界に広げていきたいと考えているが、各国の文化・習慣的な課題は乗り越えないといけない」と回答した。